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『もうひとつの街』

2025年02月07日 | 読書日記ー東欧


ミハル・アイヴァス 阿部賢一訳(河出書房新社)

《あらすじ》
雪降りしきるプラハの古書店で、菫色の装丁がほどこされた本を手に取った〈私〉。この世のものではない文字で綴られたその古書に誘われ、〈もうひとつの街〉に足を踏み入れる。
硝子の像の地下儀式、魚の祭典、ジャングルと化した図書館、そして突如現れる、悪魔のような動物たち――。
幻想的で奇異な光景を目のあたりにし、私は、だんだんとその街に魅了されていく……。

《この一文》
“――けれども、生活を一変させ、新しいものにしようと決心するとき、私たちが否定してきた場所から吹いてくる息吹のなかで、なにかが熟成しているのをわずかながらも感じ取るのだ。”


 「あ、ここは前にも読んだことがあるような…」とところどころで感じながらも、物語の95%は初見であるという感触でしたので、たぶん前にも半分くらい読んだところで放置してあったと思われる『もうひとつの街』をようやく読破しました。しかしきっと私はまたこの物語の90%は忘れてしまうのでしょう…。

 まず冒頭で主人公が「菫色の装丁の謎めいた本」と出逢うというところにぐっときます。本の中には見たこともない謎の文字が記され、謎を追って〈私〉は〈もうひとつの街〉へと迷い込んでいきます。

 冷たく美しい幻想的な描写が連なっていました。想像力の限界にチャレンジです。読んでも読んでも摑みどころがなくさらさらと砂のようにこぼれおちていきました。読んでいる間からすでに忘れていってしまいそう(そしてこれを書いている段階でもう思い出せない)。でも、夜の、冷たい、置き去りになった陶器の表面を触るようにつべつべした感触だけが残っています。

 プラハの街の美しさ。あそこになら〈もうひとつの街〉はたしかにありそう。雪の降るプラハの街をさまよえば、不意にもうひとつの街へ入り込んでしまうこともあるかもしれない。

 面白かったです。


 あとがきによると、この物語の「8章と9章」が『21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 時間はだれも待ってくれない』(東京創元社)に収録されているそうなので、私が「読んだことある」と感じたのは、ここで読んだことがあったのかも。その『21世紀東欧~』も読んだことがあるかどうか記憶が定かではないのですが。あれもこれも忘れてしまうな、私は。何度も楽しめてお得!!




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