ラムネが好きな息子。2歳になった頃に初めて食べさせてやったら、とても美味しかったらしい。すごく好きなのにごくまれにしか与えないせいか、出先で暴れそうな気配を感じた時などに「ラムネ、食べる?」と聞くと急にハッとしておとなしくなるので、一粒ずつもったいぶって分けてやるのである。「もっと、もっと!」と要求してくるのを制して、ひとつずつひとつずつ手渡してやる。4、5粒ほどで「これで終わりだよ」と私が言うと、息子は最後の一粒を食べずにずっと握りしめ、時折食べる振りをしながらもなかなか口に入れない。そのままそのうちに眠くなって持っていたラムネをどこかへ落としてなくしたりするのであった。
そんな息子を馬鹿だなあと思うと同時に、なにやらわき上がってくる感情もあったりする。こういう思いもラムネのようにいずれすぐに溶けて消えてしまうに違いないけれど、ひんやりした甘みが喉を通っていくような感覚は、くたくたになっている私をいつも少し元気づけてくれる。
父と母に似て、大事な物を最後の最後まで取っておく息子。RPGなら回復薬をラスボス戦において全滅寸前でもきっと使わないだろう息子よ。今日は何を大事に握りしめているのかと思ったらドングリだった。それを最後には齧ってしまい、不味かったのか半分になったのを私によこしたが、残り半分はしぶとく噛み続けようとして吐き出さない。私の食事は時々吐き出すくせになぜドングリにはそれほどの執着をみせるのか。そんなに飢えているのか息子よ! その直前にはラムネだって食ったじゃないか!
苦いのも渋いのも、甘いのも酸いのも、大切な思い出となって溶け込んで、どこかにずっと大事にしまわれてゆきますように。