The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『長い長い殺人』宮部みゆき

2018-04-05 | ブックレヴュー&情報

(光文社文庫プレミアム)2011年7月12日 720円

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
轢き逃げは、じつは惨殺事件だった。被害者は森元隆一。事情聴取を始めた刑事は、森元の妻・
法子に不審を持つ。夫を轢いた人物はどうなったのか、一度もきこうとしないのだ。隆一には
八千万円の生命保険がかけられていた。しかし、受取人の法子には完璧なアリバイが…。刑事
の財布、探偵の財布、死者の財布ー。“十の財布”が語る事件の裏に、やがて底知れぬ悪意の
影が。

保険金殺人の犯人は、この男しかいないのだが、いつも完全アリバイがある。少年、刑事、旧友
など10人が持つ財布が事件を語る輪舞形式の異色小説。

刑事の財布(1989年12月号「小説宝石初刊)
強請屋の財布
少年の財布
探偵の財布
目撃者の財布
死者の財布
旧友の財布
証人の財布
部下の財布
犯人の財布
再び、刑事の財布(エピローグ)

随分久し振りに手に取った宮部作品です。
多分その昔に読んだはずなのですが、ずっかり忘れていて(お恥ずかしい)初心に帰っての再読
です。

最初の「刑事の財布」の書き出しにある、「私のあるじの・・・・」という表現で、あれ?誰の
視点だっけ? って思う程まるで覚えていなかった事を実感しながら読み始めました。
 
つまり、この作品の語り部は「財布」という珍しい視点から描かれている異質なミステリーです。
犬や猫等動物視点で描かれた作品もあったとはおもいますが、今作はサブタイトルにもある様に、
財布たちが自分の持ち主に起こる出来事を語るという面白い形式でその章ごとに異なる事件を
扱っている様に思える各章が最後に最終的なまとまりになるという内容です。 ”寄木細工の様
な” と評されている様に 各所に散りばめられた情報から次第に全体の姿が見えて来るという精
巧なミステリーだと感じさせられます。
 
財布たちが自分の持ち主に起こる出来事を語る形式ですが、財布と云う立場であるのでコートの中
であったり、バッグの中であったり置かれている状況なので視点が限られており その場で財布が
得られる断片的な情報により徐々に真相が明らかになるという形式は独特の魅力があります。
財布自体にも個性があり、語り口や思考形態もそれぞれ異なるのも面白く感じつつ、持ち主に対す
る愛情、思いやり、苛立ち等が健気でもあり、可愛らしくもあり、時に哀しく切ないのですが、同
時にホッコリさせられもするのです。

本書で語られるのは保険金交換殺人。
後書きによれば、著書のインタビューによると発想のヒントになったのがいわゆる【ロス疑惑】
(三浦和義事件)との事で、久し振りにあの事件を思い出しながら、各所に事件をイメージさせる
部分を感じる事が出来ました。
この作品が書かれたのが著者28歳の新人作家時代との事。 デビュー直後からの才能を改めて感
じさせられた作品です。

刑事も探偵もカッコ良い存在では無く、中年で健康や経済的な不安を抱えながら執念深く事件を
追いかけ、そして最後に2人の人間的な優しさを感じさせられホッとします。 

この作品を元に2007年WOWOWでドラマ化されたそうですが、全く知らなかったし観ても居ません
のでどんな風に映像化されたのか想像も出来ません。

それにしても、
自分のお財布、どう感じているんだろうなぁ?
不満や心配や文句があるんだろう・・・(失笑)と、フト気になりました。