諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

252 幸福をどうするか #05 統計の輪郭(Unicefの家族や友達)

2024年12月08日 | 幸福をどうするか
晩秋 日光白根山   忽然と表れたカルデラ湖と大きな溶岩ドーム。この上が頂上らしい

前々回から国内の統計、そして世界幸福度ランキングの統計を見てきた。
さすがに規模の大きな調査による統計で幸福という私的なことを浮かび上がらせるのに手が届きにくい面を感じた。
しかし、こうした統計は、各国の各地域の人々の公共的福祉を改善することが主たる目的であり、それはその意味では大変有効なものである。
ところが、である。これから見ていくユニセフのレポートではもっとリアリティがある。
読み取ろうとするとリアルに子どもたちの一人ひとりが想起させる優れたものである。

イノチェンティ レポート 16
子どもたちに影響する世界:
先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か

https://www.unicef.or.jp/library/pdf/labo_rc16j.pdf


第3章 子ども世界

前回は子どもたちの幸福感について、その実感を「結論」としてレポートした部分を見てきた。



今回はその外側の円として描かれる部分、つまり子どもの幸福の実感と密接する「行動」と「人間関係」とを見ていく。
子どもの幸福度を形成するものは何なのか、無数にあると思われる因子のうちこのレポートが何に注目していくのだろうか。

図:あまり外で遊ばない子どもと毎日外で遊ぶ子どもの平均幸福度



まずUnicefが注目したのが、子ども外遊びと幸福度との兼ね合いである。
日本のデータがなく、主に欧州諸国のデータだが、顕著な結果がみられる。
頻繁に外で遊ぶ子どもの方が、自分が幸せであると感じるのである。
注目したいのは、15か国の外遊びが多い子が「私の幸福度90点」以上なのである。
ギリシャやマルタでは97点!というのである。
あまり外で遊ばない子が80点程度であることをみると、圧倒的に外遊びと幸福度との相関がつよい。

野山で探検ごっこをしているのかもしれない、公園の遊具で遊んでいるのかもしれない、
いつもの集まる広場で鬼ごっこをしているのかもしれない、ストリートサッカーなのかもしれない、スケートボードなのかもしれい、昆虫や植物の採取なのかもしれない。
いずれにしても大人に干渉されない自分たちの世界を楽しんでいるに違いなく、そこに幸福度は高まるということであろう。

ところで、この中には室内遊びが含まれていないのはなぜだろう。これもまた特徴といえる。

図:9~16歳の一日当たりのインターネット平均利用時間(分)



対して、休日のインターネットの利用の時間の増加がある。「積極的にインターネットを利用している子」に特化した調査だが、予想どおりの結果でどの国でも(これも欧州諸国限定だが)10年前から1.5倍、休日に3時間もネット利用している。室内遊びの増加をインターネットが促進させているうように感じるし、学校でもネット環境が整えてこれを推奨している面がある。こうしたインターネット使用を含めて画面(テレビやゲームも含まれる)と対峙する時間を「スクリーンタイム」というらしいが、これと幸福度との関係がわかるのが次の調査である。

図:8種類の行動と若者の精神的幸福度の繋がり



8種類の行動のうち、精神的幸福度に一番マイナスなので「いじめられる」で、これが圧倒的である。そして、スクリーンタイムはやはりマイナスであるが、それほど顕著でないことがわかる。それにしてもプラスなのはすべて健康にかかわることだ。「自転車に乗る」が2番手なのは外遊びの代表として納得できる。(ただし、英国限定の調査のようだ)

つづいて、調査は「人間関係」に移る。

図:15歳の子どもの家族関係の質の違いと情緒的幸福度



これも欧州中心の統計であるが、家族関係と幸福度との普遍性がわかる。
情緒的幸福度は、気分の落ち込む頻度、苛立ったり不機嫌になったりする頻度、不安を覚える頻度、不眠の頻度の4つの質問での測定で、家族関係は、家族は本当に自分を助けようとしてくれる、必要とする精神的な支援やサポートを家族から得ている、家族に自分の問題を話すことができる、家族はすすんで意思決定の手助けをしてくれる、という4つの項目を平均して指標を作成したものという。
家庭環境に恵まれない子どもの孤独感が浮き彫りになっているようだ。
改めて、子どもの一番身近な人間関係は家族なのであり、幸福度にも直結する。

図:15歳の子どものいじめの頻度と生活満足



人間関係で幸福度を引き下げるのはいじめであることを示している。
この統計には日本を含めた欧州以外の国も調査されているようで、いじめは普遍的に議論の余地なく解消されるべきである。それにしても日本の低迷がさみしい。

人間関係の最後が学校である。

図:学校への帰属意識が高い子どもを低い子ども(15歳)の学力と生活満足度の差



これも興味深いデータである。
左が、学校が好きな子とあまり好きでない子での学力差(数学と読解力)で、右は、学校が好きな子とあまり好きでない子の幸福度(生活満足度)である。
学力の方ではどの国もあまり学校が好きでもない子がよく健闘していると言えるのではなか。現在の学校には満足していなが、未来に向けて努力している子もあるだろうし、逆に学校が居場所として機能しているが、学力は高くない子もあるだろう。
いずれにしてもそれぞれの学校の教師の頑張りが伺える。

一方、生活満足度でいうと開きが大きくなる。学校が好きな子の方が圧倒的に生活満足度が高い。学校の”主人公”になっていく実感を持てるか否かが重要である。
また、ここでも日本の低調が気になる。特に学校があまり好きでない子(学校への帰属意識が低い子ども)の生活満足度40%というのは世界のワースト1位である。だだし、日本の15歳は日々進路関係で悩んでいる時期である。

ここまで、第3章 子ども世界を見てきたわけだが、子ども活動も人間関係も社会とのかかわりの中にある。教育という枠ぐみだけでなく、より福祉的な視点が必要なことがわかる。

阿部 彩さん(東京都立大学 人文社会学部 教授 兼 子ども・若者貧困研究センター長)はレポートの中でこう解説している。

日本の子どもの幸福度を上げるために、必要なのは、最も幸福度が低い状況に置かれている格差の底辺にいる子どもたちとその家族の状況を改善することです。いじめに遭いやすい貧困世帯の子どもや、ワーク・ライフ・バランスなど考えることもできない非正規労働の保護者、子どもを保育所に預けることもできない家庭。一番底辺の人々の状況を改善し、格差を縮小することで、「すぐに友達ができる」子ども、困った時に頼れる人がいる大人、そして、生活に満足する子ども・大人が増えるのではないでしょうか。

次回は「子どもを取巻く世界」で地域が育む力について考えてたい。





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