雲は海よりも深く

失踪から早6ヶ月



彼は突然この町から

家族の前から姿を消した。


何らかの事件や事故に巻き込まれたのか

何者かに誘拐されたのか

某朝鮮半島に拉致されたのか

様々な憶測が飛び交った。



家族にも思い当たる節はあった。


妻は時折 両親を祀る仏壇を買い替えたいと言っており

その買い替えの機会は・・・と何度か話していた。


長女は傍若無人の極みとも言える有様で

先日 6回目の無免許運転で逮捕された。

首都高を160km/hで逆走したのだ。


次女は思春期に入り

父の事を「おじいちゃん」と呼び始めた。


それに伴い

孫は祖父を「ご先祖様」と言い出した。




それぞれの思いを胸に

失踪から6ヶ月が経った ある日のこと


山梨県警からの連絡で

波平の保護したとの連絡が入ったのは

12月初旬の頃だった。



山梨県警によると

波平は全身ヌルヌルの状態だったが命に別状はなく

時折 旧日本兵を彷彿とさせる言葉を話しており

かなり錯乱している状態だったと言う。


波平は軍服姿で軍刀を携えており

「自分は大日本帝国の・・・！」と

意味不明な言葉を連呼し続けた。



搬送先の病院で

波平は一時的な記憶障害で

2～3日入院すれば回復すると診断された。


「それはアルツハイマーと受け取っても良いんですよね！？」と

妻・フネが食いつくように詰問したのは言うまでもない。



後に判明した事だが

波平は失踪直前の5月下旬

マスオの名義で住宅購入資金と偽って

信用金庫から1,000万円を借り入れていた事が明らかになった。



波平が生存していた事に一番驚いたのは

意外にもノリスケだった。


「山梨まで移動したか・・・！」




波平生存の知らせはマスコミ各社にも伝わり

来年1月からは波平は復活するのでは？との期待の声も上がった。

また一方で、二次元なのに

そこまで盛り上がる必要性はあるのかとの疑問の声もあった。



クリスマス目前の12月中旬

波平は病院を退院し

都内で記者会見の席に臨んだ。



何故 失踪したのか？

山梨の山奥で何をしていたのか？

何故 全身がヌルヌルだったのか？

何らかの組織と集団生活をしていたと言うのは本当か？

子供達から「おじいちゃん」「ご先祖様」と呼ばれてるのは本当か？

普段どんな会社で どんな仕事をしてるのか？



会見の模様は生中継され

国営放送さえ、大相撲を中断して放送した。



重い空気に包まれる中

波平が今回の騒動を詫びようとした瞬間

記者団の最前列にいたノリスケが・・・！





凶弾に倒れる波平


窓を突き破って逃げるノリスケ

駆け寄る記者団



ノリスケは何故・・・？


いま明かされる

波平とノリスケの想像を絶する過去の因縁！




新春公開予定

『サザエさんⅡ ～敗れざる者たち～』




乞うご期待！