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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

仕事のなくなった警察が摘発対象を求めて2万人増員「共謀罪」

2017年07月06日 | 平和憲法
  《子どもと教科書全国ネット21ニュースから》
 ◆ 共謀罪で私たちの日常はどう変わる?
高山佳奈子(京都大学教授)

 国会で過去に3回廃案となったいわゆる共謀罪法案が、修正された形で再提出されました。政府与党はこれが今までの共謀罪法案とは違うとしていますが、内容は、国連や諸外国との関係でも、共謀罪立法としてしか理解されえないものです。共謀罪は、複数人が一定の犯罪の計画を立てて、誰かがそれを外部に示す何らかの行為をした段階で処罰対象となります。
 これまでの日本の犯罪対策は、予備罪でも危険を処罰する犯罪でも、保護されるべき利益に対する実質的な危険がなければならず、単なる「観念的な」危険では処罰しないこととしてきました。
 これは「法の適正手続の保障」を定めた憲法31条についての最高裁の解釈です。
 しかし、共謀罪は頭の中にある計画、文字どおり「観念的な」危険の徴表を処罰の対象とするものであって、憲法上問題があります。
 ◆ テロ対策は口実

 与党は本法案を「テロ等準備罪を処罰するもの」と言っていますが、立法の口実とされている国連国際組織犯罪防止条約はそもそもテロ対策を内容としておらず、本法案にもテロに照準を合わせた条文は全く含まれません
 テロ対策については13もの国際条約や安保理決議があり、日本は国内立法を行ってこれらをすべて実施しています。
 また、五輪招致が決まった2013年までの間に、五輪のための共謀罪立法が公的に議論されたことは一度もなかったと確認されています。
 それもそのはず、2014年に改正された「テロ資金提供処罰法」は、テロ目的で金銭・物品・土地・役務その他の利益を提供する行為や提供を受ける行為などを包括的に処罰の対象にしたため、もはや組織的なテロ目的の行為を新規立法によって新たに処罰の対象とする余地はないのです。
 したがって、今般の法案で新たに処罰の対象とされるのは、テロ以外の行為ばかりであることになります。
 しかも、国連の公式文書は共謀罪立法が義務ではないと明言しており、条約そのものも、各国には憲法の範囲内で犯罪対策をとるよう求めています。
 日本の場合、明治時代以来の広い共犯処罰制度と、抽象的な危険の発生だけで処罰できる危険犯や予備罪などの処罰とを組み合わせれば、条約の求める処罰範囲を十分に確保できます。
 歴史的に共謀罪を広く処罰してきたイギリスアメリカでも、共謀罪の適用されない人や地域の範囲を残しています。
 本法案で処罰の条件とされている「組織的犯罪集団」には、事前の指定や認定、過去に違法行為をなした事実などは一切必要なく、捜査機関は、一般人の集合がある時点からそうなったと判断すればターゲットにできることになっています。
 犯罪の計画の「合意」も、手段に制限がなく、SNSやメール、目配せでももちろん該当します。言葉によらない「黙示の共謀」や、メンバーが一度に集まる必要のない「順次共謀」、また、犯罪の実行が確実に予想されなくても成立する「未必の故意」による共謀が、広く認められています。
 以上の2点は、組織的犯罪処罰法の最高裁による解釈としてすでにそうなっているのです。
 さらに、今般新たに導入される概念である「実行準備行為」は、ATMでの現金の引出しや場所の下見など、それ自体として何の危険性も含まないあらゆる行為を含みます。
 ◆ 危険な行為はすでに処罰の対象

 現在の日本では、危険な行為はすでにほぼ網羅的に処罰の対象になっており、共謀罪立法を行っても治安は向上しません。もしこれを適用しようとすれば、危険でない日常的な活動を監視下に置いておかなければならないのです。
 なぜ、このように無用な処罰規定を広範に導入する法改正が急がれているのでしょうか。
 「政府に批判的な勢力を弾圧するため」という見方にも説得性がありますが、それだけではなく、「犯罪のないところに犯罪を創り出し、取締権限を保持するため」という動機もひとつの背景をなしていると考えられます。
 近年の犯罪統計によれば、犯罪認知件数はピーク時の2002年の半分未満に激減しており、戦後最低新記録を更新中です。
 暴力団関係者の数とそれによる犯罪も大きく落ち込んでいます。ところが、同じ期間に、警察職員の数は2万人も増えています
 仕事のなくなった警察が摘発対象を求めているかのように見えるのです。これは単なる憶測によるものではありません。
 近年、何の違法性も帯びていない行為の冤罪事件や、極めて軽微な違法行為を口実とした大幅な人権剥奪が現に起こっているからです。
 ◆ 人権侵害の多発する怖れ

 新しい犯罪を準備段階で処罰できる類型が約300も増えるとなれば、たとえ捜査機関が権限を濫用しなかったとしても、人権侵害が多発することは目に見えています。
 たとえば、刑事法学者の研究グループが、経済犯罪の手口を話し合っているのをたまたま聞いた人が、これを記録して通報すれば、研究目的の行為も監視対象となりえます。
 日本ペンクラブを始めとする多くの表現者の団体が反対声明を出しているのは、創作物で犯罪をテーマとしてとり上げることが困難になる心配からは当然でしょう。
 若い世代は、マンガ・アニメなどのパロディ(いわゆる二次創作)の計画が著作権法違反の罪の共謀罪として摘発の対象にされ、マイノリティによる創作・表現活動に対する弾圧が始まることを恐れています。
 合唱サークルが楽譜の違法コピーを計画した疑いでの摘発も可能です。
 マンション建設反対運動の計画は、組織的威力業務妨害の共謀罪とみなされかねません。
 ところがこれに対し、今回共謀罪処罰の対象から除外された犯罪類型は、警察などの特別公務員職権濫用・暴行陵虐罪や公職選挙法・政治資金規正法違反の罪など、公権力を私物化する罪、また、規制強化が国際的トレンドになっている民間の賄賂罪などです。
 これは国際社会によって求められているのとは正反対の方向性です。
 しかも、法案はプライバシー権の過度の侵害を含み国際人権規約に違反するのではないかとする国連特別報告者の質問に対して、日本政府は回答せずに抗議するという暴挙に出ています。
 国連との関係を悪化させてまで強行する立法とは何でしょうか。
 米国の諜報機関職員であったエドワード・スノーデン氏は、個人情報の大規模収集とその米国への提供が起こることを警告しています。
 このような中で、逮捕されてしまうのを避けるために、さまざまな萎縮効果が生じることが懸念されます。
 民主的で平和な社会を構築するには、子どもや若者も思ったことを自由に話し合い、人間の内面に切り込むような創作・表現活動が広く行われることこそ必要です。
 共謀罪立法は社会をその正反対の方向に進め、平和と民主主義の構築に重大な脅威をもたらすものです。(たかやまかなこ)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 114号』(2017.6)

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