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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

子どもの権利に全く精通していない「子ども家庭庁」の「基本方針」

2022年03月26日 | こども危機
  《「子どもと教科書全国ネット21ニュース」から》
 ◆ 「子どもの全面一元管理社会」の危険性をはらむ「子どもまんなか社会」
   子ども家庭庁設置にかかわって国に求めること

鶴田敦子(つるたあつこ・子どもと教科書全国ネット21代表委員)

 子ども庁の構想は、
 2021年4月、自民党の若手議員の勉強会が菅前首相に申し入れ、
 6月「経済財政運営と改革の基本方針2021」で「少子化対策」の項に取り込む、
 9月「子ども政策の推進に係る有識者会議」の設置と11月同報告書、そこで「子どもは家庭を基盤」を記述
 →12月閣議決定「子ども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(以下「基本方針」)で、
 子ども家庭庁と名称変更し内容を公表し(表1)超スピードで進んできた。
 年明けの国会に法案を出し2023年度から実施という無謀さは、7月予定の参議院選挙の目玉にする意図が露骨に見える。
 表1 子ども家庭庁へ移管する業務等
 内閣府(少子化・子どもの貧困・児童手当・認定こども園等)厚生労働省(虐待・ひとり親家庭支援・母子保健・保育所)の業務を一元化。
 内閣総理大臣の直属として内閣府の外局・内閣府特命担当大臣を必置、関連省庁への司令塔。
 *文部科学省の業務は幼稚園も含めて子ども家庭庁へ移管しない。
 そして表2に示すように、自民党政権が子どもの権利の保障を記述する例をこれまで筆者は知らない。一体どう受け止めればいいのか。
 表2「子ども政策の新たな推進体制に関す基本方針」
はじめに(2021・12・21)
・・・常に子どもの最善の利益を第一に考え、こどもに関する取組・施策を我が国社会の真ん中に据えて(以下「こどもまんなか社会」という。)・・、子どもの権利を保障し、こどもを誰一人取り残さず、健やかな成長を社会全体で後押しする、そうした、子どもまんなか社会を目指すための新たな司令塔として子ども家庭庁を創設する。

 ◆ 「縦割り解消」以前に「政治」を変えること

 「基本方針」は、児童虐待・貧困・いじめ・不登校・高校中退・非行などの困難の種類や制度…各関連分野や省庁の「縦割り」によって生じる弊害があるので、諸問題を一本化することを述べる。
 しかし、「縦割り」の弊害を具体的に書いてはいない

 重要なのは、上記の子どもの困難の要因がどこにあると考え、それについて子どもの権利の保障の下にどのような政策をとろうとしているかである。
 「基本方針」は、子どもの困難の要因として、真っ先に、子ども・家庭・家庭関係性など表にみえる個人的な要因をあげ、最後に生活困窮などの環境要因を述べる。
 30数年間闊歩してきた新自由主義は、ことごとく要因を棚上げし、国民に「自己責任」「自立」の対応を求め国は“やっているふり”の「支援」という政策をとってきた。
 「基本方針」の中に何度も出てくる「自立した個人」と「支援」は、これまでと同じ路線上にあると筆者はとらえた。
 ところで、生活困窮の環境は「自立した個人」の対応ですむ話ではない
 非正規雇用者の増加政策、利用しにくい生活保護制度の温存、消費税率アップの政策の強行、また、この間のOECDの諸国等に比べて少ない教育予算(2017年ではGDP比で43力国中下位から5番目一2020年調査一)等々、政府自らが率先して施行してきた政治の弊害が根本要因である。
 大人の権利をないがしろにして子どもの権利の保障ができるはずはない。

 しかも、肝心の学校教育について、子ども家庭庁は監督権をもつが拘束力はなく縦割りのままである。
 自民党若手議員の5月の提言文書「子ども庁創設に向けた第二次提言」では、「政治がこの状況を放置してきたことを反省し…子どもたちのためにすべきことは『ChildrenFirst(子ども最優先)』の政治に舵を切ることである」と述べていた。
 肝心なことは、まさに政治を変えることにある。


 ◆ 政府・行政に求める子どもの権利条約の研修

 では、「基本方針」では子どもの権利の保障の下にどのような政策をとろうとしているだろうか。
 「基本方針」は、表2以外に、基本的人権を保障する日本国憲法に則り、生命・生存・発達の保障、最善の利益が第一の考慮、こどもが自由に意見が言え大人はそれを十分考慮すること、個人として尊重され不当な差罰を受けないことを述べる。
 これらが、人々のこども家庭庁への一定の評価になっていると思われる。しかし、縷々書かれている提案はほとんどが具体的でなく、且つ、それらと子どもの権利保障との関係は説明されていない。
 さらに、日本の子どもの権利保障の実態、さらに国連の子どもの権利委員会からの日本への勧告についての言及も皆無である。
 子ども家庭庁はその機能を成育部門支援部門企画立案・総合調整部門3つに分け、出産前から…18歳までと区切らず、若者が円滑な社会生活ができるまで、切れ目なく、アウトリーチ、ブッシュ型で、子供未来応援国民運動やデジタル基盤を確立して取り組むというが、これと、子どもの諸権利とどのような関連があるかの説明も皆無である。
 これらは、子どもの権利に全く精通していないことの証左であると筆者は捉える。
 日弁連は昨年6月、国に出した提言書「子どもの権利基本法の制定を求める提言書」の中で、国連子どもの権利委員会が、子どもの権利についての研修を勧告していることに触れ、それを活かすことが急務であることを述べる。そこには公務員のあらゆるレベルの政府職員も含まれる。
 二つ目の肝心な点はここである。子どもの権利の内容の具体的な理解が伴わない上記の下線内容は、一転して子どもの「全面一元管理」の司令塔になる危険があると思うからである。
 ◆ 上からの「家庭教育」を凍結すること

 「子ども庁」から「子ども家庭庁」に変更は、「子育ては家庭が基盤」を主張する自民党右派勢力の圧力と報道する。しかし、子ども庁の構想が4月菅内閣への提出以降、「少子化対策」と「子育ては家庭が基盤」と軸道はすでに変化したことは前にも述べた。
 1990年代後半、「家庭教育ノート(手帳)」の配布、2006年改定教育基本法「家庭教育条項」の設置、2016年家庭教育支援法案の上程を計画、等々を想起すれば、自民党が家庭教育への並々ならない強い関心を持ち続けてきたことは明らかである。
 自民党の家庭教育政策は、下表①②が示すように家庭教育の具体的内容を国が定め、その遂行を第一義的に父母等に負わす、支配剥き出しの法律になっている。
 それに対して③子どもの権利条約がいう父母等の第一義的責任は、子どもの最善の利益を考慮することが基本であり具体的内容を指示してはいない。加えて国の努力を付記している。
 子どもの権利条約の理念に則るという「子ども家庭庁」は当然「家庭教育」に関する国内の法律との関係は問われてくる。
①教育基本法(2006)第10条
 父母その他の保護者は、この教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身につけさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
②家庭教育支援法案(2012)第2条
 家庭教育は、父母その他の保護者の第一義的責任において、父母その他の保護者が子に生活のために必要な習慣を身に付けざせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めることにより、行われるものとする。
③子どもの権利条約(1989国連採択)第18条
1 締約国は、児童の養育および発達について父母が共同責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合によリ法定保護者は、児童の養育および発達についての第一義的な貫任を有する。児童の最善の利益は、これらの者の基本的な関心事項となるものとする。

 ◆ 憲法「改正」ではなく権利尊重の政治の実現を

 家庭教育への関心は憲法改正と併走してきた。
 改正草案第13条は現行の「全て国民は個人として尊重される」を「人として尊重される」へと、人権の主体である個人を消滅させた
 また、前文では、家族と国家を、直、繋ぎ、戦前の「家族共同体」への復占願望かと疑うが、選択的夫婦別姓の根強い反対意見の存在はそれが現に生きていることかと改めて思い知らされる。
 第24条で、自民党が参考にしたという世界人権宣言第16条3項の全文は、「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であって、社会および国の保護を受ける権利がある」である。自民党のいう「家族の助け含い」とは真逆である
 個人から権利を奪うこと、そして学術・教育から、戦争が準備されたことを私たちは知っている。
 子どもと大人、全ての人の権利を尊重する政治の実行こそが戦争へを向かう道ではなく、「子どもまん中社会」に近づく道である。
※ 自民党憲法改正草案(2012)
前文
・・日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が助け合って国家を形成する。
第24条
 現行に新たに以下条項を設ける。(現行にも修正があるがここでは省略)
1 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重ざれる、家族は、互いに助け合わなければならない

『子どもと教科書全国ネット21ニュース 142号』(2022.2)


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