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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

★ 令和書籍『国史』が検定合格した背景事情

2024年07月18日 | こども危機

  《子どもと教科書全国ネット21ニュースから》
 ★ 令和書籍「国史教科書第7版」について(序論)

鈴木敏夫(すずぎとしお 子どもと教科書全国ネット代表委員)

 ★ 中学校歴史的分野に、新たに令和書籍が参入

 令和書籍(以後、「令書」)は2018年度を皮切りに4回不合格(1回は取り下げ)。
 20年度は600カ所以上の欠陥を指摘された。
 21年度版は、中国の呼称を「支那」、新型コロナウイルスを「武漢肺炎」と表記したことにも指摘が入っていた。
 今回2点提出し「決定未了」を経て、検定合格した。

 「令書」の社長竹田恒泰によれば「教科書調査官とのやりとりで、どんどん良くすることができ、調査官を納得させて、検定合格した」等としている。それだけなのか。
 今回2点出したのは、「1点は、冒険の部分があるので、安全を考えて」とのことである。大きな違いは、奥付の後にある10ページに及ぶ「承久の乱(変)」の漫画である。
 結局、1点は取り下げ、漫画をQRコードにして合格した第7版を採択対象にした。
 なぜ異例の「検定未了」となったのか。
 文科省は「『申請内容が外部に流出している』という趣旨の通報が外部から寄せられたため」だったが、それはなかったとして、4月19日合格とした。
 竹田恒泰は、ネット上で様々語っているのを多くの人が見ている(現在削除)。文科省は、苦しい説明である。真相はその内明らかになるであろう。

 ★ なぜ教科書を作成したか、その狙いは

 令書は、これまで検定を通らなかったのを「文部科学省検定不合格教科書」として、市販してきた。
 そこでは

「(高校生でも)日本の建国の経緯を知らない」
「中学の歴史教科書は、きわめて反日色の強い不適切なものが長年使われてきた」

 ことなどから、竹田恒泰が主筆となり、大学生4名とで「国史教科書」を執筆することにしたとしている。
 教科書の価格は、文科省が最高額を告示しているので、各社はおおむね300ページ強である。令書はB5判で500ページを越える。
 縦書き(先輩格の明成社高校日本史教科書が前回の検定まで使っていた)で、中学生ではとてもこなせる内容ではない。

 竹田恒泰は、いわゆる受験校向きに作成し、そこでの採択を期待している、としているが、もともと中学校での採択は視野にはないと考える。
 それは、400部程度の自由社中学校歴史について、藤岡信勝

日本政府が公認した正規の教科書であり続けることに大きな意義がある
「日本のように、検定という形で政府がオーソライズする教科書は、国家としてのある種の公的見解に近いものになるわけだ」(週刊現代1997年5月27日)と答えている。

 今でも「竹田恒泰チャンネル2-YouTube」や櫻井よしこ言論テレビなどで盛んに、現在の教科書は自虐史観などと攻撃している。彼は大手を振って、言論媒体を通じて歴史認識を広めてくるであろう。

 ★ 「つくる会」と日本維新の会による教科書記述介入

 教科書発行者として2020年、文科省に、「つくる会」などが、山川出版『中学歴史日本と世界』の側注の「戦地に設けられた『慰安施設』には、朝鮮・中国・フィリピンなどから女性が集められた(いわゆる従軍慰安婦)」を問題視し、その削除を文科大臣に要求した。
 教科用図書検定規則で、事実の記載等の明白な誤り等の記載を認めるときは「(文科大臣は)発行者に訂正の申請を勧告することができる」)を使ってである。
 訂正させる根拠は、2014年の「改訂」教科用図書検定基準(※)であり、安倍内閣の「慰安婦」の「強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」との答弁書(政府見解、2007年3月)である。

※「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的見解…に基づいた記述がされていること」

 先の「改訂」に関わった萩生田文科大臣の文科省は応じなかった。しかし、2021年4月の国会論議で局面が変わった。
 「日本維新の会」幹事長(当時)馬場伸幸は、「従軍慰安婦」や「強制連行」などに関する質問趣意書を提出し、それをなぞったような菅内閣の答弁書(政府見解、4月27日)を出させた。

「従軍慰安婦」という用語は適切でなく「慰安婦」とする。
「朝鮮半島出身の労働者の移入」は、「強制連行」、「連行」ではなく「徴用」を用いることが「適切」とする。

 その後、衆議院文部科学委員会などで「日本維新の会」藤田文武(現幹事長)は、現行の教科書は「発行会社が訂正を検討する。基準に則した記述になるよう適切に対応したい」と政府答弁を引き出し、当該記述がある教科書を明らかにさせた。
 その後、文科省は、中学社会、高校の地理歴史、公民科の教科書を発行する15社の編集担当役員を対象に「臨時説明会」を5月18日にオンラインで行った。
 新聞報道によれば、国会でのやりとりの速記録を出し、「主なスケジュール」との資料を示し、「6月末まで(必要に応じ)訂正申請」「8月頃、訂正申請承認」などの日程も伝えた。
 「申請をしなければ訂正勧告をだすのか」との質問に、文科省は「『勧告の可能性はある』と答えたという」「今月中に申請を、と暗に促された形だ」(「朝日新聞」6月18日)。

 ★ 「ストライクゾーン」を広げてきた文科省、ついにここまでか

 令書は、冒頭から「歴代天皇の皇位継承図」(皇統譜より)を掲げ、本文では神が日本列島を生んだとする「国生み神話」を紹介し、やがて「天孫降臨」から、初代天皇の神武の即位につなげている。間に弥生時代などを入れているが、ストーリーは戦前の国史や修身の教科書と同じである。
 例えば、国民学校初等科国史(昭和18年)は「御歴代表」で神武から今上までを掲載し、「第一 神国 一高千穂の峯」で、「神代の昔、伊弉諾尊・伊弉冉尊は、…八つの島をお生みになり」などとなっている。

 さらに7版の底判である「不合格教科書5版」で、「朝廷が日本の歴史の核を為していて、一つの国家が連綿として継続されてきたことを理解できるように」とあり、「神武天皇東征の物語」「日本を小国から大国に押し上げた明治天皇」「昭和天皇の二度のこ聖断」など、天皇を称賛するコラムをちりばめている

 ①これらは、明治憲法下の皇国史観の焼き直しではないか、「文科省は歴史観を問わない」らしいが、日本国憲法になっても、世界史と日本史を学ぶ教科書が「国史教科書」で、内容において、戦前の国定教科書と見まがう記述がある教科書で、良いのか。
 山川出版は「『古事記』・『日本書紀』(記紀)にある神話は.各地で伝えられてきたさまざまな神話が、天照大神を祖先神とする天皇家の神話と結び付けられ、初代の天皇である神武天皇が国土を支配する物語としてまとめられたものである」と記述している。

 ②河野談話を否定する内容も記述されている。コラム「蒸し返された韓国の請求権」では、「日本軍が朝鮮の女性を強制連行したという事実はなく」とある。歴代政府は、河野談話を継承している、としてきた。また、検定制度の枠内で考えても、検定基準の近隣諸国条項の空洞化ではないか。

 ③竹田恒泰は、「日本の過ちも全力で書きました。教育勅語はどういう風に機能してきたか、を書いただけで、それを酷いと思うか、良いもんじゃないかと思うのは、読み手に任されている」「日本の戦争は間違いじゃなかったとは教科書には書けない。いいことも悪いことも全力で書いている」等としている。
 しかし、「大東亜戦争」「大東亜共栄圏」など一面的な内容を長々と記述して、批判はほんの少しである。教育勅語は、「先人たちがよき伝統を残してきたから今の日本がある」と書いている。
 「生徒が誤解するおそれのある表現」(検定用語)ではないのか。

 流石に「(国連加盟国中)現存する世界最古の国家は、我が国なのです」に検定意見がつき、「皇室は現存する『世界最古の王家』とも言われます」に修正された。
 他方で自由社は「世界最古の王朝をいだく国です」と書いて、これまでも検定合格している。歴史関係、歴史教育学会の検討と批判が待たれる。

 ★ 「戦争する国」へのイデオロギー攻撃の一環

 令書の問題は、単に教科書に関することにとどまらないのではないか。
 「戦争できる国」から「戦争する国」へと急速に駆け上がっている政治の動きがある。

 戦前の日本の戦争は「自存自衛」の、欧米の支配を排除した「大東亜共栄圏」をつくるためで、侵略戦争ではなかった。また、植民地統治は、あながち搾取とは言えない。
 「沖縄を守るために、…特攻隊員が散華しました」「沖縄攻防戦では、中学生から高校生…が、志願というかたちで学徒隊に編入され」(「令書」強調は、引用者)と書くことで、先の戦争に対する悲惨な事実を否定し、また植民地支配などの「後ろめたさ」を払拭し、「有事」に対して「胸を張って」立ち向かうナショナリズムを喚起することである。歴史認識の改竄をめざす流れの中にある。

 昨年は、関東大震災100周年であったが、政府は一貫して、朝鮮人、中国人の虐殺の事実を認めなかった。
 小池都知事も同様のスタンスで、朝鮮人犠牲者追悼式典に、追悼文を2017年から取りやめた。石原都知事をはじめ、自身も前年まで出していたものである。
 朝鮮人虐殺を否定するどころか、自衛のためだったとする書籍が発行され、ネット上でヘイトクライムはあふれている。
 山本一太知事の下、群馬の森の朝鮮人追悼碑も撤去に追い込まれ破壊された。
 安倍首相などは、自由社、育鵬社の教科書で、子どもの歴史認識、社会認識をかえ、さらに保護者にも影響を与えようとしてきた。

 それをさらにバージョンアップしたのが、今回の「令書」の合格であり、その背景に日本の社会の動きがあるのではないか。

『子どもと教科書全国ネット21ニュース』156号(2024年6月)


17 05


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