元陸軍中尉 池部良
いけべ・りょう東京生まれ。87歳。立教大学卒、元陸軍中尉。1941年、映画「闘魚」でデビュー。復員後、「青い山脈」などに出演、銀幕の人気スターとなる。代表作は「早春」「雪国」「暗夜行路」「昭和残侠伝」シリーズなど。著書も多く「そよ風ときにはつむじ風」で日本文芸大賞特別賞を受賞。
日本人自身で責任追及を
一九四二(昭和十七年)二月、陸軍の三二師団に入営。二年間、中国にいて、四四年五月、輸送船で南方に向かう途中、米潜水艦の攻撃を受け沈没しました。半日ぐらい漂流、海軍の船に引き揚げられた。
やっと到着したハルマヘラ島(現インドネシア)はきれいな島でしたが、「助かった、きれいだ」と思ったのは上陸した時まで。四ヶ月後には米軍の爆撃、銃撃を毎日やられてずっとジャングルの中にいました。
衛生隊の隊長を任せられ七十九人の部下がいましたが、食うものに困った。カエル、トカゲ、ヘビ…、ワニまで食べました。みんな栄養失調になった。斬(き)り込み隊に選ばれた二人の部下は帰ってきませんでした。四六年六月に帰国しました。
当時、天皇陛下のために戦い、潔く死んで靖国神社に行こう、というスローガンのようなものがあった。個人がそう思ったかは別として、軍の強い宣伝力があった。でも、ぼくは五年間の兵隊生活で靖国神社のことは頭の中になかった。そういう話をしたこともなかった。
戦後、毎年、初年兵や衛生隊の会合があり靖国神社に参拝してきた。戦死した人たちのことを「大変だったな」と思ってお参りしてきた。極めてプリミティブ(素朴)な心情です。最近は年をとり、集まることができなくなったので、一昨年以来行っていません。
靖国神社は国の伝統といって神道の儀式をやっている。戦死したら神道でおはらいしてもらう必要があるのか疑問もある。小泉首相の参拝は表面的な気がする。やめた方がいい。心情的に参拝した方がいいというのは分かるが、兵隊さんたちが政治の道具に使われているんじゃないかという疑心暗鬼を生みかねない。
A級戦犯については、合祀(ごうし)はおかしいとか新しい所に入れようとか言う前に、東京裁判(極東国際軍事裁判)は、戦勝国が烙印(らくいん)を押したものだという前提を忘れてはいけない。
僕たち国民には、東條大将が本当に戦犯だったのかは分からない。今さらできない相談だけど、日本人自身の手で、戦争を指導した戦争責任者を摘出しなくてはいけなかった。五十年前に議論されるべきでした。
僕たちは国民の義務として兵隊になった。それについてはあまり文句は言わないが、何の戦争だか分からず行って奇跡的に帰ってきた。
でも、職業軍人というのは、戦闘技術を学び、命をささげて天皇陛下と国を守りますという契約をした人たち。戦争を起こし、失敗した責任は否めない。職業軍人全員を戦犯の対象として考えてもいいんじゃないですか。まず、そうしたことを考えるのが先ではないでしょうか。
〔『東京新聞』2005/7/17朝刊〕
いけべ・りょう東京生まれ。87歳。立教大学卒、元陸軍中尉。1941年、映画「闘魚」でデビュー。復員後、「青い山脈」などに出演、銀幕の人気スターとなる。代表作は「早春」「雪国」「暗夜行路」「昭和残侠伝」シリーズなど。著書も多く「そよ風ときにはつむじ風」で日本文芸大賞特別賞を受賞。
日本人自身で責任追及を
一九四二(昭和十七年)二月、陸軍の三二師団に入営。二年間、中国にいて、四四年五月、輸送船で南方に向かう途中、米潜水艦の攻撃を受け沈没しました。半日ぐらい漂流、海軍の船に引き揚げられた。
やっと到着したハルマヘラ島(現インドネシア)はきれいな島でしたが、「助かった、きれいだ」と思ったのは上陸した時まで。四ヶ月後には米軍の爆撃、銃撃を毎日やられてずっとジャングルの中にいました。
衛生隊の隊長を任せられ七十九人の部下がいましたが、食うものに困った。カエル、トカゲ、ヘビ…、ワニまで食べました。みんな栄養失調になった。斬(き)り込み隊に選ばれた二人の部下は帰ってきませんでした。四六年六月に帰国しました。
当時、天皇陛下のために戦い、潔く死んで靖国神社に行こう、というスローガンのようなものがあった。個人がそう思ったかは別として、軍の強い宣伝力があった。でも、ぼくは五年間の兵隊生活で靖国神社のことは頭の中になかった。そういう話をしたこともなかった。
戦後、毎年、初年兵や衛生隊の会合があり靖国神社に参拝してきた。戦死した人たちのことを「大変だったな」と思ってお参りしてきた。極めてプリミティブ(素朴)な心情です。最近は年をとり、集まることができなくなったので、一昨年以来行っていません。
靖国神社は国の伝統といって神道の儀式をやっている。戦死したら神道でおはらいしてもらう必要があるのか疑問もある。小泉首相の参拝は表面的な気がする。やめた方がいい。心情的に参拝した方がいいというのは分かるが、兵隊さんたちが政治の道具に使われているんじゃないかという疑心暗鬼を生みかねない。
A級戦犯については、合祀(ごうし)はおかしいとか新しい所に入れようとか言う前に、東京裁判(極東国際軍事裁判)は、戦勝国が烙印(らくいん)を押したものだという前提を忘れてはいけない。
僕たち国民には、東條大将が本当に戦犯だったのかは分からない。今さらできない相談だけど、日本人自身の手で、戦争を指導した戦争責任者を摘出しなくてはいけなかった。五十年前に議論されるべきでした。
僕たちは国民の義務として兵隊になった。それについてはあまり文句は言わないが、何の戦争だか分からず行って奇跡的に帰ってきた。
でも、職業軍人というのは、戦闘技術を学び、命をささげて天皇陛下と国を守りますという契約をした人たち。戦争を起こし、失敗した責任は否めない。職業軍人全員を戦犯の対象として考えてもいいんじゃないですか。まず、そうしたことを考えるのが先ではないでしょうか。
〔『東京新聞』2005/7/17朝刊〕
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