《月刊救援から》
☆ 袴田さんの有罪・死刑を求める検察官
~検察庁・静岡県警・清水署は、袴田さんに謝罪しろ
袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会事務局長 山崎俊樹
本紙五月号で既報のとおり、袴田巖さんの再審公判に向けた三者協議が始まり、すでに四回の協議が行われた。
当初秋には再審公判が始まり、早ければ年内には無罪判決か、と思われていたがその可能性は無くなった。
なぜか、検察官が自らの方針を明らかにせず、三か月の猶予を求め事実上協議が全く進まなかったからだ。その挙句“被告人(袴田さん)の有罪を求める”というものであった。
死刑確定から四二年以上という気の遠くなる年月を経てようやく娑婆への扉に手がかかった袴田さんの首に縄をかけ、再び死刑台に連れ戻すというのが、三か月を経た検察官の回答だった。
☆ 袴田が犯人に決まっている
事件は一九六六年六月三〇日未明の被害者宅の火災から始まる、焼け跡から被害者四人の他殺体が発見され、殺人放火事件として捜査が始まる。
「確か事件の翌日(七月一日、金曜日)夕方、清水署の刑事が“袴田の写真はないか”」と訪ねてきた。私たち夫婦はオナカちゃん(当時の袴田さんの呼び名)はそんなことをするはずはない、と言い返したら、「袴田に決まっている」と言って、袴田さんが写っている写真をはぎ取っていった。
写真がはぎとられたアルバムを見せながら、キャバレー太陽時代の同僚のAさんはそのように語ってくれた。
そして、七月四日(月)工場の家宅捜索が始まる。押収目的物は雨合羽のフード部分。なぜなら被害者宅に雨合羽が脱ぎ捨てられており、そのポケットに凶器とされたクリ小刀の鞘が入っていたとされたからだ。
工場二階にある従業員寮に住んでいた袴田さんの部屋も徹底的に捜索された。が、何も出てこなかった。
当てが外れた警察は袴田さんのパジャマを任意で提出させている。袴田さんは(終わったら)私に返してください、とその提出書に書いている。
☆ 血染めのシャツ発見と報道
警察はこの任意提出のパジャマを血染めのシャツと発表、毎日新聞はこの日(七月四日)の夕刊で「従業員H浮かぶ、血染めのシャツ発見」と報じる。翌日の朝刊も各社同じ内容の報道が続く。
ところが、捜査報告書には、パジャマの状態を、上衣の右袖が鍵型に切れており、左袖下のポケット付近に血痕か、さびか、しょうゆのしみのあとか、判断できないが、僅かにその痕跡が認められた、としか記されていない。判断もできないわずかな痕跡を、警察は「血染めのシャツ」と報道させたのだ。
八月一八日、袴田さんを逮捕。連日“お前が犯人だ”として“自白を迫り”八月二九日には、“取調官四名を六名に増加”する。そして、県警警本部長、清水警察署長など県警幹部が集まった検討会を開催し、“袴田の取り調べは情理だけでは自供に追い込むことは困難であるから取調官は確固たる信念をもって、犯人は袴田以外にはない、犯人は袴田に絶対間違いないという事を強く袴田に印象付けることにつとめる”と、県警自ら一九六八年に作成した捜査記録で自白をさせた経緯を誇らしげに語っている。
☆ 番号が焼かれた多額の紙幣
一九六六年九月六日松本久次郎をはじめとする取調官は袴田さんを自白に追い込む。勾留期限の九月九日、最終的に吉村英三検事も加わり、でっち上げの自白調書を作成し、犯行着衣はパジャマ、凶器はクリ小刀、侵入脱出経路は裏木戸として起訴したのである。
その後、警察はさらなる証拠の捏造に手を染めていた。
袴田さん起訴の四日後の九月一三日、清水郵便局で封筒にシミズケイサツショと書かれ番号部分が焼かれた紙幣五〇七〇〇円が入っている郵便が出てきた。“ミソコーバノボクノカバンニアッタツミトウナ”と書かれた便せん、そして紙幣の二枚には“イワオ”と書かれていた。被害者宅から盗まれたとされた金額からこの焼けた紙幣の金額を引くと、事件後袴田さんが使った金額とほぼ一致するのだ。
警察は同僚の女性を逮捕し、袴田から預かった金だろう、と自白を迫るが失敗する。それからおよそ一年後に味噌タンクから出てきた五点の衣類。まさにこの事件は警察の捏造の積み重ねである。
☆ 立証すべきは静岡県警と清水警察署のねつ造だ!
弁護団によると検察官の有罪立証の中心は、差し戻し審でさんざん議論された内容であり、単なる蒸し返しでしかないという。また、七名の法医学者が名を連ねた鑑定書を用い、一年以上を経過しても血痕の赤みは残るとの主張を繰り返しているという。
血液であろうと血痕であろうと、弱酸性の環境下で黒変することは、医学の常識である。医学の常識をかなぐり捨て、検察官の求めに応じ検察官の意に沿った鑑定書を書き、名を連ねる法医学者たち。彼らもまた証拠の捏造に手を貸したのである。
今、検察官が着手すべきは袴田さんの有罪立証の放棄と、当時の検察官であった吉村英三を呼び出し、清水警察署と静岡県警の証拠捏造捜査を暴き出すことだろう。それを成しえない検察庁に正義を語る資格はない。
検事総長・警察庁長官は袴田さんと姉のひで子さんに謝罪しろ。
『月刊救援 第652号』(2023年8月10日)
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