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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

杉並区教科書採択取り消し裁判

2007年01月26日 | 平和憲法
官製談合の視点から訴える
 ~杉並区教科書採択取り消し裁判
2007/01/07

■扶桑社版教科書採択における手続きの違法性を問う裁判


 2006年12月20日、杉並区扶桑社版教科書採択に関する違法な公金支出の無効を求める裁判の第1回口頭弁論が、東京地裁606法廷で開かれました。この裁判に先立って、杉並区住民は同じく教科書問題で安倍晋三氏を提訴していますが、今回の裁判は被告を杉並区長とし、採択において使われた公金の違法支出で訴えています。問題の教科書は2005年8月に採択、2006年度から杉並区の中学生に配布されすでに使われているもの。裁判は、教科書のイデオロギーを問うものではなく、採択手続きにおいて違法性がなかったかどうかを問うものでした。筆者は、杉並区住民として大きな関心をもって傍聴しましたが、裁判は、手続きの違法性に気づかせるばかりでなく、裁判所というものが決して私たち庶民と遠いものではなく、市民意見を汲み上げる身近な場所であること、市民が主権者としてふるまうことの重要性に気づかせるものでした。

■主権者は誰かを思い出させてくれる自己紹介からの開廷

 裁判は11:30開廷、原告代表5名、被告代理弁護人3名、裁判長を含めた裁判官3名、書記官1名によって、約40分間行われました。裁判は最初から興味深い成り行きでした。裁判長が開廷を告げるか告げ終わらないうちに、原告代表が挙手しながら「すみません、始める前にお願いしたいことが…」と言い始め、「今日は、裁判の第一回ということでお互い初めて顔を合わせました。これも何かの縁ですし、長いおつきあいをするのですから自己紹介をお願いしたいと思います。私から自己紹介します。私は原告の○○です」と発言。続いてほかの原告が次々に名乗り、原告側が裁判官らに自己紹介をお願いしました。

 「名前は入口の札にかかっている通りですが…」と言う裁判長に、原告代表が「お名前とお顔が一致しないので、お名前だけで結構ですから」と再度頼むと、裁判長は、あまりこういうことはしませんがと断りながらも「私は大門です」と名乗り、両側の裁判官及び書記官も名乗りました(吉田さん・小島さん・田野さん)。裁判長は続けて「せっかくですから、被告側もどうぞ」と促すと、被告側の弁護人も名乗りました。

 原告代表は謝意を述べた後、「私たちは同じ対等な人間として裁判を行ってほしいので、裁判長と呼ばずに“さん”付けで呼ばせて頂きます」と述べました。裁判長は慣例ではないとしながらも、不快を示すことはなく要望を受け入れ、同時に「限られた時間なので必要なことのみでご理解いただきたい」との念押しがありました。

■原告は何を求めているのか

 次に、原告によって請求の趣旨と原因が読み上げられました。これも従来ならば、書面通りかどうかを確認するだけで終わるところを、原告は要点を述べさせてほしいと要望、「時間がないので省略を」と言う裁判長との短いやりとりを経て原告が述べました。おかげで、傍聴する私たちにも何が問題になっているのかがよく理解できました。

 原告の請求趣旨は、杉並区長は教科書採択において違法に支出した公金約180万円を区に返還せよというもので、その理由として、すでに違法な公金支出として訴えた杉並区監査委員会の回答への不服、採択における手続きと規則の恣意的濫用、教科書調査報告書の書き換えによる公文書偽造の疑い、2回開催された教育委員会の恣意的延期、教育委員会開催時の過剰警備などによる違法性を挙げました。さらに「教科書採択は国と一体となった入札行為である」とし、これらの規則濫用や公文書偽造等の違法行為は特定の教科書を選ぶよう誘導する「官製談合であった」と主張しました。

■口頭弁論主義による分かりやすい裁判

 次に原告は、裁判の録音と口頭弁論主義の徹底を求め、ここでも裁判長との興味深い問答がありました。まず、当裁判が録音や速記による記録がされていないことが確認され、書記官が必要と判断した点しか記録が残されないことに対する原告の懸念が示されましたが、「録音の規定はない」として退けられました。

 また口頭弁論主義についてですが、口頭弁論主義とは、文字通り口で述べることを基本とする裁判の原則で、日本の訴訟制度は、口頭弁論主義を採用しています。しかし、実際は裁判の効率化のため書面主義に頼るところが多く、ほとんどの裁判では「書面通りですか」「はい」での進行が現実となっており、第三者に裁判を分かりにくいものにさせている原因の一つと言われています。

 原告は口頭弁論主義を求めることで分かりやすい開かれた裁判を要望したということで、これに対し、裁判長は、裁判所では毎日多くの裁判が開かれていること、その一つ一つが大事な事件であること、限られた時間で審理を行うためには書面による意見交換が不可欠であることなどをあげ、「ご理解いただきたい」と述べ、「裁判所は本来こうしたことを説明する必要はないのですが、原告は弁護士を立てない本人訴訟であるため、できるだけ説明しています」とも付け加えました。原告側は裁判の迅速な進行に異議はないとしながらも、裁判の一つ一つが大事であるのなら、なおさら大事なところは口頭で弁論していきたいと述べ、食い下がりを見せました。

■扶桑社版教科書と教育委員について、原告・意見陳述

 この後、裁判長により、被告側が答弁書を陳述するかどうか、原告側に証拠説明の書類提出を求めるなど、いくつかの確認が行われ、最後に原告2名による意見陳述が行われました。

 最初の原告代表は、この訴訟を起こす動機となった教科書について言及、全国での採択率0.39%、即ち583の採択地域の中で2ヶ所(杉並区と栃木県大田原市)しか採択されなかった扶桑社版歴史教科書の特殊性を指摘、その特殊な教科書をあえて採択できた杉並区の採択への疑問を示しました。

 原告はその教科書がどのようなものであるかを知らなければ採択の問題も見えてこないとし、扶桑社版教科書を手に内容の紹介をしました。扶桑社版教科書は神話の記述が多く、『歴史の名場面・日本海海戦』など戦争を美化した読み物が多いこと、同教科書の副教材である同社ドリルでは「天皇の直系は誰であるか」の問いに「天照大神」と回答させたり、アジア太平洋戦争については「インドネシアでは日本軍をどのような軍ととらえたか」の問いに「解放軍」と回答させるなど、恣意的に歴史を子供に解釈させていると指摘、「このような答えを書かせられる子供たちは、日本が東アジアで3,000万人以上の人々を殺戮した事実を知ることはないでしょう」との懸念を示しました。

 続いて同原告は、この教科書を選んだ教育委員のプロフィールを紹介しました。杉並区教育委員は5名、そのうち1名が「日本は他国に危害を加えたことはない」と発言したこと、別の1名は「原爆の記述が薄くなっているが、皆すでに知っていることだ」と発言したこと、教育長は元区長室長であり、歴史審議が紛糾した時に「率直に言ってどうでもいい。私の中で消化できない」と発言したことなどを紹介し、これらの教育委員を選んだ、被告である区長については次回の公判で明らかにするとしました。


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