◆ 参院選「無効」判決
自民参院のドン「取り消して」
「一票の格差」が最大四・七七倍だった七月の参院選を違憲とし、岡山選挙区を「無効」とする広島高裁岡山支部の判決について、自民党参院幹部から「取り消してほしい」という発言が飛び出した。
権力中枢から司法に出された「注文」に、憲法学者や自民党関係者の中からは、司法の独立を危ぶむ声が出ている。(篠ケ瀬祐司)
◆ 言葉荒れる与党「影響考えるべきだ」
発言の主は自民党の脇雅史参院幹事長だ。「ねじれ」が解消したこともあり、脇氏は「参院のドン」として、政府・与党内で強い存在感を発揮している。
脇氏は判決翌日の記者会見で「はなはだ変な判決だと思わざるを得ない。司法の判断に異議を唱えるのは好ましくないが、本来、司法に託されたのりを超えた言及だと思っている。深刻に反省していただきたい」と持論を展開した。
脇氏が問題視したのは二点だ。
まず一票の格差について。人口約一億二千八百万人を七十三議席の選挙区定員で割ると約百七十五万人になる。岡山県民の人口は約百九十万人で、格差は許容範囲内だから、そもそも裁判を起こせないという。
もうひとつは、判決が自らがリードする参院選挙制度協議会で、実質的な協議が行われていないと指摘した点だ。ここで「ぜひ取り消してほしい」と訴えている。
「こちら特報部」が二日に、国会内で脇氏に発言の真意をただすと「正式に取り消すように言ったわけではない。ただ、それほど変な判決という意味だ」と説明した。
それでも「変な判決」の理由をあらためて強調した上で「訴えの要件を満たしていない。判決の批判ができないようでは、暗黒社会になってしまう」と「注文」の正当性を強調した。
「無効」判決については、一部メディアが「最高裁大法廷が最近出した衆院選を『違憲状態』にとどめた判決を軽視している」との趣旨の主張を展開している。
これらの指摘は果たして妥当なのか。
早稲田大の水島朝穂教授(憲法学)は「取り消し」の要望が権力側からの発信だったことに危機感を覚える。
「一般市民が物を言えなくなれば『暗黒社会』だが、巨大与党の幹部として大きな影響力を持つ参院幹事長は別だ。一般的な判決批判は自由だが取り消せという与党幹部の発言は、司法権の独立への圧力になるのは明らかで、憲法の三権分立の精神にも触れかねない」
と警鐘を鳴らす。
「最高裁の判決軽視」についても「憲法によって、司法権は独立している。下級裁判所であれ、裁判官は法と自らの良心にのみ従って判断しなくてはならない。そもそも今回の最高裁判決は衆院選についての判断。参院については、これから他の高裁判決後に行われる」と一部メディアの指摘はあたらないと説く。
脇氏の発言をいさめる声は自民党内にもある。
「昔の自民党に比べて言葉が荒れている。権力者は、自分の発言が他にどういう影響を与えるかを神経質なほど考えた方がいい」。ある幹事長経験者はそう話した。
原告側の賀川進太郎弁護士(岡山弁護士会)は「原告側は岡山県の格差だけを取り上げたのではなく、選挙区間の選挙人数の格差が最大一対四・七七なのを問題視している」と、脇氏の批判に反論している。
『東京新聞』(2013/12/3【ニュースの追跡】)
自民参院のドン「取り消して」
「一票の格差」が最大四・七七倍だった七月の参院選を違憲とし、岡山選挙区を「無効」とする広島高裁岡山支部の判決について、自民党参院幹部から「取り消してほしい」という発言が飛び出した。
権力中枢から司法に出された「注文」に、憲法学者や自民党関係者の中からは、司法の独立を危ぶむ声が出ている。(篠ケ瀬祐司)
◆ 言葉荒れる与党「影響考えるべきだ」
発言の主は自民党の脇雅史参院幹事長だ。「ねじれ」が解消したこともあり、脇氏は「参院のドン」として、政府・与党内で強い存在感を発揮している。
脇氏は判決翌日の記者会見で「はなはだ変な判決だと思わざるを得ない。司法の判断に異議を唱えるのは好ましくないが、本来、司法に託されたのりを超えた言及だと思っている。深刻に反省していただきたい」と持論を展開した。
脇氏が問題視したのは二点だ。
まず一票の格差について。人口約一億二千八百万人を七十三議席の選挙区定員で割ると約百七十五万人になる。岡山県民の人口は約百九十万人で、格差は許容範囲内だから、そもそも裁判を起こせないという。
もうひとつは、判決が自らがリードする参院選挙制度協議会で、実質的な協議が行われていないと指摘した点だ。ここで「ぜひ取り消してほしい」と訴えている。
「こちら特報部」が二日に、国会内で脇氏に発言の真意をただすと「正式に取り消すように言ったわけではない。ただ、それほど変な判決という意味だ」と説明した。
それでも「変な判決」の理由をあらためて強調した上で「訴えの要件を満たしていない。判決の批判ができないようでは、暗黒社会になってしまう」と「注文」の正当性を強調した。
「無効」判決については、一部メディアが「最高裁大法廷が最近出した衆院選を『違憲状態』にとどめた判決を軽視している」との趣旨の主張を展開している。
これらの指摘は果たして妥当なのか。
早稲田大の水島朝穂教授(憲法学)は「取り消し」の要望が権力側からの発信だったことに危機感を覚える。
「一般市民が物を言えなくなれば『暗黒社会』だが、巨大与党の幹部として大きな影響力を持つ参院幹事長は別だ。一般的な判決批判は自由だが取り消せという与党幹部の発言は、司法権の独立への圧力になるのは明らかで、憲法の三権分立の精神にも触れかねない」
と警鐘を鳴らす。
「最高裁の判決軽視」についても「憲法によって、司法権は独立している。下級裁判所であれ、裁判官は法と自らの良心にのみ従って判断しなくてはならない。そもそも今回の最高裁判決は衆院選についての判断。参院については、これから他の高裁判決後に行われる」と一部メディアの指摘はあたらないと説く。
脇氏の発言をいさめる声は自民党内にもある。
「昔の自民党に比べて言葉が荒れている。権力者は、自分の発言が他にどういう影響を与えるかを神経質なほど考えた方がいい」。ある幹事長経験者はそう話した。
原告側の賀川進太郎弁護士(岡山弁護士会)は「原告側は岡山県の格差だけを取り上げたのではなく、選挙区間の選挙人数の格差が最大一対四・七七なのを問題視している」と、脇氏の批判に反論している。
『東京新聞』(2013/12/3【ニュースの追跡】)
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