◆ 「離職率4%」はこうして実現した (現代ビジネス) - Yahoo!ニュース
~労働コストを抑えるより、”人間志向”で利益を上げよ
毎夏恒例の「アスペン・アイデア・フェスティバル」。これは、あり得ないようなことから重要なことまで、ありとあらゆることを話し合う集まりだ。昨年の中心トピックの一つは「職(jobs)」だった。
米国はどうやってスキル・ギャップを解消するのか? 将来の、望ましい中産階級向けの職はどこから生まれるのか?
この会合では、職創出戦略としてのインフラ支出や、エネルギー源の解放により職を生み出すことを切に求める声が聞かれた。イノベーションこそが望ましい職をもたらすと主張する者もいれば、ロボテックなど、よい職を破壊するイノベーションもあると指摘する者など様々な講演者がいた。
◆ 人間志向型の経営戦略
そして、ゼイネップ・トンが登場した。
M.I.T.スローン・スクール・オブ・マネジメントの非常勤准教授で40歳になる彼女は、昨年のアスペンで最も急進的でありながら、かつ最も示唆に富むアイデアの一つを提示した。
従業員がまともな生活を送れる企業は、福利厚生なしの最低賃金で労働コストを抑えようと躍起になる企業と全く同じように利益を出せる、というのが彼女のビッグ・アイデアだ。
それどころか、収益性がより高くなることもあると言う。
ちなみに、「まともな生活」には、賃金だけでなく職場における目的意識や権限の付与なども含まれている。企業がそれを実現するには、彼女が言うところの「人間志向型経営戦略」を導入する必要がある。
もちろん同准教授は、それは「すぐに達成できないし、容易なことでもない」と認めている。しかし、企業にとっても国にとっても、それは実現に向けて努力する価値があるものだと言う。彼女の主張は、全くもって正しい。
◆ 低価格は企業の成功に必須なのか
トンがアスペンで私に説明し、また一昨年に出版された著書『望ましい職の創出戦略(The Good Jobs Strategy)未邦訳』にも書かれてあるよう、この主張は若手研究者時代の調査から生まれたものだ。
彼女は当時、特に在庫管理に注目して、小売業界のサプライチェーン管理についての調査を行った。そこで、彼女と仲間の研究者たちは、次のようなことを発見した。
ほとんどの企業は中国などから商品を店に仕入れることにかけては非常に優れているが、一旦商品が到着した後の対応はうまくいっていなかった。
たとえば、商品は顧客が買えるよう棚に並べられるのではなく、奥の部屋に積まれたままになっていた。間違った場所に置かれていることもあった。店内特別プロモーション(販促)が実践されていない割合も驚くほど高かった。どこもかしこも、実に多くの企業でこのパターンが見られたのだ。
さらによく調べた結果、問題は、これらの企業が従業員を「最低限に抑えるべきコスト」と見なしていることだという点に気づいた。賃金が低いだけでなく、従業員たちは充分な訓練も受けていない。
また多くの場合、従業員たちは間際になるまで自分の勤務スケジュールを知らされていない。モラルは低く、離職率が高い。全般に、顧客サービスなどというものは存在しない有様だった。
しかし、トンがこれらの企業の経営幹部に、このようなパターンを放置しておく理由を尋ねたところ、低価格を確保するには、最低限の賃金で雇用した従業員を使って経営する以外に方法がないからだと言う。諸経費に占める人件費の割合が非常に大きいからだ。
つまり、低賃金の結果として起こる問題は、低価格ビジネス・モデルの副産物として避けることができないというわけだ。
こうした説明に納得がゆかなかったトンは、低価格が成功に必須とされることでは同様の小売り企業で、別のアプローチをとっている会社を探すことにした。そして予想通り、そういう会社を何社か見つけることができた。
◆ 低価格と望ましい職は両立できる
この観点からトンが最も頻繁に引用するのは、メルカドーナというスペインの食料品チェーンと、オクラホマ州タルサにあるクイック・トリップの2社だ。クイック・トリップは、セブン・イレブンなどと競合するコンビニ/ガソリンスタンドのチェーン店だ。
メルカドーナに関してトンが最初に驚いたのは、年間の離職率が、ほとんど前代未聞の4%という低さだということだ。従業員は、なぜ定着しているのだろう? 転送してくれた講演原稿の中で、トンは次のように言っている。
売上110億ドル、722店舗を有するクイック・トリップは、トンが言うところの「人間志向型経営戦略」を実践している格好の事例だ。
従業員に中産階級並の賃金を支払うことで、この会社は彼らから最大のものを引き出すことができている。
従業員たちは複数機能のトレーニングを受けるので、異なる仕事ができる。彼らは問題を自分で解決できる。そして、自分の店舗の商品売買に関する決定を自ら行う。
クイック・トリップの賃金が高いことは、最終的に、人件費以外のあらゆる運営分野でのコスト削減につながっているのだ。
クイック・トリップでは、商品が奥の部屋に置かれたままということはなく、店内プロモーションは常に計画通り実践されているとトンは語っている。
望ましい職の創出戦略に対するトンの関心対象は、今やアカデミズムを超えている。彼女は布教者となり、このアプローチを広めてすべての企業が改善されるよう努めているのだ。
「低価格と望ましい職は、どちらか一方しか実現できないというのは間違った推論です」とトンは言う。
中産階級向けの職が将来どこからもたらされるのかが心配されるなか、トンのメッセージは、アスペンだけでなく米国中で耳を傾けるべきものと言えよう。
文/ジョー・ノセラ
翻訳/オフィス松村
『現代ビジネス』(2月7日)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160207-00047731-gendaibiz-bus_all
~労働コストを抑えるより、”人間志向”で利益を上げよ
毎夏恒例の「アスペン・アイデア・フェスティバル」。これは、あり得ないようなことから重要なことまで、ありとあらゆることを話し合う集まりだ。昨年の中心トピックの一つは「職(jobs)」だった。
米国はどうやってスキル・ギャップを解消するのか? 将来の、望ましい中産階級向けの職はどこから生まれるのか?
この会合では、職創出戦略としてのインフラ支出や、エネルギー源の解放により職を生み出すことを切に求める声が聞かれた。イノベーションこそが望ましい職をもたらすと主張する者もいれば、ロボテックなど、よい職を破壊するイノベーションもあると指摘する者など様々な講演者がいた。
◆ 人間志向型の経営戦略
そして、ゼイネップ・トンが登場した。
M.I.T.スローン・スクール・オブ・マネジメントの非常勤准教授で40歳になる彼女は、昨年のアスペンで最も急進的でありながら、かつ最も示唆に富むアイデアの一つを提示した。
従業員がまともな生活を送れる企業は、福利厚生なしの最低賃金で労働コストを抑えようと躍起になる企業と全く同じように利益を出せる、というのが彼女のビッグ・アイデアだ。
それどころか、収益性がより高くなることもあると言う。
ちなみに、「まともな生活」には、賃金だけでなく職場における目的意識や権限の付与なども含まれている。企業がそれを実現するには、彼女が言うところの「人間志向型経営戦略」を導入する必要がある。
もちろん同准教授は、それは「すぐに達成できないし、容易なことでもない」と認めている。しかし、企業にとっても国にとっても、それは実現に向けて努力する価値があるものだと言う。彼女の主張は、全くもって正しい。
◆ 低価格は企業の成功に必須なのか
トンがアスペンで私に説明し、また一昨年に出版された著書『望ましい職の創出戦略(The Good Jobs Strategy)未邦訳』にも書かれてあるよう、この主張は若手研究者時代の調査から生まれたものだ。
彼女は当時、特に在庫管理に注目して、小売業界のサプライチェーン管理についての調査を行った。そこで、彼女と仲間の研究者たちは、次のようなことを発見した。
ほとんどの企業は中国などから商品を店に仕入れることにかけては非常に優れているが、一旦商品が到着した後の対応はうまくいっていなかった。
たとえば、商品は顧客が買えるよう棚に並べられるのではなく、奥の部屋に積まれたままになっていた。間違った場所に置かれていることもあった。店内特別プロモーション(販促)が実践されていない割合も驚くほど高かった。どこもかしこも、実に多くの企業でこのパターンが見られたのだ。
さらによく調べた結果、問題は、これらの企業が従業員を「最低限に抑えるべきコスト」と見なしていることだという点に気づいた。賃金が低いだけでなく、従業員たちは充分な訓練も受けていない。
また多くの場合、従業員たちは間際になるまで自分の勤務スケジュールを知らされていない。モラルは低く、離職率が高い。全般に、顧客サービスなどというものは存在しない有様だった。
しかし、トンがこれらの企業の経営幹部に、このようなパターンを放置しておく理由を尋ねたところ、低価格を確保するには、最低限の賃金で雇用した従業員を使って経営する以外に方法がないからだと言う。諸経費に占める人件費の割合が非常に大きいからだ。
つまり、低賃金の結果として起こる問題は、低価格ビジネス・モデルの副産物として避けることができないというわけだ。
こうした説明に納得がゆかなかったトンは、低価格が成功に必須とされることでは同様の小売り企業で、別のアプローチをとっている会社を探すことにした。そして予想通り、そういう会社を何社か見つけることができた。
◆ 低価格と望ましい職は両立できる
この観点からトンが最も頻繁に引用するのは、メルカドーナというスペインの食料品チェーンと、オクラホマ州タルサにあるクイック・トリップの2社だ。クイック・トリップは、セブン・イレブンなどと競合するコンビニ/ガソリンスタンドのチェーン店だ。
メルカドーナに関してトンが最初に驚いたのは、年間の離職率が、ほとんど前代未聞の4%という低さだということだ。従業員は、なぜ定着しているのだろう? 転送してくれた講演原稿の中で、トンは次のように言っている。
「彼らは妥当な給与をもらい、経費が5000ドルがかかる4週間のトレーニングを受け、勤務スケジュールも安定している……そして、毎日、顧客の前で力を発揮する機会を与えられている」食料品店は、1ペニー1ペニーが重要な意味をもつ利ザヤの低いビジネスだ。もしメルカドーナがこの戦略を導入して価格を低く抑えられらないのなら、そんな戦略はとうの昔に捨てていたはずだ。
売上110億ドル、722店舗を有するクイック・トリップは、トンが言うところの「人間志向型経営戦略」を実践している格好の事例だ。
従業員に中産階級並の賃金を支払うことで、この会社は彼らから最大のものを引き出すことができている。
従業員たちは複数機能のトレーニングを受けるので、異なる仕事ができる。彼らは問題を自分で解決できる。そして、自分の店舗の商品売買に関する決定を自ら行う。
クイック・トリップの賃金が高いことは、最終的に、人件費以外のあらゆる運営分野でのコスト削減につながっているのだ。
クイック・トリップでは、商品が奥の部屋に置かれたままということはなく、店内プロモーションは常に計画通り実践されているとトンは語っている。
望ましい職の創出戦略に対するトンの関心対象は、今やアカデミズムを超えている。彼女は布教者となり、このアプローチを広めてすべての企業が改善されるよう努めているのだ。
「低価格と望ましい職は、どちらか一方しか実現できないというのは間違った推論です」とトンは言う。
中産階級向けの職が将来どこからもたらされるのかが心配されるなか、トンのメッセージは、アスペンだけでなく米国中で耳を傾けるべきものと言えよう。
文/ジョー・ノセラ
翻訳/オフィス松村
『現代ビジネス』(2月7日)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160207-00047731-gendaibiz-bus_all
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