◆ 10~20代「期待する政党」自民が58・2%
“若者保守化”背景に偏向国家主義教育 (紙の爆弾)
対都教委"君が代"訴訟10団体が昨年10月24日開催した「学校に自由人権を!」大集会
「今、期待する政党は?」の問いに、一位・自民党が五八・二%とダントツ。同党と同様、憲法改”正”を党是とする日本維新の会四・六%、”前向き”な国民民主党四・五%、加憲の公明党五・八%を加えると計七三・一%で、衆参両院での明文改憲発議に必要な「三分の二」どころか、「四分の三」に迫る超高率。
一方、自民党的な改憲に反対する勢力は、立憲民主党が一二・六%、日本共産党は四・二%、れいわ新選組は二・九%、社民党は二%と、計二割強に留まる。
これは、学校総選挙プロジェクト(株式会社Tポイント・ジャパン等が母体)が二〇一二年九月十三日~十月三十一日(衆院選投票日)、全国の十~二十九歳を対象に実施したネット投票の冷厳な結果だ。
NHK等が無作為抽出して電話等で実施する世論調査とは異なる、ネット投票方式なので、一人が家族や友人等の端末を使い何回も投票するのは可能、十八歳以上の有権者ではなく、憲法や国の政治を全く学習していない年代も含んでいる(ちなみに文部科学省が「大綱的基準として法的拘束力あり」としている学習指導要領の社会科では、十歳児=小4では都道府県や水・電気の供給等を学ぶ)等、必ずしも”正確”なデータとはいえない面はある。だが、立民や共産等の支持者が相当数いるのは中高年であり、このまま年月が経っていくと(もちろん元気に投票に行ける高齢者もいるが)、改憲勢力への投票が全体でも前出の「四分の三」へと増えていく危険性は否定できない。
◆ “若者保守化”の主因は偏向政治教育
こうした若者の政治的保守化を示す調査結果の原因の一つに、現在の学校での偏向政治教育があると考えられる。
○八年の指導要領改訂当時、文科省教育課程企画室長として安倍晋三元首相側近の衛藤晟一(せいいち)参院議員と面会した、合田(ごうだ)哲雄氏(現内閣府科学技術・イノベーション推進事務局審議官。五十二歳)が、中学社会で自衛隊を教える内容に(それまでの「国の防衛」に加え)「国際貢献」も入れたり(結果、PKOや米国の軍事行動支援の自衛隊派兵を教科書に肯定的に記述させた)、同氏が教育課程課長として一七年改訂の指導要領の小4社会に、”国の機関”のはずの自衛隊を災害派遣とはいえ突如、前倒しして入れてしまう(文科省作成の『指導要領解説』は、自衛隊は軍事面でも役立つ旨教えるよう踏み込む)といった具合に、「自衛隊増強・日米軍事同盟強化は抑止力として是だ」とする、自民・維新等の”国家安全保障”政策に近い、学校教育における教化(indoctrination)が浸透してきているのだ。
学校総選挙プロジェクトのウェブサイトは、自民党に期待する代表的理由の一つに、「政党を変えると(社会が)大幅に変わってしまうので、今の状態をなるべく維持して欲しいから」(二十一歳・女性。下線は筆者)を挙げている。
だが、この「今の状態」の自民党の軍事政策は、もはや”専守防衛”ですらなく、海自の護衛艦かが・いずもを空母化(戦闘機も離発着)、敵基地攻撃力保有も是とし、軍事費倍増・憲法九条改悪も進める段階に至っている。
「学問と政治の世界において議論があることは、授業においても議論があるものとして扱わなければならない」と明記した旧西ドイツのボイテルスバッハ・コンセンサス(一九七六年。政治教育の基本原則)に則り、特定の保守政党に有利な政治教育をしないよう、指導要領の偏向部分については、政府の政策への賛否両論を扱う授業等を、学校現場には期待したい。(詳細は『マスコミ市民』二二年一月号拙稿参照)
◆ 政治まみれの君が代”教化
若者の「今の状態=現状維持志向」の保守化は、ナショナリズムの教育にも起因する。”天皇の治世の永続を願う”意で国家主義色の濃い、”君が代”の強制に絞って見ていく。
旧文部省は八九年改訂の小中高校等の特別活動の指導要領で、入学・卒業式等での”君が代”斉唱を、それまでの「望ましい」から「指導するものとする」に変え強制。ただ小学校音楽の指導要領では「各学年を通じ」と「指導すること」の間に、「児童の発達段階に即して」という文言を入れていた。
しかし、九八年十二月の改訂で「児童の発達段階に即して」を削除。○八年の改訂では、前出・衛藤議員の要求通り、合田氏は「指導すること」の前に、改訂案の段階ではなかった「歌えるよう」の五文字を加筆してしまった。
音楽の指導要領は”君が代”以外の楽曲で「歌えるよう」という、いわば到達目標まで強制する記述は一切ない。文科省による”君が代”強制はドロドロとした政治に塗(まみ)れているのだ。
この文科省に輪をかけ、政治圧力で”君が代”を強制し続けているのが東京都教育委員会だ。筆者が過去に本誌(一七年六月・十一月号等)で詳述してきた実態を、次の1~4に要約する。そのうえで、3の「政治圧力」についてはこれまで都議中心に述べてきたが、都教育委員による政治圧力は紹介してこなかったので、新たに追加して5~8にまとめた。
1 東京の公立学校、特に都立学校の多くは長年、同僚性重視の「鍋蓋型」(校長・教頭以外はフラットな組織)で、全教職員が一堂に会する職員会議で民主的に決め、「児童生徒が主人公。君が代なし」の学校運営をしていた。
だが都教委は、九八年の学校管理規則改悪で職員会議の位置付けを”校長の補助機関”にし、〇三年の職層化導入決定後「校長→副校長→主幹教諭→主任教諭→教諭」という上意下達の“ピラミッド型”組織にしてしまった。
2 1のレールを敷いたうえで、中島元彦都教育長(青島幸男知事が任命。以下、当時)が九九年十月に出した第一次通達により、”君が代”を強制。
ただし不起立等教職員への懲戒処分までは言及しておらず、式開始前、生徒や保護者に憲法の保障する「思想・良心・信教の自由」を説明する学校も相当数あった。
3 第一次通達発出後、古賀俊昭(自民。二〇年三月、七十二歳で死去)・土屋敬之(たかゆき)(民主党除名後、日本創新党を経て引退)の両都議らの政治圧力と癒着し、横山洋吉教育長(石原慎太郎知事が任命)が〇三年十月、「教職員は式場の舞台壇上正面に掲揚した国旗に向かって起立し”君が代”を斉唱する。”君が代”はピアノ伴奏」等を盛り込んだ、第二次に当たる”10・23通達”を発出した。
全公立学校の校長に職務命令を出させ、不起立や伴奏拒否の教職員を懲戒処分にし続け、”再発防止”と称するいじめ研修も強制(ただし戒告以上の減給等への累積加重処分は、一二年一月の最高裁判決やその後の判決を受け、断念するようになった)。
4 被処分教職員は一月末現在、延べ四八四人に及ぶ。都教委が判決に従い減給等重い処分を取消したあと、現職教員には戒告処分(1ランク”軽い”というが実際は給与減となる)を出し直す再処分は、延べ二十件・十九人。”君が代”時、教員に”範”を垂れさせ、児童・生徒全員を起立・斉唱させる意図が鮮明。
5 九九年の国旗国歌法審議時、小渕恵三首相は「国民に対して強制することはない。国旗国歌を児童生徒の内心にまで立ち至って強制しようとする趣旨のものでなく、あくまでも教育指導上の課題として指導を進めていくことを意味するものでございます」等、答弁していた。
だが、〇三年四月十日の都教委定例会では「あなたたちの腰が引けているように思ったのです。官僚のきれいな説明に過ぎないような気がしますね」等の放言が飛び交ったあと、前出・横山氏が「そもそも国旗国歌については強制しないという(前出の)政府答弁から始まっている混乱なのです」と非難。憲法第九九条で憲法尊重擁護義務を課せられている公務員のトップにあいわおるまじき発言だ。この後、鳥海巌教育委員(石原氏が任命。元丸紅会長)が「だから政府答弁が間違っているのです」と主張した。
6 〇四年三月三十日の都教委臨時会で清水司教育委員長(青島氏が任命)が「国旗国歌実施は大事。日本人なんだから。日本人じゃないということを表明するなら話は別ですけど」と、外国人児童・生徒・教職員等への配慮がないどころか、戦前・戦中の”非国民”を髪髭(ほうふつ)とさせる排外主義的発言をした。
7 都教委が〇四年四月九日に開催した教育施策連絡会(都の公立学校校長や区市町村教育委員を対象)で、鳥海氏は入学式・卒業式等の”君が代”強制に反対する教職員を非難し、「企業の改革でも、わずかの少数派はあくまで反対。これは徹底的に潰さないと禍根が残る。特に半世紀巣くってきているがんだから、痕跡を残しておくわけにはいかない。がん細胞を少しでも残すと、またすぐ増殖してくるのは目に見えているわけです。徹底的にやる」と放言。自分と違う思想の教職員を差別・敵視し、「がん細胞」呼ばわりする同氏こそ、教育委員不適格である。
8 〇四年五月二十四日の都教委定例会で米長邦雄教育委員(石原氏が任命)が「逆らった(”君が代”起立等の職務命令を口頭で発したが、文書での個別命令は出さなかった)校長を呼びつけて、お詫びをさせるべきだ」と発言。内館牧子教育委員(石原氏が任命)が賛同しフォローした。
◆ 強制に抗う生徒・教職員たち
第一次通達初適用の二〇〇〇年三月の都立高卒業式では、筆者が知るだけでも国立(くにたち)・戸山・豊多摩・永山等の生徒・保護者の大多数が”君が代”時不起立を貫き、校歌では全員起立する抗議の意思表示を行なっている。保護者・市民が校門前でビラまきも行なった。特に国立高校では、生徒たちが多田丈夫校長と”君が代”問題で数回話し合いを続けてきており、式当日は監視に来ていた都教委職員に対し、生徒会代表が壇上からマイクを使い「都教委の方は、僕たちの校長先生をいじめないで下さい」と呼びかけ、生徒・保護者から大きな拍手が湧き起こった。
10・23通達後の〇四年三月の卒業式以降も、板橋・工芸等都立高の多くの生徒が”君が代”不起立を貫き、〇五年三月の戸山高校卒業式では生徒が壇上から、前出・国立高と同趣旨の内容に加えて「君が代斉唱で生徒が座っていないかをチェックして先生を処分する。教師を人質にとった思想統制と私は考えています」と、呼びかけた。
近年、通達や前出・音楽の指導要領の浸透で生徒の不起立は減ったが、一四年三月の大阪府立高校卒業式では、木村ひびきさんが校門前で同級生等に手作りのビラ二○○枚を配ったあと、会場内で不起立を貫いている。
本誌二一年六月号で第一報した、都立学校の現・元教職員十五人が”君が代”不起立への二六件の処分の取消しを求めている第五次訴訟の、十一月八日の第二回口頭弁論での三人の意見陳述を、最後に紹介する。
英語科の女性非常勤教員(一九年定年退職)は、「もし私が処分を恐れ起立斉唱したら、権威には逆らえないと生徒に教えることになり、圧倒的な同調圧力に屈し、立てと強制する側に回ってしまう。これだけはできない。教員が疑問を持たず、議論もしない学校で、生徒に自由闊達な議論の場を作れるでしょうか」と語った。
地理歴史科の男性再任用教諭は、「都教委の姿勢には、役所がやることは自動的に『公共の正義」であるかのような錯覚・誤認がある。しかし、『ナチス支配下でアンネ・フランクの一家を支えていたミープさんたちは、ユダヤ人迫害の命令に従わず、杉原千畝も政府の意向に反しビザを出し続けた』等、歴史上、官公庁の命令への不服従が正義だった例は枚挙に暇(いとま)がない。逆に、アドルフ・アイヒマンは自らの思考は停止させ、命令を無謬(むびゅう)の存在と位置付け唯々諾々と従い、公共の正義とは正反対の不道徳行為=ユダヤ人大量虐殺の一翼を担った。私たちは公共の善という視点から行政の過ちを正すべき。アイヒマン的人間を作らない教育こそ目指すべきものです」と述べた。
雪竹(ゆきたけ)奈緒弁護士は、「校長の裁量の余地があった第一次通達と、職務命令発出を強制する”10・23通達”とは質的変容がある。10・23通達は、(前出3~8の)国旗国歌を利用し”愛国心教育”を謀む強い政治圧力を受け、都教委が方針変更し発出した」と指摘した。
日野市立南平(みなみだいら)小では10・23通達の四年以上前の入学式で、当時の校長が”君が代”ピアノ伴奏強制に固執。断った音楽専科教諭を都教委・市教委が結託し戒告処分に。この教諭に教頭は「君が代を弾く間、ロボットになりなさい」と放言。アイヒマンの亡霊は復活している。
※ 永野厚男(ながのあつお) 文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
『紙の爆弾』(2022年3月号)
“若者保守化”背景に偏向国家主義教育 (紙の爆弾)
取材・文 永野厚男
対都教委"君が代"訴訟10団体が昨年10月24日開催した「学校に自由人権を!」大集会
「今、期待する政党は?」の問いに、一位・自民党が五八・二%とダントツ。同党と同様、憲法改”正”を党是とする日本維新の会四・六%、”前向き”な国民民主党四・五%、加憲の公明党五・八%を加えると計七三・一%で、衆参両院での明文改憲発議に必要な「三分の二」どころか、「四分の三」に迫る超高率。
一方、自民党的な改憲に反対する勢力は、立憲民主党が一二・六%、日本共産党は四・二%、れいわ新選組は二・九%、社民党は二%と、計二割強に留まる。
これは、学校総選挙プロジェクト(株式会社Tポイント・ジャパン等が母体)が二〇一二年九月十三日~十月三十一日(衆院選投票日)、全国の十~二十九歳を対象に実施したネット投票の冷厳な結果だ。
NHK等が無作為抽出して電話等で実施する世論調査とは異なる、ネット投票方式なので、一人が家族や友人等の端末を使い何回も投票するのは可能、十八歳以上の有権者ではなく、憲法や国の政治を全く学習していない年代も含んでいる(ちなみに文部科学省が「大綱的基準として法的拘束力あり」としている学習指導要領の社会科では、十歳児=小4では都道府県や水・電気の供給等を学ぶ)等、必ずしも”正確”なデータとはいえない面はある。だが、立民や共産等の支持者が相当数いるのは中高年であり、このまま年月が経っていくと(もちろん元気に投票に行ける高齢者もいるが)、改憲勢力への投票が全体でも前出の「四分の三」へと増えていく危険性は否定できない。
◆ “若者保守化”の主因は偏向政治教育
こうした若者の政治的保守化を示す調査結果の原因の一つに、現在の学校での偏向政治教育があると考えられる。
○八年の指導要領改訂当時、文科省教育課程企画室長として安倍晋三元首相側近の衛藤晟一(せいいち)参院議員と面会した、合田(ごうだ)哲雄氏(現内閣府科学技術・イノベーション推進事務局審議官。五十二歳)が、中学社会で自衛隊を教える内容に(それまでの「国の防衛」に加え)「国際貢献」も入れたり(結果、PKOや米国の軍事行動支援の自衛隊派兵を教科書に肯定的に記述させた)、同氏が教育課程課長として一七年改訂の指導要領の小4社会に、”国の機関”のはずの自衛隊を災害派遣とはいえ突如、前倒しして入れてしまう(文科省作成の『指導要領解説』は、自衛隊は軍事面でも役立つ旨教えるよう踏み込む)といった具合に、「自衛隊増強・日米軍事同盟強化は抑止力として是だ」とする、自民・維新等の”国家安全保障”政策に近い、学校教育における教化(indoctrination)が浸透してきているのだ。
学校総選挙プロジェクトのウェブサイトは、自民党に期待する代表的理由の一つに、「政党を変えると(社会が)大幅に変わってしまうので、今の状態をなるべく維持して欲しいから」(二十一歳・女性。下線は筆者)を挙げている。
だが、この「今の状態」の自民党の軍事政策は、もはや”専守防衛”ですらなく、海自の護衛艦かが・いずもを空母化(戦闘機も離発着)、敵基地攻撃力保有も是とし、軍事費倍増・憲法九条改悪も進める段階に至っている。
「学問と政治の世界において議論があることは、授業においても議論があるものとして扱わなければならない」と明記した旧西ドイツのボイテルスバッハ・コンセンサス(一九七六年。政治教育の基本原則)に則り、特定の保守政党に有利な政治教育をしないよう、指導要領の偏向部分については、政府の政策への賛否両論を扱う授業等を、学校現場には期待したい。(詳細は『マスコミ市民』二二年一月号拙稿参照)
◆ 政治まみれの君が代”教化
若者の「今の状態=現状維持志向」の保守化は、ナショナリズムの教育にも起因する。”天皇の治世の永続を願う”意で国家主義色の濃い、”君が代”の強制に絞って見ていく。
旧文部省は八九年改訂の小中高校等の特別活動の指導要領で、入学・卒業式等での”君が代”斉唱を、それまでの「望ましい」から「指導するものとする」に変え強制。ただ小学校音楽の指導要領では「各学年を通じ」と「指導すること」の間に、「児童の発達段階に即して」という文言を入れていた。
しかし、九八年十二月の改訂で「児童の発達段階に即して」を削除。○八年の改訂では、前出・衛藤議員の要求通り、合田氏は「指導すること」の前に、改訂案の段階ではなかった「歌えるよう」の五文字を加筆してしまった。
音楽の指導要領は”君が代”以外の楽曲で「歌えるよう」という、いわば到達目標まで強制する記述は一切ない。文科省による”君が代”強制はドロドロとした政治に塗(まみ)れているのだ。
この文科省に輪をかけ、政治圧力で”君が代”を強制し続けているのが東京都教育委員会だ。筆者が過去に本誌(一七年六月・十一月号等)で詳述してきた実態を、次の1~4に要約する。そのうえで、3の「政治圧力」についてはこれまで都議中心に述べてきたが、都教育委員による政治圧力は紹介してこなかったので、新たに追加して5~8にまとめた。
1 東京の公立学校、特に都立学校の多くは長年、同僚性重視の「鍋蓋型」(校長・教頭以外はフラットな組織)で、全教職員が一堂に会する職員会議で民主的に決め、「児童生徒が主人公。君が代なし」の学校運営をしていた。
だが都教委は、九八年の学校管理規則改悪で職員会議の位置付けを”校長の補助機関”にし、〇三年の職層化導入決定後「校長→副校長→主幹教諭→主任教諭→教諭」という上意下達の“ピラミッド型”組織にしてしまった。
2 1のレールを敷いたうえで、中島元彦都教育長(青島幸男知事が任命。以下、当時)が九九年十月に出した第一次通達により、”君が代”を強制。
ただし不起立等教職員への懲戒処分までは言及しておらず、式開始前、生徒や保護者に憲法の保障する「思想・良心・信教の自由」を説明する学校も相当数あった。
3 第一次通達発出後、古賀俊昭(自民。二〇年三月、七十二歳で死去)・土屋敬之(たかゆき)(民主党除名後、日本創新党を経て引退)の両都議らの政治圧力と癒着し、横山洋吉教育長(石原慎太郎知事が任命)が〇三年十月、「教職員は式場の舞台壇上正面に掲揚した国旗に向かって起立し”君が代”を斉唱する。”君が代”はピアノ伴奏」等を盛り込んだ、第二次に当たる”10・23通達”を発出した。
全公立学校の校長に職務命令を出させ、不起立や伴奏拒否の教職員を懲戒処分にし続け、”再発防止”と称するいじめ研修も強制(ただし戒告以上の減給等への累積加重処分は、一二年一月の最高裁判決やその後の判決を受け、断念するようになった)。
4 被処分教職員は一月末現在、延べ四八四人に及ぶ。都教委が判決に従い減給等重い処分を取消したあと、現職教員には戒告処分(1ランク”軽い”というが実際は給与減となる)を出し直す再処分は、延べ二十件・十九人。”君が代”時、教員に”範”を垂れさせ、児童・生徒全員を起立・斉唱させる意図が鮮明。
5 九九年の国旗国歌法審議時、小渕恵三首相は「国民に対して強制することはない。国旗国歌を児童生徒の内心にまで立ち至って強制しようとする趣旨のものでなく、あくまでも教育指導上の課題として指導を進めていくことを意味するものでございます」等、答弁していた。
だが、〇三年四月十日の都教委定例会では「あなたたちの腰が引けているように思ったのです。官僚のきれいな説明に過ぎないような気がしますね」等の放言が飛び交ったあと、前出・横山氏が「そもそも国旗国歌については強制しないという(前出の)政府答弁から始まっている混乱なのです」と非難。憲法第九九条で憲法尊重擁護義務を課せられている公務員のトップにあいわおるまじき発言だ。この後、鳥海巌教育委員(石原氏が任命。元丸紅会長)が「だから政府答弁が間違っているのです」と主張した。
6 〇四年三月三十日の都教委臨時会で清水司教育委員長(青島氏が任命)が「国旗国歌実施は大事。日本人なんだから。日本人じゃないということを表明するなら話は別ですけど」と、外国人児童・生徒・教職員等への配慮がないどころか、戦前・戦中の”非国民”を髪髭(ほうふつ)とさせる排外主義的発言をした。
7 都教委が〇四年四月九日に開催した教育施策連絡会(都の公立学校校長や区市町村教育委員を対象)で、鳥海氏は入学式・卒業式等の”君が代”強制に反対する教職員を非難し、「企業の改革でも、わずかの少数派はあくまで反対。これは徹底的に潰さないと禍根が残る。特に半世紀巣くってきているがんだから、痕跡を残しておくわけにはいかない。がん細胞を少しでも残すと、またすぐ増殖してくるのは目に見えているわけです。徹底的にやる」と放言。自分と違う思想の教職員を差別・敵視し、「がん細胞」呼ばわりする同氏こそ、教育委員不適格である。
8 〇四年五月二十四日の都教委定例会で米長邦雄教育委員(石原氏が任命)が「逆らった(”君が代”起立等の職務命令を口頭で発したが、文書での個別命令は出さなかった)校長を呼びつけて、お詫びをさせるべきだ」と発言。内館牧子教育委員(石原氏が任命)が賛同しフォローした。
◆ 強制に抗う生徒・教職員たち
第一次通達初適用の二〇〇〇年三月の都立高卒業式では、筆者が知るだけでも国立(くにたち)・戸山・豊多摩・永山等の生徒・保護者の大多数が”君が代”時不起立を貫き、校歌では全員起立する抗議の意思表示を行なっている。保護者・市民が校門前でビラまきも行なった。特に国立高校では、生徒たちが多田丈夫校長と”君が代”問題で数回話し合いを続けてきており、式当日は監視に来ていた都教委職員に対し、生徒会代表が壇上からマイクを使い「都教委の方は、僕たちの校長先生をいじめないで下さい」と呼びかけ、生徒・保護者から大きな拍手が湧き起こった。
10・23通達後の〇四年三月の卒業式以降も、板橋・工芸等都立高の多くの生徒が”君が代”不起立を貫き、〇五年三月の戸山高校卒業式では生徒が壇上から、前出・国立高と同趣旨の内容に加えて「君が代斉唱で生徒が座っていないかをチェックして先生を処分する。教師を人質にとった思想統制と私は考えています」と、呼びかけた。
近年、通達や前出・音楽の指導要領の浸透で生徒の不起立は減ったが、一四年三月の大阪府立高校卒業式では、木村ひびきさんが校門前で同級生等に手作りのビラ二○○枚を配ったあと、会場内で不起立を貫いている。
本誌二一年六月号で第一報した、都立学校の現・元教職員十五人が”君が代”不起立への二六件の処分の取消しを求めている第五次訴訟の、十一月八日の第二回口頭弁論での三人の意見陳述を、最後に紹介する。
英語科の女性非常勤教員(一九年定年退職)は、「もし私が処分を恐れ起立斉唱したら、権威には逆らえないと生徒に教えることになり、圧倒的な同調圧力に屈し、立てと強制する側に回ってしまう。これだけはできない。教員が疑問を持たず、議論もしない学校で、生徒に自由闊達な議論の場を作れるでしょうか」と語った。
地理歴史科の男性再任用教諭は、「都教委の姿勢には、役所がやることは自動的に『公共の正義」であるかのような錯覚・誤認がある。しかし、『ナチス支配下でアンネ・フランクの一家を支えていたミープさんたちは、ユダヤ人迫害の命令に従わず、杉原千畝も政府の意向に反しビザを出し続けた』等、歴史上、官公庁の命令への不服従が正義だった例は枚挙に暇(いとま)がない。逆に、アドルフ・アイヒマンは自らの思考は停止させ、命令を無謬(むびゅう)の存在と位置付け唯々諾々と従い、公共の正義とは正反対の不道徳行為=ユダヤ人大量虐殺の一翼を担った。私たちは公共の善という視点から行政の過ちを正すべき。アイヒマン的人間を作らない教育こそ目指すべきものです」と述べた。
雪竹(ゆきたけ)奈緒弁護士は、「校長の裁量の余地があった第一次通達と、職務命令発出を強制する”10・23通達”とは質的変容がある。10・23通達は、(前出3~8の)国旗国歌を利用し”愛国心教育”を謀む強い政治圧力を受け、都教委が方針変更し発出した」と指摘した。
日野市立南平(みなみだいら)小では10・23通達の四年以上前の入学式で、当時の校長が”君が代”ピアノ伴奏強制に固執。断った音楽専科教諭を都教委・市教委が結託し戒告処分に。この教諭に教頭は「君が代を弾く間、ロボットになりなさい」と放言。アイヒマンの亡霊は復活している。
※ 永野厚男(ながのあつお) 文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
『紙の爆弾』(2022年3月号)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます