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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

再処分の取消を求めて「東京『君が代』裁判」5次訴訟

2021年04月26日 | 日の丸・君が代関連ニュース
 ◆ そんなに東京都教育委員会は「空気読む」生徒をつくりたいのか (週刊金曜日)
   永尾俊彦


 3月31日、「東京『君が代』裁判」5次訴訟が提訴された。「君が代」斉唱時に起立すれば、自分だけでなく生徒も裏切ることになると、原告教員らはロ々に言う。信念だけではない、その先には生徒への強制があると思うからだ。
 「これがファシズムか」
 東京都立高校で国語を教える川村佐和さん(62歳)がこう実感したのは2003年11月8日、勤めていた深沢(ふかさわ)高校(世田谷区)の創立40周年記念式典でのことだった。
 式典前の同年10月23日、都教育委員会は、全都立の高校、盲・ろう・養護(現特別支援)学校長に卒・入学式などでの国旗掲揚と国歌斉唱の「実施指針」を通達。同通達に基づく校長の職務命令に教職員が従わないと、服務上の責任を問われるとした(「10・23通達」)。
 これが都立の教育を根底から変えたと、多数の教職員が言う。

 それまで多くの都立学校では、生徒がつくる卒・入学式が行なわれてきた。
 深沢高校では、摂食障害で亡くなった卒業生がいた年は、1部は卒業証書授与、2部で死去した生徒の追悼ビデオ上映やスピーチ、生徒が作詞作曲した曲の合唱が行なわれるなど、2部形式にした。
 来賓の元校長は、「君たちは素晴らしい」とたたえた。

 同校の卒業式は、体育館のフロアで卒業生と在校生が向かい合う形式で行なわれてきた。卒業の嬉しさに輝く顔、涙ぐむ顔が見え、喜びをわかち合えた。
 しかし01年に着任した新校長は、「厳粛な式をするためには舞台壇上で」と、02年の卒業式でフロア形式を禁じた
 翌03年卒業式でも生徒はフロア形式を望んだが、校長は「フロア形式で行なったら校長でいられなくなる」と認めなかった。
 川村さんは生徒に、「間違っていることには間違っていると言える勇気を持って」と話してきた。その正論が通らない虚しさ……。
 そして「1O・23通達」が出される。息ができないような気がした。
 直後の40周年記念式典で校長は、起立斉唱の職務命令を出した。
 当日、都教委は不起立の確認のために、職員を6人も派遣。反発し、「国歌斉唱」で3分の2の生徒が座ったクラスがあった。川村さんら数人の教職員も座った。
 式後、都教委職員らは座席表と照らし合わせて不起立者を確認。その雰囲気は、戦前の「特高」(特別高等警察)を想起させた。
 ◆ 「恐怖」で支配する都教委

 これまで、職務命令に反して起立や「君が代」伴奏をせず、戒告、減給、停職などの懲戒処分を受けた都内の公立学校(小・中・高・特別支援)の教職員はのべ484人にのぼる(処分された教職員でつくる「被処分者の会」)。
 川村さんはこれまで3回の不起立で、いずれも戒告処分を受けた。戒告は懲戒処分の中では最も軽い。だが、ボーナスの削減や昇給延伸などの経済的打撃を受ける。
 処分には、再発防止研修を課される。地方公務員法などの講義を所属校の校長とともに受講する。13年の再発防止研修で、研修部長は川村さんにこう言った。
 「この研修は当たり前のことをやっているのであって、それを苦痛と感じるなら、あなたの考えを変えていただかないと」。やはり「思想転向」が、目的だったのだ。
 そのほか担任から外す、遠隔地への異動などのイジメにあう。「生徒が大好き」な川村さんは、担任を持てないことが最もつらい。
 さらに、都立学校教員は60歳定年退職後、65歳まで再任用で働ける。だが、不起立等で処分された教員は、年金支給開始年齢で任期を更新しないと都教委から通告される。「クビ切り」の事前宣告だ。「都教委は、ホント恐ろしいなと思います」と川村さん。「恐怖」による支配だ。
 それでも、起立はできない。
 「起立すれば『間違っていると言える勇気を持って』と言ってきた自分自身だけでなく、生徒も裏切ることになります。胸を張って生徒の前に立てません」
 処分の取り消しを求め、これまで川村さんは「東京『君が代』裁判」の1次訴訟、4次訴訟、そして3月31日に提訴された5次訴訟の原告になった。
 ◆ 止まらぬ「権利の濫用」

 原告は15人。現職10人、元職5人。減給6件、戒告4件のほか、初めて再処分16件の取り消しも求める。
 再処分とは、一度出された処分が「重すぎて裁量権の濫用」と裁判所が取り消した教員に、都教委が処分を出し直すことだ。
 都立久我山青光(くがやませいこう)学園の教員、田中聡史さん(52歳)にとって、「日の丸・君が代」は天皇の軍隊の侵略戦争のシンボルだ。
 田中さんも不起立を続け、10回処分を受けた。3回は戒告、7回は減給10分の1を一カ月だ。
 前半5回の戒告と減給の取り消しを求めて4次訴訟の原告になり、減給2回は取り消しに、戒告3回は取り消されなかった。
 すると都教委は減給の代わりに戒告処分を出し直した。14年度から戒告は、以前より重い経済的打撃になるよう規則が改定。
 5次訴訟では、残り5回の減給と再処分の取り消しを求める。

 原告の澤藤統一郎弁護士はこう言う。「何年も争ってやっと減給が取り消されたのに、また何年も遡って戒告にする。しかも以前の戒告より重い不利益が科される。それでも権利の濫用と言えないのか
 「10・23通達」関連の処分取り消し訴訟は、東京「君が代」裁判を含め25件起こされ、66人77件の処分が取り消されている(同会)。
 また、減給以上の処分は原則取り消され、不起立の回数に加重して処分を戒告、減給、停職と重くし、免職に追い込む「思想転向強要システム」は頓挫させた。ただ、違憲判決は勝ち取れていない。
 しかし19年春、国際労働機関と国連教育科学文化機関の合同専門委員会は、都と大阪府で処分された教員の申し立てに応え、教員団体と対話する機会を設けるよう日本政府に勧告した。
 勧告では、「愛国的式典」で起立斉唱を強制するのは「個人の価値観や意見を侵害する」と明言。原告・弁護団は、この観点から初めての判断を裁判所に求める。
 これまでの教員と文部科学省の交渉では、同省は勧告を「法的拘束力がない」などと無視。都教委も話し合いによる解決を求める教員側の要求を突っぱねている。
 筆者は、「18年も続く争いをどう解決するのか」などと都教委に質したが、訴状が届いていないとして回答を拒否された。
 今春の卒・入学式では感染防止のため、歌唱入りCDを起立して聞くよう職務命令が出された
 都教委がここまで「日の丸・君が代」にこだわるのはなぜか。「10・23通達」の真の目的を、原告と弁護団は次のように指摘する。
①不服従教員をあぶりだし、上意下達の都教委支配を実現すること。
②そのことで、生徒に国歌斉唱時の不起立不斉唱が罪悪であると教え、起立斉唱を強制すること。
 教職員が一斉に起立すれば、生徒に強烈な同調圧力がかかる。「日の丸・君が代」の意味や歴史を教えず、考えさせず、「儀礼」として刷り込む。生徒は同調圧力に迎えられて入学し、同調圧力にトドメを刺されて卒業していく。
 結局、都教委にとっては、「空気を読む」生徒が望ましいのだ。
 「都立高等学校における『国旗・国歌』の現状と課題」(03年7月9日高等学校教育指導課)という文書がある。そこには「『国旗・国歌』の適正な実施は(略)学校経営上の最大の課題」とある。
 国旗国歌の強制こそ、学校支配のカギだと都教委は見抜いている。
 これは天皇制を利用、「恐怖」で教育を支配する点で戦前と同じだ。

 前出の川村さんは高知県出身。土佐の「いごっそう」(反骨精神あふれる人)が誇りだ。最近ある音楽家のライブに行った。テーマは「スノウドロップ(待雪草)」。花言葉は「絶望の中の希望」だ。
 「14人がまだともに闘ってくれる。5次訴訟が、自由な学校を取り戻したいと願う人々の希望になるよう頑張りたい」
 ※ ながおとしひこ・ルポライター。最新刊に『ルポ「日の丸・君が代」強制』(緑風出版)。
『週刊金曜日 1326号』(2021年4月23日)

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