◆ 対韓輸出規制の「即時撤回」を。
「徴用工問題」にはどう向き合えばいいのか (ハーバービジネスオンライン)
内田雅敏弁護士
◆ 「韓国は『敵』なのか」
日本が韓国への輸出規制を強化してからおよそ1か月が経った。韓国政府も今月12日、輸出管理における優遇国から日本を除外。日韓関係は悪化の一途を辿っている。
こうした中、和田春樹東京大学名誉教授らは7月下旬、韓国に対する輸出規制を即時撤回するよう求める声明「韓国は『敵』なのか」を発表した。8月31日には、在日本韓国YMCA(東京都千代田区)で集会を開催する予定だという。
声明を出した世話人の一人であり、中国人の強制労働問題を和解に導いてきた内田雅敏弁護士は、「日本政府は韓国への輸出規制を撤回すべきだ。“徴用工”問題については、加害の事実を認めて謝罪し、将来の戒めのために歴史教育に力を入れるべき」と指摘する。
◆ 新日鉄に賠償を命じた大法院判決、“請求権協定”には反しない
日本は7月4日、フッ化水素など半導体材料3品目の韓国への輸出規制を強化した。さらに今月2日には、「ホワイト国」から韓国を除外すると決定した。
これは、いわゆる「徴用工問題」への報復措置だと思われる。
昨年10月、韓国の最高裁にあたる大法院は、新日鉄住金に対し、韓国人の原告4人に4億ウォン(約4000万円)を支払うように命じる判決を下した。原告らは、第二次世界大戦中に強制労働をさせられたと訴えていた。
日本国内では、この判決に対し反発する意見が続出した。1965年に韓基本条約とともに結ばれた、いわゆる“請求権協定”に反するというのだ。
しかし内田弁護士は、「請求権協定で、国家の外交保護権は放棄されたが、個人の請求権は放棄されていない」と指摘する。
◆ 国家の外交保護権と個人の請求権の違いとは
自国民が損害を受けたときに相手国の責任を追及する「外交保護権」と個人の請求権について理解するためには、1952年に発行したサンフランシスコ講和条約(サ条約)とその後の損害賠償請求の歴史について知る必要がある。
サ条約第14条は、日本は連合国に賠償を支払うべきだが、その負担に耐えるだけの経済力がないとしている。そこで、連合国とその国民は日本への賠償請求権を放棄し、その代わりに、日本と日本国民も連合国への賠償請求権を放棄するとした。
第一次大戦後、ドイツに過重な賠償責任を負わせたことで、ナチスが誕生した反省を踏まえてのことだった。
その後、被ばく者らが日本政府に対して賠償請求を行った。
原爆投下は国際法に違反するものであり、被ばく者は米国に対して損害賠償請求権を有するにもかかわらず、日本政府はサ条約によってその権利を放棄してしまった。そう訴えて、日本政府に賠償請求したのだ。
このとき日本政府は、サ条約で放棄したのは、「外交保護権」であり、原爆被害者個人の請求権ではないと抗弁した。要するに、日本政府自ら個人の請求権は放棄していないと認めているのだ。
◆ 日本政府は、日韓の請求権協定についても同様の見解
国家の外交保護権は放棄したが、個人の請求権は放棄していない。――日本政府は、韓国との間に結ばれた請求権協定についても、同様の見解を示してきた。
実際、外務省の柳井俊二・条約局長(当時)は1991年8月27日、参議院の予算委員会でこう述べている。
「日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認するものでございまして、いわゆる個人の財産・請求権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではない」
内田弁護士は、「こうした解釈は、被ばく者からの賠償請求などに直面し、日本政府が自らの責任を免れるために編み出したもの。韓国の大法院の判決も、日本政府の見解と同様の立場を取っている」と指摘する。
◆ 中国では和解が成立しているケースも
韓国の「徴用工問題」がこじれる一方、中国人の強制労働問題では、和解に至ったケースもある。2000年には、鹿島建設(旧鹿島組)と原告である中国人受難者・遺族らの間で和解が成立。
2009年には西松建設と原告らの和解が成立し、同社は一括した和解金として2億5000万円を支払った。
また、受難者ら360人が労働を強いられた中国電力安野発電所内に、事実を記録した碑を建立するとされた。
2016年には、三菱マテリアル(旧三菱鉱業)が元労働者らに1人当たり約170万円を支払うことを約束。記念碑の建設費用や失踪者の調査費用も負担するという。
◆ 「まずは被告企業が判決に対して、どう対応するかが問われるはず」
和田教授らが発表した声明「韓国は『敵』なのか」によると、これら中国人強制連行・強制労働問題では、「日本政府は、民間同士のことだからとして、一切口を挟みませんでした」という。
しかし今回の徴用工問題では、日本政府が介入したことで、日韓関係が悪化してしまった。
「問題になっている元徴用工たちの訴訟は民事訴訟であり、被告は日本企業です。まずは被告企業が判決に対して、どう対応するかが問われるはずなのに、はじめから日本政府が飛び出してきたことで、事態を混乱させ、国対国の争いになってしまいました」
内田弁護士は、「韓国の徴用工問題についても、中国の場合と同じように、私企業が和解金を支払うのを妨げないようにするべきだ」と話す。
加えて「加害の事実を認めて謝罪するとともに、将来に向けた歴史教育が必要」だという。
<取材・文/HBO編集部>
『ハーバービジネスオンライン』(2019/8/19)
https://hbol.jp/199674?cx_clicks_art_mdl=6_title
「徴用工問題」にはどう向き合えばいいのか (ハーバービジネスオンライン)
内田雅敏弁護士
◆ 「韓国は『敵』なのか」
日本が韓国への輸出規制を強化してからおよそ1か月が経った。韓国政府も今月12日、輸出管理における優遇国から日本を除外。日韓関係は悪化の一途を辿っている。
こうした中、和田春樹東京大学名誉教授らは7月下旬、韓国に対する輸出規制を即時撤回するよう求める声明「韓国は『敵』なのか」を発表した。8月31日には、在日本韓国YMCA(東京都千代田区)で集会を開催する予定だという。
声明を出した世話人の一人であり、中国人の強制労働問題を和解に導いてきた内田雅敏弁護士は、「日本政府は韓国への輸出規制を撤回すべきだ。“徴用工”問題については、加害の事実を認めて謝罪し、将来の戒めのために歴史教育に力を入れるべき」と指摘する。
◆ 新日鉄に賠償を命じた大法院判決、“請求権協定”には反しない
日本は7月4日、フッ化水素など半導体材料3品目の韓国への輸出規制を強化した。さらに今月2日には、「ホワイト国」から韓国を除外すると決定した。
これは、いわゆる「徴用工問題」への報復措置だと思われる。
昨年10月、韓国の最高裁にあたる大法院は、新日鉄住金に対し、韓国人の原告4人に4億ウォン(約4000万円)を支払うように命じる判決を下した。原告らは、第二次世界大戦中に強制労働をさせられたと訴えていた。
日本国内では、この判決に対し反発する意見が続出した。1965年に韓基本条約とともに結ばれた、いわゆる“請求権協定”に反するというのだ。
しかし内田弁護士は、「請求権協定で、国家の外交保護権は放棄されたが、個人の請求権は放棄されていない」と指摘する。
◆ 国家の外交保護権と個人の請求権の違いとは
自国民が損害を受けたときに相手国の責任を追及する「外交保護権」と個人の請求権について理解するためには、1952年に発行したサンフランシスコ講和条約(サ条約)とその後の損害賠償請求の歴史について知る必要がある。
サ条約第14条は、日本は連合国に賠償を支払うべきだが、その負担に耐えるだけの経済力がないとしている。そこで、連合国とその国民は日本への賠償請求権を放棄し、その代わりに、日本と日本国民も連合国への賠償請求権を放棄するとした。
第一次大戦後、ドイツに過重な賠償責任を負わせたことで、ナチスが誕生した反省を踏まえてのことだった。
その後、被ばく者らが日本政府に対して賠償請求を行った。
原爆投下は国際法に違反するものであり、被ばく者は米国に対して損害賠償請求権を有するにもかかわらず、日本政府はサ条約によってその権利を放棄してしまった。そう訴えて、日本政府に賠償請求したのだ。
このとき日本政府は、サ条約で放棄したのは、「外交保護権」であり、原爆被害者個人の請求権ではないと抗弁した。要するに、日本政府自ら個人の請求権は放棄していないと認めているのだ。
◆ 日本政府は、日韓の請求権協定についても同様の見解
国家の外交保護権は放棄したが、個人の請求権は放棄していない。――日本政府は、韓国との間に結ばれた請求権協定についても、同様の見解を示してきた。
実際、外務省の柳井俊二・条約局長(当時)は1991年8月27日、参議院の予算委員会でこう述べている。
「日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認するものでございまして、いわゆる個人の財産・請求権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではない」
内田弁護士は、「こうした解釈は、被ばく者からの賠償請求などに直面し、日本政府が自らの責任を免れるために編み出したもの。韓国の大法院の判決も、日本政府の見解と同様の立場を取っている」と指摘する。
◆ 中国では和解が成立しているケースも
韓国の「徴用工問題」がこじれる一方、中国人の強制労働問題では、和解に至ったケースもある。2000年には、鹿島建設(旧鹿島組)と原告である中国人受難者・遺族らの間で和解が成立。
2009年には西松建設と原告らの和解が成立し、同社は一括した和解金として2億5000万円を支払った。
また、受難者ら360人が労働を強いられた中国電力安野発電所内に、事実を記録した碑を建立するとされた。
2016年には、三菱マテリアル(旧三菱鉱業)が元労働者らに1人当たり約170万円を支払うことを約束。記念碑の建設費用や失踪者の調査費用も負担するという。
◆ 「まずは被告企業が判決に対して、どう対応するかが問われるはず」
和田教授らが発表した声明「韓国は『敵』なのか」によると、これら中国人強制連行・強制労働問題では、「日本政府は、民間同士のことだからとして、一切口を挟みませんでした」という。
しかし今回の徴用工問題では、日本政府が介入したことで、日韓関係が悪化してしまった。
「問題になっている元徴用工たちの訴訟は民事訴訟であり、被告は日本企業です。まずは被告企業が判決に対して、どう対応するかが問われるはずなのに、はじめから日本政府が飛び出してきたことで、事態を混乱させ、国対国の争いになってしまいました」
内田弁護士は、「韓国の徴用工問題についても、中国の場合と同じように、私企業が和解金を支払うのを妨げないようにするべきだ」と話す。
加えて「加害の事実を認めて謝罪するとともに、将来に向けた歴史教育が必要」だという。
<取材・文/HBO編集部>
『ハーバービジネスオンライン』(2019/8/19)
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