▼ 《原発賠償法案》 「会社更生法適用を」
国会審議がヤマ場を迎えている原子力損害賠償支援機構法案。福島第一原発事故の損害賠償についての法案だが、民間の有識者団体が「東京電力と関係する特定利益者の負担軽減を優先する不当な内容だ」と批判する提言を発表した。「成立すれば、法治主義の原則を踏み外す」とまで非難しているが、どこが問題なのか。(鈴木伸幸)
▼ 「政府案は不当」 有識者団体が提言
この法案では、東電など原発を持つ電力会社の負担金で「原子力損害賠償支援機構」を新設。機構は国債発行による公的資金などを借り入れ、東電の賠償金の支払いを立て替え、東電が長期間かけて返済する仕組みをつくろうとする内容だ。
これについて、民間の有識者団体「公正な社会を考える民間フォーラム」は「まずは東電に会社更生法を適用せよ」と、緊急提言を発表した。
メンバーで、政策研究大学院大学(東京)の福井秀夫教授(行政法)は「各銀行は債権放棄となる東電の法的整理を避けたい。財政当局は国家賠償をしたくない。東電は会社を維持したいーと三者の思惑が一致。そこで出てきたのが、この政府案だ」と分析する。
「負担は事故に何ら責任のない消費者に転嫁される。しかも機構の新設によって、事故とは関係のない東電以外の電力会社の利用者にも転嫁される。責任のない者に負担を押し付ける。事故の責任は一義的には東電。そして、ステークホルダー(利害関係者)の株主、債権者が負うべきだ」
一般に企業が重大な事故を起こし、巨額な損害賠償責任を負って債務超過となれば、会社更生法が適用され、株主や債権者の責任負担を求められる。それに従えば、今回も、東電が最大限に責任を負い、それでも足らなければ国民負担を求めるというのが筋だ。
東電の貸借対照表によれば、純資産額は約一兆六千億円、金融機関からの長期借入金は約三兆四千億円に上る。東電も出資する原子力関連の公的財団法人には約三兆円もの積立金が眠る。
「それらには手は付けられず、東電と関係者の組織は温存され、収入確保のために電気料金を上げるというのは、不公正の極みだ」
▼ 「東電だけなぜ特別なのか」
同じくメンバーの久保利英明弁護士は「会社更正法とは文字通り、会計を更生させる法律。事業は継続するので『電力供給が止まる』なんてありえない」と強調する。
「日本航空は会社更正手続きを取ったが、飛行機は止まっていない。それに、大企業で不祥事があれば役員一掃は当たり前のこと。企業風土を変えないと、再び問題が起こるからだ。東電はそれもしない。なぜ、東電だけは特別なのか。これではモラルハザード(倫理観の欠如)の塊だ」
東電に会社更生法を適用すれば、金融不安を招くという指摘もある。しかし、福井教授は「理由がない。仮に一部の銀行の経営が影響されても、公的資金注入などの金融安定化スキームがある」と厳しく反論した。
ただ、政界では「東電に対する会社更生法適用案」はいまだ少数意見にとどまっている。
福井教授は「電気事業者による政界工作のせいだ。既得権益者の特権維持策にすぎない。私たちの提言を紹介すると、市民はほぼ百パーセントが賛同する。知られていないだけで、もっとメディアが告知してくれれば世論は変わる」ど話した。
『東京新聞』(2011/7/22【ニュースの追跡】)
国会審議がヤマ場を迎えている原子力損害賠償支援機構法案。福島第一原発事故の損害賠償についての法案だが、民間の有識者団体が「東京電力と関係する特定利益者の負担軽減を優先する不当な内容だ」と批判する提言を発表した。「成立すれば、法治主義の原則を踏み外す」とまで非難しているが、どこが問題なのか。(鈴木伸幸)
▼ 「政府案は不当」 有識者団体が提言
この法案では、東電など原発を持つ電力会社の負担金で「原子力損害賠償支援機構」を新設。機構は国債発行による公的資金などを借り入れ、東電の賠償金の支払いを立て替え、東電が長期間かけて返済する仕組みをつくろうとする内容だ。
これについて、民間の有識者団体「公正な社会を考える民間フォーラム」は「まずは東電に会社更生法を適用せよ」と、緊急提言を発表した。
メンバーで、政策研究大学院大学(東京)の福井秀夫教授(行政法)は「各銀行は債権放棄となる東電の法的整理を避けたい。財政当局は国家賠償をしたくない。東電は会社を維持したいーと三者の思惑が一致。そこで出てきたのが、この政府案だ」と分析する。
「負担は事故に何ら責任のない消費者に転嫁される。しかも機構の新設によって、事故とは関係のない東電以外の電力会社の利用者にも転嫁される。責任のない者に負担を押し付ける。事故の責任は一義的には東電。そして、ステークホルダー(利害関係者)の株主、債権者が負うべきだ」
一般に企業が重大な事故を起こし、巨額な損害賠償責任を負って債務超過となれば、会社更生法が適用され、株主や債権者の責任負担を求められる。それに従えば、今回も、東電が最大限に責任を負い、それでも足らなければ国民負担を求めるというのが筋だ。
東電の貸借対照表によれば、純資産額は約一兆六千億円、金融機関からの長期借入金は約三兆四千億円に上る。東電も出資する原子力関連の公的財団法人には約三兆円もの積立金が眠る。
「それらには手は付けられず、東電と関係者の組織は温存され、収入確保のために電気料金を上げるというのは、不公正の極みだ」
▼ 「東電だけなぜ特別なのか」
同じくメンバーの久保利英明弁護士は「会社更正法とは文字通り、会計を更生させる法律。事業は継続するので『電力供給が止まる』なんてありえない」と強調する。
「日本航空は会社更正手続きを取ったが、飛行機は止まっていない。それに、大企業で不祥事があれば役員一掃は当たり前のこと。企業風土を変えないと、再び問題が起こるからだ。東電はそれもしない。なぜ、東電だけは特別なのか。これではモラルハザード(倫理観の欠如)の塊だ」
東電に会社更生法を適用すれば、金融不安を招くという指摘もある。しかし、福井教授は「理由がない。仮に一部の銀行の経営が影響されても、公的資金注入などの金融安定化スキームがある」と厳しく反論した。
ただ、政界では「東電に対する会社更生法適用案」はいまだ少数意見にとどまっている。
福井教授は「電気事業者による政界工作のせいだ。既得権益者の特権維持策にすぎない。私たちの提言を紹介すると、市民はほぼ百パーセントが賛同する。知られていないだけで、もっとメディアが告知してくれれば世論は変わる」ど話した。
『東京新聞』(2011/7/22【ニュースの追跡】)
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