女性キャラの下着ちら見えに批判が出た自衛隊滋賀地方協力本部作成・隊員募集ポスター
☆ 鹿児島市も強行!自治体が自衛隊に「18歳の名簿提供」(『紙の爆弾』)
取材・文=永野厚男・教育ジャーナリスト
岸田文雄政権の質量両面の軍拡は止まらない。実態を四点に絞り記述する。
① 二〇二三年一月十六日~二十六日、日本国内で初の戦闘機の共同訓練を行なった、航空自衛隊中部航空方面隊の坂本浩一司令官とともに会見したインド空軍西部航空コマンドのパンカジ・モーハン・シンハ司令官が「インドでも戦闘機の共同訓練を実施できるよう、日本側に打診している」と明らかに。
② 岸田首相は二月九日、フィリピンのマルコス大統領と会談し、自衛隊と比国軍との間で共同訓練等を増やすための新たな枠組みの検討を進めることで一致。これは物品役務相互提供協定(ACSA=アクサ)締結を米国・オーストラリア・英国・フランス・カナダ・インドに続き、比国にも拡大させる危険性をはらむ。
③ 政府は二月十日、自衛隊の武器(いわゆる防衛装備品)を製造する企業(軍需産業)の事業継続が困難になった場合、施設や設備(生産ライン)を買い取る形で国有化し、別の企業に管理を委託する、また、武器輸出を官民一体となって進める新たな基金も創設する等、盛った法案を閣議決定。防衛省が契約企業に提供する秘密情報(装備品等秘密)を漏洩(ろうえい)した者は最大一年の拘禁刑または五〇万円以下の罰金刑に。
④ 現在、領空侵犯した有人の軍用機に自衛隊が武器使用できるのは、機体への攻撃から身を守るための正当防衛・緊急避難に該当する場合に限っている(警察官職務執行法の規定を援用)。しかし米国領土に入った中国の気球を米軍機が撃墜したのを受け、防衛省は二月十六日、無人の気球や飛行船については、正当防衛・緊急避難に該当しない場合も武器を使用できるようにする案を自民党の会合で示し、了承された。
いずれも「初の」という語の付く軍拡だが、「行け行けどんどん」の危険は大。たとえば④の自衛隊による武器使用基準の拡大(多くのマスコミは”緩和”と表現)の場合、国際法は、民間機に対する武器の使用を原則、禁止しているため、軍事専門家の一部からは、「武力衝突に発展したり、撃墜した物体が落下し地上の人を死傷させる(毒性物質が入っていた場合はさらに拡大)等の恐れがある」「速度が遅い気球を時速千キロの戦闘機が撃墜するのは非常に難しい」などの指摘が出ている。
なお、日本で一九年十一月以降四回目撃できた気球型の飛行物体は、いずれも自衛隊駐屯地・米軍基地・原子力発電所の上空にあった。
☆ 鹿児島市も十八歳の名簿を自衛隊に渡す
福岡市役所市民局総務部区政推進課が二二年度、市内に住民票のある”自衛隊の募集対象年齢”だという十八歳と二十二歳のうち、個人情報提供拒否者を除く住所・氏名(A4判の紙で約六百枚)を、来庁した自衛隊の募集担当者にポーンと手渡してしまったと、本誌三月号でお伝えした。
だが、鹿児島市役所総務局総務部総務課(以下、鹿児島市当局)も同様の事案を引き起こしていた。
鹿児島市当局は二二年度までは、来庁した自衛隊員が住民基本台帳を閲覧し、「住所・氏名・性別・生年月日」の四情報を書き写していた。実際、二二年度は十八歳になる市民五八八九人のうち、五二%の三〇九〇人もの四情報を書き写したにもかかわらず、鹿児島市当局は、二二年十月二十七日の個人情報保護審議会で、諮問すらせず報告事項として、「二三年度からは十八歳・二十二歳の名簿を紙媒体で渡す。ただし個人情報提供拒否者の除外申請はやる」と、突如表明。
これに対し、「市民の市政をつくる会」など三団体は「自衛隊への紙媒体による名簿提供の撤回を求める請願署名」運動を展開。手書き一四六八筆とオンラインニ万六八八筆を集め、二二年十二月五日、下鶴隆央市長宛提出した(なお三団体は、除外申請を周知するチラシ約三〇〇〇枚を作成し、団体や個人に配布し始めている)。
この後、自衛隊側が二十二歳の情報を求めてこなかったこともあり、鹿児島市当局は一月二十六日の個人情報保護審議会で、対象を十八歳だけとし、「生年月日」の提供は断念したが、「性別」は「自衛隊が望んでいるから」との理由で、「住所・氏名」とともに提供するとした。
一方、鹿児島市当局は「自衛隊からの募集案内の送付を望まない方は『除外申請』を。受付期間は二月一日~四月十四日」等、明記したA4判のチラシを作成し、市内の高校二三校(鹿児島県立・市立・私立)と高等専修学校全てに数枚ずつ配布(市の広報誌二月号にも、ほぼ同内容を掲載)。すでに数校はチラシを校内に掲示している。また、「チラシのデータを生徒のスマホに流した学校も」という情報もある。
今後、除外申請者が多く出ることを期待したい。
☆ 「名簿提供」は住民基本台帳法違反
「市民の市政をつくる会」など三団体は、兵庫県弁護士会(中上幹雄会長)の『自衛隊への個人情報提供に関する意見書』(二二年六月二十二日)を参考にして、二月一日、『18歳のあなたの疑問に答えるQ&A~憲法第13条に基づく若者の個人情報を守るために」と題するA4判三枚のリーフを作成した。
その内容を、一部要約、紹介し(「A4」は筆者から若干説明を加筆する)、住民基本台帳法は「閲覧」は認めるも、「名簿提供」は違法だという事実を、読者と共有したい。
Q1 自衛隊は「自衛官等採用説明会のご案内」と題するDMを郵送するため、市役所で住民基本台帳を書き写し、対象者の氏名・住所等を知ったが、本人が知らないのに書き写したことは問題ないのか?
A1 住民基本台帳法の「何人でも閲覧を請求できる」という閲覧制度は、一一〇〇六年(平成十八年)十一月一日施行の同法の一部改正により廃止となった。そして、
①国又は地方公共団体の機関が法令の定める事務の遂行のために閲覧する場合
②「統計調査、世論調査、学術研究その他の調査研究のうち公益性が高いと認められる」活動を行なうために閲覧することが必要である旨の申出があり、かつ、市町村長が当該申出を相当と認める場合
に限る等、個人情報保護に一定程度、留意した制度となった。
①②等の場合、住民基本台帳の写しを閲覧し書き写す行為は、法的には問題ないことになるが、「本人の同意もなく、自分の個人情報が書き写される」という問題は残る。
Q2 「自衛隊が市役所で住民基本台帳を書き写す行為」は法的には問題ないとのことだが、「市役所が(対象者の)住所・氏名等の情報を、名簿として自衛隊に提供する行為」は、法的に問題ないのか?
A2 住民基本台帳法第十一条一項は「国又は地方公共団体の機関は、法令で定める事務の遂行のために必要である場合には、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳の一部の写しを当該国又は地方公共団体の機関の職員で…機関が指定する者に閲覧させることを請求することができる」と規定し、「閲覧」だけを認めている。
防衛省もこれを踏まえ、「複写機による複写は、住民基本台帳法第十一条一項の『閲覧』の概念を超えるものであることから…地方公共団体が住民基本台帳のコピーを提供することは認められない」と表明している。
よって鹿児島市当局が住民基本台帳の個人情報の写しをコピーし、“名簿”として自衛隊に提供することは、住民基本台帳法第十一条一項違反だと考えられる。
ちなみに、鹿児島市と同じ他の中核市では、四九%の自治体が「閲覧」しか認めていない。
Q3 鹿児島市当局は住民基本台帳法第十一条一項に違反するのに、なぜ若者の個人情報を“名簿”にして自衛隊に提供するのか?
A3 防衛省は前述の通り「地方公共団体が住民基本台帳のコピーを提供することは認められない」と表明する一方で、総務省とともに「住民基本台帳の一部の写しの国(自衛隊)への提出は、自衛隊法九七条一項、同法施行令一二〇条を根拠として可能である」という“通知”を、二一年二月五日付で発出した。
鹿児島市当局はこの“通知”に従い、これまでの「閲覧」から「名簿提供」に方針転換を図った。
Q4 鹿児島市当局が十八歳の若者の個人情報を“名簿”にして自衛隊に提供する“根拠”としている、自衛隊法九七条一項、同法施行令一二〇条とは。
A4 自衛隊法九七条一項は「都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところにより、自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う」と定め、同法施行令一二〇条は「防衛大臣は、自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要があると認めるときは、都道府県知事又は市町村長に対し、必要な報告又は資料の提出を求めることができる」としている。鹿児島市当局はこの「資料」を「十八歳の市民の名簿だ」と解釈し“根拠”としている。
しかし、二〇〇〇年四月改正の地方自治法第一条の二は、一項で「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」、二項で「国は、前項の規定の趣旨を達成するため…地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」と、地方自治体の「自主性」等を繰り返し規定している。
よって鹿児島市当局は、防衛省・自衛隊側の「求め」に応じる義務はない。また仮に、自衛隊法九七条一項等を“根拠”に個人情報提供を認めることになると、住民基本台帳の四情報だけでなく、家族構成、経済や健康状態等、センシティブ情報まで無限大に拡大していく危険性がある。
☆ あなたの個人情報を守るのは、あなた自身
三団体の「Q&A」は最後に、「私たち18歳の個人情報を第三者である自」衛隊に提供させないようにするにはどうすればよいか」「国の最高法規である日本国憲法に照らし、今回の問題をどう考えたらよいか」という問いを設定。
この問いに、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と謳う憲法第十三条を示したうえで、次の回答で締め括っている。
一九六九年十二月二十四日の最高裁判決も「何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有する」と判示している。第三者(自衛隊)に個人情報提供を望まない人は、市役所への「除外申請」を活用することによってあなたの個人情報を守ることができます。あなたの個人情報を守るのは、あなた自身。友だちとも話し合ってみてください。
☆ 募集担当者は自衛隊内の実態も伝えるべき
防衛省の防衛監察本部は二二年十二月十五日、全自衛隊員を対象にハラスメントの実態を調べた「特別防衛監察」で、一四一四件の被害申告があった(パワハラ八四%、セクハラ八%等)と公表した。
防衛省・自衛隊は、かつては若手女優、近年はテレビアニメの女性キャラクターを載せたポスターを市役所や町内会の掲示板に貼りまくり、ソフトムードを装って「陸・海・空自衛官募集」を行なっている。
全国の市役所の自衛隊募集業務担当者らは名簿提供等をやめ、こうしたハラスメントの件数の多さや、次のような不良自衛隊員らの実態を、十八歳・二十二歳の若者に正直に伝えるべきだ。
1 五ノ井里奈さんは、陸上自衛隊に入隊した二〇二〇年から日常的に猥褻(性暴力)の被害を受け続け(同年八月の北海道での訓練で、男性隊員三名が格闘技の技をかけ、ベッドに押し倒し、覆いかぶさり、股を広げ、何度も腰を振ってきた。十数名の隊員は傍観。上司二名は笑っていた等)、二二年六月に退職後、実名で被害を訴えている。
2 日本テレビが一九年四月に放映した「NNNドキュメント’19防衛大学校の闇 連鎖した暴力…なぜ」は、福岡県出身の一年生男子が入校直後、同じ部屋の四年生に「全裸になって写真を撮れ」「裸で腕立て伏せをしろ」など命令され、殴る・蹴る、「死ね・ゴミ」等の暴言は当たり前だった等、いじめ・暴行の日常を暴き出した。
「声が小さい、ホコリが落ちていた」等の”粗相ポイント”が貯まると、前記四年生に「風俗店で性行為を撮影してこい」という”司令”を受け、拒否すると陰毛を燃やされ出血したという。
※永野厚男(ながのあつお)文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
『紙の爆弾』(2023年4月号)
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