◆ 許されない農薬漬けニッポン
企業参入すすめるアベ農政 (『週刊新社会』)
◆ 机上の「攻めの農業」
「攻めの農業」を政策にかかげる安倍晋三政権は2020年までに我が国農産物輸出額を1兆円、さらに30年には5兆円を目指すとプチ上げた。
これは農家人口や耕作面積の減少などにともない1990年当時13兆7100億円であった農業生産額が2015年には9兆5000億円にまで低下し、国内需要も頭打ちとなったため海外輸出拡大で活路を、という狙いからだ。
けれど狙い通りにゆくか、疑問視する声も少なくない。
海外と比較して我が国は、農産物に含まれる残留農薬の基準値が高く設定されているのがネックになっているからだ。
◆ 残留農薬基準の緩和
「厚労省は2017年12月、残留農薬基準を緩和したんです。
そのため、お茶っ葉のように0・01ppmから一気に40ppm、400倍も悪くなったものもあるんです。こんな高い設定では輸出はとても無理ですよ」。
農業ジャーナリストの飯野良和さんはさらにこう指摘する。
「我が国は海外と比較して全体的に農薬の使用量が多いんです。農業は気候、土壌、栽培法などに影響されるので一概に言えないが、それでも我が国のブドウに散布する殺菌剤はフランスの倍、スペインの倍と言われてます。我が国が農薬大国とか農薬潰けとか言われるのもこのせいなんです」。
基準値が大幅に緩和されたのは茶だけではない。小麦は5~30ppm(以下同じ)、そばは2~30ppm、大麦は20~30ppm、ひまわりの種子およびベニバナの種子は0・1~40ppm、なたねの種子は0・2~40ppmという緩和ぶりなのだ。
農水省はお茶などの緩和理由について、お茶は直接食べるものではない。1日3杯程度の摂取量であり、しかもお湯をそそいで抽出するなどと説明する。
EUは茶の残留農薬基準を0・05、米国は0・01としている。中国や台湾は0・05としているため同じ輸出国である両国との競争に基準値40の日本が勝てるわけないのは、これでもわかる。
◆ 割高農薬使用量の増加
基準値が高いということは農薬の使用増を意味する。
農薬は殺虫剤と除草剤、そして殺菌剤に大別される。
殺菌剤とは農作物の腐敗防止や品質保持、保存性持続などのために用いられる。そのためこれがポストハーベスト(収穫〈ハーベスト〉された後〈ポスト〉に、収穫物である果物や穀物、野菜に散布する農薬)など新たな問題になっている。
我が国の農薬使用量もこれら3種類が占めている。
農水省が一昨年2月に公表した調査結果によると、2016年度における農薬出荷総量は約23万7000トン。このうちの使用シェアは殺虫剤が35%、除草剤が33%、殺菌剤が18%となっている。
20年前に比べて5割減少したと農水省はいうが、それは離農が要因であり使用頻度の減少ではあるまい。
しかもこれでもまだ少なくないのだ。というのは1haあたりの農薬使用量を国際比較するとこうなるからだ。
日本13・2㎏、韓国13・1㎏、オランダ9㎏、英3・5㎏、仏3・3㎏、独3・2㎏となっている。
農薬の使用量や頻度が高ければ、残留農薬基準値の高設定も当然であろう。そしてそれは同時に我が国農薬の生産額(輸入も含む)も押し上げ、現在4000億円にも達している。
我が国の農薬製造会社は約170社ほどだが、しかしこのシェアの5割をシンジェンタ、バイエル、日産化学、住友化学など上位7社が独占している。
ついでに上位5社の我が国への出荷額を多い順から示しておくのもいいだろう。
シンジェンタ333億9500万円、日産化学333億4400万円。バイエル303億2900万円。住友化学298億3600万円。クミアイ化学245億8800万円となつている。
農薬の価格も割高といわれているが、たとえば気候環境が似た韓国との価格差を見ると頷ける。
殺虫剤は日本は488円。韓国400円。除草剤は日本955円。韓国は650円。殺菌剤は日本6288円。韓国は7742円となっている。
農薬を市場に出荷するには農薬取締法に基づき内閣府の食品安全委員会が安全性を認め、農水省に登録されたうえで製造販売できる。したがって我が国の農薬残留基準は、同法と食品衛生法の二法で守られている。
とはいえ、先述したお茶やそばの大幅緩和にみるように安全性が担保されているかは疑問だ。
我が国の農業は種子メーカーと農薬メーカーに支配されているといわれるが、残留農薬基準緩和措置でその感を深くする。
なぜなら基準緩和の背景には種子法や漁業法改正と同じく、一次産業に企業の参入を進める安倍政権の、いわゆる新自由主義経済の論理がはたらいているからだ。
『週刊新社会』(2020年7月21日)
企業参入すすめるアベ農政 (『週刊新社会』)
ルポライター 高木和朗
◆ 机上の「攻めの農業」
「攻めの農業」を政策にかかげる安倍晋三政権は2020年までに我が国農産物輸出額を1兆円、さらに30年には5兆円を目指すとプチ上げた。
これは農家人口や耕作面積の減少などにともない1990年当時13兆7100億円であった農業生産額が2015年には9兆5000億円にまで低下し、国内需要も頭打ちとなったため海外輸出拡大で活路を、という狙いからだ。
けれど狙い通りにゆくか、疑問視する声も少なくない。
海外と比較して我が国は、農産物に含まれる残留農薬の基準値が高く設定されているのがネックになっているからだ。
◆ 残留農薬基準の緩和
「厚労省は2017年12月、残留農薬基準を緩和したんです。
そのため、お茶っ葉のように0・01ppmから一気に40ppm、400倍も悪くなったものもあるんです。こんな高い設定では輸出はとても無理ですよ」。
農業ジャーナリストの飯野良和さんはさらにこう指摘する。
「我が国は海外と比較して全体的に農薬の使用量が多いんです。農業は気候、土壌、栽培法などに影響されるので一概に言えないが、それでも我が国のブドウに散布する殺菌剤はフランスの倍、スペインの倍と言われてます。我が国が農薬大国とか農薬潰けとか言われるのもこのせいなんです」。
基準値が大幅に緩和されたのは茶だけではない。小麦は5~30ppm(以下同じ)、そばは2~30ppm、大麦は20~30ppm、ひまわりの種子およびベニバナの種子は0・1~40ppm、なたねの種子は0・2~40ppmという緩和ぶりなのだ。
農水省はお茶などの緩和理由について、お茶は直接食べるものではない。1日3杯程度の摂取量であり、しかもお湯をそそいで抽出するなどと説明する。
EUは茶の残留農薬基準を0・05、米国は0・01としている。中国や台湾は0・05としているため同じ輸出国である両国との競争に基準値40の日本が勝てるわけないのは、これでもわかる。
◆ 割高農薬使用量の増加
基準値が高いということは農薬の使用増を意味する。
農薬は殺虫剤と除草剤、そして殺菌剤に大別される。
殺菌剤とは農作物の腐敗防止や品質保持、保存性持続などのために用いられる。そのためこれがポストハーベスト(収穫〈ハーベスト〉された後〈ポスト〉に、収穫物である果物や穀物、野菜に散布する農薬)など新たな問題になっている。
我が国の農薬使用量もこれら3種類が占めている。
農水省が一昨年2月に公表した調査結果によると、2016年度における農薬出荷総量は約23万7000トン。このうちの使用シェアは殺虫剤が35%、除草剤が33%、殺菌剤が18%となっている。
20年前に比べて5割減少したと農水省はいうが、それは離農が要因であり使用頻度の減少ではあるまい。
しかもこれでもまだ少なくないのだ。というのは1haあたりの農薬使用量を国際比較するとこうなるからだ。
日本13・2㎏、韓国13・1㎏、オランダ9㎏、英3・5㎏、仏3・3㎏、独3・2㎏となっている。
農薬の使用量や頻度が高ければ、残留農薬基準値の高設定も当然であろう。そしてそれは同時に我が国農薬の生産額(輸入も含む)も押し上げ、現在4000億円にも達している。
我が国の農薬製造会社は約170社ほどだが、しかしこのシェアの5割をシンジェンタ、バイエル、日産化学、住友化学など上位7社が独占している。
ついでに上位5社の我が国への出荷額を多い順から示しておくのもいいだろう。
シンジェンタ333億9500万円、日産化学333億4400万円。バイエル303億2900万円。住友化学298億3600万円。クミアイ化学245億8800万円となつている。
農薬の価格も割高といわれているが、たとえば気候環境が似た韓国との価格差を見ると頷ける。
殺虫剤は日本は488円。韓国400円。除草剤は日本955円。韓国は650円。殺菌剤は日本6288円。韓国は7742円となっている。
農薬を市場に出荷するには農薬取締法に基づき内閣府の食品安全委員会が安全性を認め、農水省に登録されたうえで製造販売できる。したがって我が国の農薬残留基準は、同法と食品衛生法の二法で守られている。
とはいえ、先述したお茶やそばの大幅緩和にみるように安全性が担保されているかは疑問だ。
我が国の農業は種子メーカーと農薬メーカーに支配されているといわれるが、残留農薬基準緩和措置でその感を深くする。
なぜなら基準緩和の背景には種子法や漁業法改正と同じく、一次産業に企業の参入を進める安倍政権の、いわゆる新自由主義経済の論理がはたらいているからだ。
『週刊新社会』(2020年7月21日)
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