#安倍元首相の国葬に反対し計画の撤回を求めます
発信者:自由法曹団 JLAF 宛先:内閣総理大臣 岸田文雄
本年7月8日に銃撃事件で亡くなった安倍晋三元首相について岸田内閣が9月27日に「国葬」をおこなうと発表したことをめぐり賛否両論が起きています。
私たちは、以下の三つの理由から国葬の閣議決定を撤回し、国葬の中止を求めます。
1,法令上の根拠がない
現在、国葬には法令上の根拠はありません。戦前においては国葬令がありましたが、これは日本国憲法に不適合なものとして(*1)失効しています。
この点、岸田首相は、内閣設置法の内閣の所掌事務である「国の儀式」にあたるとして、閣議決定があれば国葬は実施可能と説明しています。ですが、戦後、唯一の例外として挙行された吉田茂元首相の国葬に関しても、塚原敏郎総務長官(当時)は「根拠になる法律もなく苦労した」と述べました。また、佐藤栄作元首相に関し、国葬の実施が検討された際も、「法的根拠が明確でない」とする内閣法制局の見解等によって見送られました。
このように岸田政権が強行しようとしている国葬には法的根拠はなく、岸田首相の解釈は妥当とは言えません。
法令上の根拠のないまま内閣の独断でこれを行うことは、政治的思惑に基づく国費の恣意的支出との批判を免れず、財政立憲主義(*2)の観点からは許されるものではないと言えます。
2,思想・良心の自由を侵害するおそれ
安倍元首相は一政党に属する国会議員でしたが、国家として故人への弔意を表すものとすると、すべての国民が当該国会議員への弔意を事実上強要されることになりかねず、さらには当該政党への献金を強制されたに等しい効果を及ぼすことになります。
実際に、吉田茂元首相の国葬の際には、競馬や競輪などの公営競技が中止となり、娯楽番組の放送が中止され、全国各地でサイレンが鳴り響かされて職場や街頭で黙とうがささげられる、などが起こりました。今回もすでに、安倍元首相の葬儀にあたり、複数の自治体で弔旗掲揚や、記帳台や献花台の設置がおこなわれ、兵庫県三田市の教育委員会のように学校において半旗の掲揚を求めた事例もあります。
政府が国葬を実施すれば、こうした傾向がさらに助長されることが懸念され、こうした弔意の強制は、思想・良心の自由(*3)に反するものとなりえます。
3,市民の分断、批判封じをもたらすおそれ
岸田首相は、安倍元首相の国葬の理由として「その功績は素晴らしいものがある」と言いますが、それこそ賛否が大きく分かれるところです。
安倍元首相はその在任中、集団的自衛権の行使は憲法違反となるとしてきた従前の政府の立場を変更する閣議決定をおこない、集団的自衛権行使を容認する安保法制を多くの国民の反対の声を押し切って成立させました。また、特定秘密保護法や共謀罪の成立を強行し、規制緩和を進めて国民の中の貧富の格差を大きく拡大させました。さらに、森友・加計学園問題、「桜を見る会」等にみられる政治の私物化にかかわる疑惑等を首相自らが引き起こし、行政文書の改ざん問題も起き、未だそれらの真相は明らかとなっていません。
こうした安倍元首相の「業績」への正当な批判が封じられることになっては決してならないと考えます。
すでに、安倍政権の後継である岸田政権を批判する街頭宣伝をしている人々に対する妨害事例も発生しており、こうした中で国葬を実施すれば、安倍元首相を礼讃する雰囲気がつくられる一方で、安倍元首相の批判への攻撃に拍車がかかり、市民間の分断を一層助長することになることが懸念されます。そうなれば自由な言論は保障されず、民主主義が危機に瀕することも懸念されます。
よって私たちは、安倍元首相の国葬の実施に強く反対し、計画の撤回を求めます。
*1 日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力に関する法律第1条
*2 「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」(憲法第83条)
*3 「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」(憲法第19条)
「岸田内閣による安倍晋三元首相の国葬に反対する声明」
https://www.jlaf.jp/04seimei/2022/0721_1271.html
【自由法曹団とは】
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