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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

中教審“令和の日本型学校教育”答申の問題点

2021年04月14日 | こども危機
 ◆ 「デジタル教科書」の罠
   政府見解を児童に注入
(月刊『紙の爆弾』)
取材・文 永野厚男


経団連副会長の渡邉光一郎・中教審会長(中央左)から答申を受けた、田野瀬副大臣
(中央右)は5日後、深夜の銀座クラブ会食問題で更迭(文科省HPから)

 文部科学大臣の諮問機関・中央教育審議会は一月二十六日の総会で、“令和の日本型学校教育”と題する答申(以下、答申)を了承。渡邉光一郎会長(経団連副会長)が田野瀬太道(たいどう)文部科学副大臣(当時)に手渡した。全九十二頁の膨大な答申から、大きく二つの柱に絞り、分析・批判する。
 ◆ 管理職候補増員の一方で英語専科教員は?

 マスコミ各社は、二〇二二年度目途の「小学校5・6年生の算数・理科・英語の3教科での教科担任制導入」答申の目玉だ、と大きく報じた。
 だが、この件で文部科学省は一八年、「大綱的基準として法的拘束力あり」とする学習指導要領(一七年三月改訂、二〇年四月から完全実施)に基づき、5・6年生の英語を教科化し授業時間を週一時間増やして(先行実施)いる。全国への英語専科教員配置が必要なのであれば、この時から予算を付けるべきだったが、十分には付けてこなかった。
 文科省は、旧指導要領改訂直後の○八年度から、予算に「主幹教諭(副校長・教頭職への登竜門)の授業時間軽減等のための加配定数」、すなわち主幹教諭に授業以外の管理強化業務を多くやらせるための予算を盛り続けている(本誌一九年三月号を参照)。
 他方、旧指導要領改訂で5・6年は外国語活動が一時間増え、前記一七年三月改訂で、さらに一時間増えた(3・4年も外国語活動新設で0時間→1時間に増)のに、英語専科教員の増員はずっと不十分なのだ。
 東京都の公立小学校教員八人に取材すると、「教員免許取得時、英語の指導法は何も学んでいないのに、授業は担任がやらされ、教材研究・準備で多忙化が加速。教育委員会はネイティブスピーカーのALT(外国語指導助手)は一時間分だけ付けたが、あくまで補助。答申の英語専科教員配置は、本当に実現するの?」と、口を揃えた。
 答申は最後の頁に掲げた「今後更に検討を要する事項」の二番目に、「校長を中心に学校組織のマネジメントカの強化が図られ(略)る学校を積極的に支援し、社会の変化に素早く的確に対応するための教育委員会の在り方、特に、教育委員会事務局の更なる機能強化や、首長部局との連携の促進(略)等を含む教育行政の推進体制の在り方」を明記した。
 答申のこの管理統制強化策は、
 ①校長が策定した”学校経営計画”に沿って”業績”を上げたか否かで教員を評価し、給与や異動に反映させる”人事考課制度”(本誌一九年一月号)
 ②都教委が「校長に次ぐ学校経営者であることを明確にし、権限強化を図る」目的で教頭の呼称を副校長に統一
 ③職務命令を出せる”監督層”という職層としての主幹教諭の設置・増員(②とともに、ピラミッド型の学校組織作り。本誌一七年六月号、一八年十二月号)
 等の施策により、東京や橋下徹氏が首長になって以降の大阪をはじめ、全国の教委が管轄する小中高校等で、すでに貫徹している。
 答申の言う通りに「教育委員会事務局の更なる機能強化」等を進めてしまったら、現場の教職員は”窒息”してしまう。
 ◆ ICT活用 デジタル教科書の危険

 答申は「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びを実現するためには、学校教育の基盤的なツールとしてICTは必要不可欠なものである」などとも記述。
 災害や、今回のコロナ禍等感染症発生などの緊急時、オンライン授業を可能にしたり、全教科の教員がいない過疎地の中学・高校等において、免許を保有する教員不在の教科で、他校の専門の教員が遠隔教育を行なったりする場合、ICTは確かに有効だ。
 だが文科省が「19年度から、一定の基準の下で必要に応じ、教育課程の一部において、紙の教科書に代えて使用することができる」とし、二四年度から本格導入するとしている学習者用デジタル教科書(以下、デジタル教科書)は、健康面と政治的中立性との両面で、はら危険な側面を孕む
 ◆ 健康面の危険性

 デジタル教科書は文科省が一八年、学校教育法等を一部改定し制度化。同省は「紙の教科書の内容の全部をそのまま記録した電磁的記録である」と定義している。
 その使用について、当初は同省告示で「各教科等の授業時数の2分の1に満たないこと」としていた。この「2分の1基準」は成長期にある小中高校生の、視力をはじめとする健康面等を配慮したものだ。
 しかし、文科省が二〇年六月に設置した「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」(座長=堀田(ほりた)龍也東北大大学院教授。以下、検討会議)は同年十二月二十二日、「デジタル教科書の活用の可能性を広げて児童生徒の学びの充実を図るために、当該基準を撤廃することが適当である」とする文書を了承した(【注】参照)。
 そして今年三月十七日、「GIGAスクール構想による児童生徒1人1台端末環境の整備が進む中、ICTを活用し、学校における教育の質をより高めていく上で、デジタル教科書の効果的な活用が重要である」とする『中間まとめ』を公表した。
 『中間まとめ』は、〈教科書のデジタル化(ビューアの機能を含む)によるメリットの例〉を六つも挙げている。四つだけ引用する。
 ①直接画面に書き込みができ、その内容の消去・やり直しを簡単に行えるため、作業に取り掛かりやすく、試行錯誤することが容易
 ②ペア学習・グループ学習の際、デジタル教科書に書き込んだ内容を見せ合うことで、効果的に対話的な学びを行える。話合いの際に相手の意見を書き足したり、自分の意見を変更したりしながら活動できる。
 ③紙の教科書は細かい箇所を見る際、目を近づけるが、ピンチアウト操作による拡大表示等で図版・写真などを拡大表示でき、目を近づけなくても細かい箇所まで見られる。
 ④端末だけ持ち、教科書を持ち運ぶ通学上の負担が軽減。身体の健やかな発達にも資する。
 このうち③は、自然体験が減るなか、理科で昆虫や植物を細かく観察できる等、確かにメリットはある。しかし①は、消去や上書きは簡単にできるが、修正過程を残せないので、児童生徒が思考過程を振り返るには欠陥がある。
 ②も、書くのが得意な児童生徒にはよいが、書く方に時間を取り過ぎると、話す・聞く方が得意な子どもの学力を伸ばせるか疑問。
 ③④は、答申が「児童生徒の健康面への影響にも留意する必要がある」と注意を促し、前記検討会議の「2分の1基準」撤廃の文書も、次の三点(抜粋)を明記しているように、(多忙化をもたらすが)教員のしっかりした指導がないと、「身体の健やかな発達に資する」どころか、有害なのは明白だ。
▼児童生徒が長時間端末の画面を注視しない等、目や体の疲労を軽減するように工夫することが重要。
 具体的には、授業での端末使用時、30分に1回、20秒程度、画面から目を離し目を休めるよう指導する。
 ▼目と端末の画面との距離は、20㎝間隔は避け、30㎝~50㎝離して見ることが必要。
 ▼姿勢が悪い状態で斜めに見ていると、右目と左目で映像が変わることにより、目に負担がかかる。また、ドライアイになりやすい点についても留意が必要。
 ところで『中間まとめ』は、「現行の紙の教科書は(略)例えば、一覧性に優れている等の特性があることや、書籍に慣れ親しませる役割を果たしていることなども踏まえ、今後の教科書制度の在り方について、デジタル教科書と紙の教科書の関係や、検定などの制度面も含め、十分な検討を行う必要がある」とも記述。二四年度から即時、紙の教科書を全廃するわけではない、という見解も示している。
 ◆ 政府の政策教化の恐れ

 『中間まとめ』は「将来的には、デジタル教科書の内容としてデジタルの特性を生かした動画や音声等を取り入れることも考えられるところであり、今後のデジタル教科書の本格的な導入に向けて、新たな教科書検定の在り方の検討が求められる。そのためには、実証研究の成果も踏まえつつ、今後、そのより具体的・専門的な検討を行うことが必要である」と記載している。
 一方、『中間まとめ』は、「デジタル教科書を利用する大きなメリットの一つが、デジタル教科書を起点としつつ広くデジタル教材等との連携を行い、学びの充実を図るための様々な授業の展開が可能になることである。教材は教科書に比べて相対的に自由度が高く、これまでも教科書に準拠した質の高い教材が発行されてきている。また、デジタル化されることで多様な教材の迅速な提供も期待される。今後、従来の教材のノウハウを生かした教材や、デジタルの良さを生かした新しい教材など、多様なデジタル教材が、広くかつ容易にデジタル教科書と連携した形で活用されるようになることが期待される」とも記述。
 前者のうち、デジタル教科書が取り入れる可能性が高い「動画や音声等」は教科書検定の対象になる。
 一方、後者のデジタル教科書にリンクする「デジタル教材」について、文科省は現時点で、商品購入や性的なサイト等へのリンクは禁じるが、内容は教科書の記述に関連しているか確認するに留め、検定の対象外とする、としている。
 日本会議系改憲政治団体のメンバーらが執筆する中学社会・公民の育鵬社版”教科書”(二一年四月から使用開始)は、「国家と私たち」の項目と、「『公民』の意味」の項目との二箇所にわたり、五輪で翻る大量の日の丸の写真を二枚も載せ、”国旗・国歌への敬意表明”を、繰り返し強調している
 また、育鵬社との分裂前の、”新しい歴史教科書をつくる会”系扶桑社版公民”教科書”は、サッカー元日本代表のラモス瑠偉(るい)氏の手記にある「日の丸をつけて、君が代を聞く。最高だ。武者震いがするもの」などの言葉を引用し、サッカー場でファンらが大きい日の丸とともにウェーブする”国威発揚”の写真を載せていた。
 このような改憲”教科書”がデジタル版になれば、動画や写真のリンク等によって”君が代”・自衛隊・米軍基地・天皇制等、思想・良心の自由に関係するテーマや世論の分かれる政治問題等で、”愛国心”教化や政府見解の強調、軍隊や武器をカッコよくソフトに見せかける等の危険性が益々高まる。
 教育基本法の定める「政治的中立性」に違反し、児童生徒を誤導しないかが、心配だ。三重県教委は一四年七月、自衛隊と連名で「ミニスカートの女性隊員のイラスト」を載せた紙ベースの募集リーフを作り高校生に配布した。
 現在の紙の教科書で、すでにURLやQRコードを載せている出版社は多い。デジタル版になった場合、もし防衛省のURLやQRコードを載せたら、児童生徒がスマホで読み込まなくても、ワンクリックで「自衛隊員募集」サイトも見放題になる。
 また、現在の紙の音楽教科書は、歌詞の意味も、天皇とはどういうものかも、十分に理解できていない小1段階から全学年、”君が代”の歌詞や楽譜を大きく載せている。
 デジタル教科書になれば、「動画や音声等」で児童生徒が”君が代”で進んで起立・斉唱するよう誘導する可能性が高くなるかもしれない。
 以上の通り、デジタル教科書・デジタル教材は、社会・音楽・道徳では警戒を要する面がある。
 最後に、ICT活用での懸念をもう一点。二〇年十一月十三日の中教審特別部会で、広島県安芸(あき)太田町の二見吉康教育長は「教委と町内の全小中学校をICTで結び、年に数回オンライン研究授業を実施している」と発表した。こういう純粋な学力向上目的の活用は良い。
 だが、たとえば、日本会議系・教育再生首長会議の首長の任命する政治色の濃い教育長らが、育鵬社”教科書”で憲法や日中戦争をどう教えているかの監視等にICTを悪用しないか、監視が必要だ。
 【注】「2分の1基準」撤廃の文書は、「デジタル教科書を各教科等の授業時数の2分の1以上、必ず使用しなければならないということを意味するものではない」「児童生徒の健康に関する留意事項について周知・徹底を図り、必要な対応方策を講じる」等、断り書きを付けている。
 ※ 永野厚男(ながのあつお)
 文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
『紙の爆弾』(2021年5月号)


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