◆ 現役教師が振り返るコロナの一年
~行事や部活動は軒並み中止、共通テストで指導も激変。
世界的な感染爆発から一年近くが経過した新型コロナウイルス。我々の生活は一変したが、それは多くの子どもたちの指導にあたり、大きな責任を問われる教師も同じだ。まもなく卒業式の季節を迎える現役高校教師に、この一年を振り返ってもらった。
◆ 緊急事態宣言から学校が激変
今回、取材に協力してくれたのは、英語教師のFさん。コロナが生活を直撃したのは、やはり緊急事態宣言が発令されてからだと振り返る。
「最初の緊急事態宣言が解除されるまでの一斉休校は大変でしたね。とにかく急でしたから。木曜日に要請が出て、金曜日のお昼までに会議をして休校が決定。土日を挟んで月曜日から休校と、息つく暇もありませんでした」
卒業式は行ったものの、部活動などの大会はすべてキャンセル。そうした状況が6月まで続いた。
「再開してからは、何かあったときのために授業やホームルームなどをウェブ上で行えるよう、東京都に関しては環境を整えられたと思います。ただ、その後は検温・消毒・換気など、自分たちで対応しなければいけませんでした。仕事は間違いなく増えましたね」
◆ 部活動中止は嬉しいとのホンネも
通常の授業だけでも多くの責任が伴う教師たちにとって、コロナ対策やスケジュール調整などは大きな重荷となっている。
さらに、各自治体や全国の大会などが中止となり、部活動に対する影響も大きかった。
「最後の大会が中止になった3年生は本当に可哀想でした。仕方ないですけど……。体育祭、文化祭、修学旅行など行事が全部なくなって、生徒たちは残念がっていましたね」
伸び盛りの時期に練習環境が激変。自分たちの成果を発揮する舞台が消滅とあっては、いたたまれない気持ちになるのも無理はない。ただ、実はこんな本音も……。
「専任で教えている人やスポーツに強い学校はまた違うでしょうけど、(教師は)みんな嬉しかったんじゃないですかね。仕事のあとも土日も部活動での指導に追われて、ワークライフバランスがめちゃくちゃでしたから」
部活動や大会の中止が及ぼす影響は、スポーツ界にとって計り知れないものだ。
しかし、それは時間外や休日中にも指導にあたる教師が大勢いることで成り立っているのも事実。こうした歪な部活動の仕組みも、コロナをキッカケに変わっていくのかもしれない。
◆ 混乱に拍車をかけた共通テスト
そんな異例の状況に追い討ちをかけたのが、大学入学共通テスト。Fさんが担当している英語がガラッと変わってしまったのは、ご存知の方も多いだろう。
「TOEICのようにテクニックで解く形式になり、量が圧倒的に増えました。文法とアクセントがなくなって、リーディングも読み物形式というより、もっと実務的な内容に変わったんです」
リスニングとリーディングの配点が同じ比率となり、指導の仕方も大幅な変更を余儀なくされた。
「模試などで『こんな感じか』とは思っていましたが、本当に変わりましたね。テープを流したり、実際に読んだり、やることも増えて、正直対応しきれませんでした。私立でも英語に強い大学は共通テストのスコアが必須のところもあります。大学ごとに、リーディングとリスニングの配点を決めていいそうなので、外国語に力を入れているところは、リスニングの比率はさらに高いと思いますよ」
受験に関して言えば、今後は私立大学の一般入試と国立大学の二次試験に注目しているという。
「これらの形式次第で、共通テストが持つ意味合いも変わってくるでしょうね。英検など、外部試験を一般試験の英語に換算する大学も増えています。今年の受験生は可哀想ですよ。共通テストだけ変わっても、そのあとに行われる一般入試や、普段の授業と効率的に結びついてないと、教師も生徒も混乱するだけです。今後どうなるかはわかりませんが」
コロナの状況と同じく、まだまだ先行きは不透明だが、いっぽうでは手応えも感じているという。
「英語が得意なコは、TOEICや英検などの勉強も頑張っています。そういうコには個別でエッセイや面接の練習に付き合ったんですが、そういう指導を奨励したほうが、普通の授業よりも話したり書いたりする力がつくように感じました」
◆ 学費の支援を充実させてほしい
怒涛のような一年が過ぎ、ようやく卒業式シーズンを迎えようというFさんだが、とても「ポストコロナ」を考える余裕はないという。
「親御さんの仕事の都合で、学費の面で苦労する学生も増えると思います。支援できる制度や枠組みも、より一層必要になってくるでしょうね。学費が払えなくて退学するコも例年より増えるんじゃないかと心配です」
懸念されている生徒たちのメンタルについては「例年通り、元気にやっていますよ」と語るFさんだが、コロナショック下では日々新たな試練が待ち受けている。生徒たちだけではなく教師のメンタルについても、より焦点があてられるべきだろう。
コロナで困窮しているのは誰も同じだが、東京五輪開催の是非など、「大人の都合」にばかり目が向けられてはいないだろうか?
未来を担うべく学ぶ子どもたちと、彼らを育む教師たち。せめて春休みぐらいは満喫してもらいたいものだ。
※ 林泰人 ライター・編集者。
日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
『ハーバー・ビジネス・オンライン』(2021.02.19)
https://hbol.jp/239528?cx_clicks_art_mdl=9_title
~行事や部活動は軒並み中止、共通テストで指導も激変。
<取材・文/林 泰人>(ハーバー・ビジネス・オンライン)
世界的な感染爆発から一年近くが経過した新型コロナウイルス。我々の生活は一変したが、それは多くの子どもたちの指導にあたり、大きな責任を問われる教師も同じだ。まもなく卒業式の季節を迎える現役高校教師に、この一年を振り返ってもらった。
◆ 緊急事態宣言から学校が激変
今回、取材に協力してくれたのは、英語教師のFさん。コロナが生活を直撃したのは、やはり緊急事態宣言が発令されてからだと振り返る。
「最初の緊急事態宣言が解除されるまでの一斉休校は大変でしたね。とにかく急でしたから。木曜日に要請が出て、金曜日のお昼までに会議をして休校が決定。土日を挟んで月曜日から休校と、息つく暇もありませんでした」
卒業式は行ったものの、部活動などの大会はすべてキャンセル。そうした状況が6月まで続いた。
「再開してからは、何かあったときのために授業やホームルームなどをウェブ上で行えるよう、東京都に関しては環境を整えられたと思います。ただ、その後は検温・消毒・換気など、自分たちで対応しなければいけませんでした。仕事は間違いなく増えましたね」
◆ 部活動中止は嬉しいとのホンネも
通常の授業だけでも多くの責任が伴う教師たちにとって、コロナ対策やスケジュール調整などは大きな重荷となっている。
さらに、各自治体や全国の大会などが中止となり、部活動に対する影響も大きかった。
「最後の大会が中止になった3年生は本当に可哀想でした。仕方ないですけど……。体育祭、文化祭、修学旅行など行事が全部なくなって、生徒たちは残念がっていましたね」
伸び盛りの時期に練習環境が激変。自分たちの成果を発揮する舞台が消滅とあっては、いたたまれない気持ちになるのも無理はない。ただ、実はこんな本音も……。
「専任で教えている人やスポーツに強い学校はまた違うでしょうけど、(教師は)みんな嬉しかったんじゃないですかね。仕事のあとも土日も部活動での指導に追われて、ワークライフバランスがめちゃくちゃでしたから」
部活動や大会の中止が及ぼす影響は、スポーツ界にとって計り知れないものだ。
しかし、それは時間外や休日中にも指導にあたる教師が大勢いることで成り立っているのも事実。こうした歪な部活動の仕組みも、コロナをキッカケに変わっていくのかもしれない。
◆ 混乱に拍車をかけた共通テスト
そんな異例の状況に追い討ちをかけたのが、大学入学共通テスト。Fさんが担当している英語がガラッと変わってしまったのは、ご存知の方も多いだろう。
「TOEICのようにテクニックで解く形式になり、量が圧倒的に増えました。文法とアクセントがなくなって、リーディングも読み物形式というより、もっと実務的な内容に変わったんです」
リスニングとリーディングの配点が同じ比率となり、指導の仕方も大幅な変更を余儀なくされた。
「模試などで『こんな感じか』とは思っていましたが、本当に変わりましたね。テープを流したり、実際に読んだり、やることも増えて、正直対応しきれませんでした。私立でも英語に強い大学は共通テストのスコアが必須のところもあります。大学ごとに、リーディングとリスニングの配点を決めていいそうなので、外国語に力を入れているところは、リスニングの比率はさらに高いと思いますよ」
受験に関して言えば、今後は私立大学の一般入試と国立大学の二次試験に注目しているという。
「これらの形式次第で、共通テストが持つ意味合いも変わってくるでしょうね。英検など、外部試験を一般試験の英語に換算する大学も増えています。今年の受験生は可哀想ですよ。共通テストだけ変わっても、そのあとに行われる一般入試や、普段の授業と効率的に結びついてないと、教師も生徒も混乱するだけです。今後どうなるかはわかりませんが」
コロナの状況と同じく、まだまだ先行きは不透明だが、いっぽうでは手応えも感じているという。
「英語が得意なコは、TOEICや英検などの勉強も頑張っています。そういうコには個別でエッセイや面接の練習に付き合ったんですが、そういう指導を奨励したほうが、普通の授業よりも話したり書いたりする力がつくように感じました」
◆ 学費の支援を充実させてほしい
怒涛のような一年が過ぎ、ようやく卒業式シーズンを迎えようというFさんだが、とても「ポストコロナ」を考える余裕はないという。
「親御さんの仕事の都合で、学費の面で苦労する学生も増えると思います。支援できる制度や枠組みも、より一層必要になってくるでしょうね。学費が払えなくて退学するコも例年より増えるんじゃないかと心配です」
懸念されている生徒たちのメンタルについては「例年通り、元気にやっていますよ」と語るFさんだが、コロナショック下では日々新たな試練が待ち受けている。生徒たちだけではなく教師のメンタルについても、より焦点があてられるべきだろう。
コロナで困窮しているのは誰も同じだが、東京五輪開催の是非など、「大人の都合」にばかり目が向けられてはいないだろうか?
未来を担うべく学ぶ子どもたちと、彼らを育む教師たち。せめて春休みぐらいは満喫してもらいたいものだ。
※ 林泰人 ライター・編集者。
日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
『ハーバー・ビジネス・オンライン』(2021.02.19)
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