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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

学級編制基準の規制緩和による弊害

2010年05月06日 | こども危機
 《子どもの権利条約カウンターレポート(DCI)》から
 ◆ 新自由主義的教育改革による教育条件基準の低下


 日本の教育制度は、これまで、子どもの教育を受ける権利を充足するために必要な教育条件の基準を法律によって定め、これを国庫負担を基本として財政的に保障することにより、地域ごとの財政事情に左右されない全国的な教育水準を維持するという原則を採ってきた。
 しかしながら、2000年以降に本格化する日本における新自由主義教育改革の進展は、子どもの教育に直接関わる教育条件基準を切りくず役割を果たしてきた点に最大の特徴をみることができる。その象徴とされるのが、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(以下、標準法)を根拠とする学級編制ならびに教職員定数の基準の規制緩和であり、また、その財政的な裏付けとして機能してきた国庫負担制度の漸進的撤退である。
 ◆ 学級編制に関するナショナル・ミニマムの後退
 標準法の特徴は、第一に、1学級あたりの生徒数の全国的な標準を示し、各都道府県教育委員会がこの「標準」を拠り所として学級編制の「基準」を定める仕組みを形成した点にあり(第3条2項)、第二に、この学級編制の標準をもとに、学校数、学級数に応じ、都道府県ごとに置くべき教職員数の標準を定めた点にある(第7条)。
 また、標準法から導き出される教職員数に関して、国はその人件費等の2分の1の額を義務教育費国庫負担金によって、また、残りの額を地方交付税によって負担するという形で、この標準法によって定められたナショナル・ミニマムを財政的に保障してきたのである。
 1958年に制定された標準法は暫時改正され、7次にわたる学級編制の改善計画を実施する根拠として機能し、公立義務教育学校の1学級あたり40名を標準とする全国的なナショナル・ミニマムを同定してきた
 しかしながら、2001年3月の標準法の改正は、国がナショナル・ミニマムを定め、その財政的な保障を行うという従来の方式を大きく転換させることとなる。従来の40人学級に対しては、国民的世論により、より良い教育環境を子どもに提供するために30人以下学級の実現が求められてきた。しかしこの問題に対して、国は全国的な標準と財政保障によって学級編制基準を改善するという従来の方式を放棄し、標準法によって定められる学級編制の標準を参考水準とすることで、40人を下回る学級編制の策定を各地方自治体の裁量と財源に委ねるという極めて無責任な形で対処したのである。
 これにより、全国の各自治体では、少人数学級や少人数授業を独自に導入する事例が多く見られたが、国による財政的な保障がない中で行われるこれらの施策は、実際には多くの弊害を生んでいる
 すなわち、教員数の増員のない中で、特定の学年や特定教科に少人数指導を導入するために、他の教室では生徒数が40人を上回るという現象が生じ、各自治体の方針としても40人超える学級編制を認めるという政策事例が報告されている。
 「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」(以下、「調べる会」)の調査によれば、例えば、宮城県では少人数指導の達成のために、小中学校における40人を越える学級編制(限度として44人)が可能となり、また、福岡県でも同様に普通学級45人が可能とされたり、栃木県では1学級あたりの在籍者数が44人になるまでは、増学級を行わない方針がとられた。
 2001年の標準法の改正は、各自治体における少人数学級編制を可能とするという建前をもちつつも、実際には、学級編制に関するナショナル・ミニマムの規制緩和をもたらしたのである。
 国による40人を標準とする過大な学級規模の放置と各地方自治体による実質的な学級編制基準の後退は、教師が教室の子どもたちの個性に応じた人間的な相互関係を形成することをますます困難にしている。
 また、2001年標準法改正におけるもう一つの重要な変更点は、標準法によって導き出される教職員定数に関して、従来、常勤の教職員のみを換算の対象としていたのに対し、非常勤職や定年退職者を主とする再雇用職もその対象とした点である(標準法17条1項・2項)。これにより、従来、標準法によりナショナル・ミニマムとして算出される教職員定数は、雇用条件の安定した常勤職を前提としていたのに対して、これを非常勤によってまかなうことが可能となったのである。
 ◆ 「総額裁量制」により教職員の非常勤化が促進
 さらに、重大なのは、標準法を根拠として算出された国庫負担金に関して、その人件費の使途を自治体の自由裁量によって利用できる「総額裁量制」が2004年より導入された点である。
 従来、教員の給料、諸手当等は、費目毎に国庫負担の額が定められ、費目間での流用や教員数の増減を行うことのできない厳格な負担形式が採用されていた。
 これに対し、総額裁量制の導入は、国庫負担の総額の範囲内で人件費を自由に使用できる仕組みを形成し、各自治体は教員全体の給与水準を引き下げ、その剰余分を新たな教職員の増員に充てることが可能となったのである。しかしながらその実態は、総額裁量制によって捻出された剰余分が、非常勤の雇用に利用されるという教職員の非常勤化をもたらしている。
 2005年には、義務教育費国庫負担法の改正が行われ、これまで標準法によって算出される教職員数の給与等に関して、従来、2分の1の支給とされていたものが、2006年以降その負担割合が3分の1へと切り下げられることとなった。
 また、2006年の行政改革推進法により、教職員数純減が決定されたことにより教職員の人件費の削減圧力はさらに強められる。各地方自治体は教職員給与の抑制をせまられており、これもまた教職員の非常勤化を促すこととなった
 文部科学省が発行する『学校基本調査報告書』によれば、全国の公立学校教諭において、非常勤教員を意味する「兼務者」の数は、小学校で2001年に328人であったものが、2008年には4,646人へと実に約14倍増加している。中学校では2001年に199人であったものが2008年には3,651人へと増加し、その倍率は18倍に達する
【表2 全国の公立小中学校教員のうち非常勤が占める割合】
2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度
小学校 4.9% 5.7% 6.5% 6.9% 7.8% 8.0% 8.1%
中学校 6.8% 7.3% 8.0 % 8.5% 9.0% 9.4% 9.6%
※橋口幽美「標準法2001年4月以降の非正規任用教員の増加とその要因」日本教育法学会第39回定期総会発表資料(2009年5月30日)より作成

 表2は、「調べる会」により、休職者など学校現場にいない教員を差し引いて、実際に学校で勤務する全国の公立小中学校教員数のうち非常勤職が占める割合の推移を示したものである。これによれば、小学校では2000年にわずか、4.9%であったものが、2006年には8.1%に、中学校では6.8%から9.6%へと急激な増加を示している。
 地方公務員法により非常勤の教員については、更新期間も含めその雇用期間が1年を超えないものと定められている(地公法22条)。このため、非常勤教員は短期間で学校を異動させられたり、2校も3校も掛け持ちさせられるという雇用形態が常態化しており、安上がりでいつでも解雇が可能な利便性の高い労働者として使用されている。
 こうした教職員の非常勤化にともなう労働条件、身分保障の崩壊状況は、学校において教師と子どもが時間をかけて人間関係を築くことを困難としている(基礎報告書095)。
 ◆ 政府による教育条件整備義務の放棄

 以上のように、標準法の改正、総額裁量制の導入、国庫負担金の切り下げは、学級編制と教職員の定数という子どもの教育に関わる重大な教育条件を堀崩し、教職員の非常勤化を促進している。
 そして、この教育条件の規制緩和と教職員の非常勤化は、教師が子どもに人間的に応答し、相互的な関係を形成することをますます困難にしており、政府の教育条件整備義務への重大な違反を示すものといえる。
(『子どもの権利条約カウンターレポート 統一報告書』VIII-10-4 労働条件・教育条件に関するナショナル・ミニマムの低下)
http://www.geocities.jp/crc_repo/Top.html

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