◆ 教育再生実行会議第十次提言を読む
~言葉の心地よさに比して、貧しい未来社会が (教科書ネットニュース)
教育再生実行会議『自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子どもを育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上(第十次提言)』(平成29年6月1日)の読後感を書き記してみたい。
◆ 第十次提言の焦点は?
その目次を見ると、大きくは、「はじめに」、「1.学校、家庭、地域の役割分担と教育力の向上について」、「2.子供たちの自己肯定感を育む」、「3.これまでの提言の確実な実行に向けて」という4つに分けられている。
これら4つの論理構成が不明確であり、全体として何を言おうとしているのか、すぐに理解することが困難である。
そうはいっても、「はじめに」では、「教育再生実行会議においては、〔中略〕①教師の業務負担を軽減し、今後も学校が持続的に発展できるようにするべく、『学校・家庭・地域の役割分担と教育力の充実』について検討を行うとともに、②『子供たちの自己肯定感が低い現状を改善するための環境づくり』について検討を行いました」と書かれている。
どうやら、「教師の業務分担を軽減するために、学校の持続可能な発展をめざす」というところに、提言のタイトルにあらわれていない主要な焦点があるようである。
その前提認識には、「今後、家庭や地域が更に変容し、その教育力の維持・向上にとって更なる課題が生じることが予想される中、〔中略〕世界に高く評価されている『日本型学校教育』を将来にわたって維持・発展させるためには、様々な社会の状況の変化を踏まえつつ、学校に対してそのための資源を投入することが必要不可欠となります」があることを押さえておかなければならない。
◆ 第十次提言の内容と問題点
以下、とくに問題となる「1.」の「家庭、地域の教育力の向上」、「学校の教育力の向上のための教師の働き方改革」、および、「2.」に関してコメントをしていく。
①「家庭の教育力」について
提言は、「幼児教育の段階的無償化と質の向上」、「地域における総合的な家庭教育支援の推進に向けた子育て支援との連携」、「家庭教育支援員の配置促進による訪問型家庭教育支援の充実」、「家庭教育支援員等の人材育成等」、「家庭における子供と向き合う時間の確保」、「放課後等の居場所づくりの推進」、「関係機関・関係者間における個人情報の共有の円滑化」、「教育・福祉の連携・協力の実質化に向けた枠組みの構築」である。
これら一つひとつは、現代の子どもと家庭にとって切実な課題であり、大変に重要である。しかし、学校において困難を抱えている子どもたちに応答する、という教師の仕事の軽減のためにこれらの提言を行っているとするならば、という点が引っかかる。
②「地域の教育力」について
提言は、「コミュニティ・スクールの導入促進等」、「地域学校協働活動の推進等」、「学校におけるコミュニティ・スペースの整備」、「学校応援週間」、「教師の日」、「地域の力を活用した高校中退等の支援」である。
これらはすべて、学校のために地域がある、という把握の仕方に基づいており、地域そのもののもつ形成力への着目は見られない。
③「チーム学校の実現」について
提言は、「児童生徒指導担当教師等の充実」、「教育と福祉との相互理解のための研修の充実」、「教育相談体制の充実」である。
発達障害・子どもの貧困・いじめ・不登校・児童虐待などの困難を抱える子どもたちに対して、教師たちは、生徒指導および教育相談によって、集団でもって問題に対処していくことが求められている、と読みとることができる。
ただし、ここでも、あくまで教師の仕事の過重な負担は生活指導にあり、そのことを軽減するための方策としてチーム学校が必要不可欠である、という認識であるが、それではたして、子ども問題は解決するのだろうか、という疑問が生じる。
④「学校部活動改革・学校事務の効率化等を通じた教師の負担軽減」について
提言は、「部活動の持続可能な運営体制の整備」、「学校事務の効率化等」、「教師の研修の見直し等」、「学校指導体制の充実」である。
いくつかの違う問題群が一つにまとめられており、何を言いたいのか、分からない。ともかくもはっきりしていることは、教師の負担軽減のための学校は変わる必要がある、ということなのだろう。
⑤「子どもたちの自己肯定感を育む」について
提言は、「幼児教育の充実」、「家庭教育支援の充実」、「多世代交流や異年齢交流等の推進」、「様々な体験活動の充実」、「官民協働によるICTの活用を通じたネットいじめへの対応」、「様々な課題を抱える子供たちを含む全ての子供たちの居場所づくり」、「新学習指導要領の実施に向けた条件整備」である。
どうやら、教師に世話を焼かせない子どもたちになるために、自分自身で自己肯定感を高め、その子どもたちを学校・家庭・地域で支援する、ということなのだろう。
ここまでくると、「教師の働き方改革のために」という発想で学校・家庭・地域や子どもを位置づけて、それぞれのもっている豊かな意味合いを枠づけてしまってよいのだろうか、という疑問が湧いてくる。
少なくとも、このような方向性でもって教育改革をすすめていくことが、私たちの生活を豊かなものにするのだろうか。この第十次提言の全体にわたってもっている言葉の心地よさに比して、貧しい未来社会がつくられるであろうことを懸念せざるを得ない。
◆ スピード感をもった教育改革とは
ところで、「3.」のところで、「教育再生実行会議では、〔中略〕その提言が着実に、かつスピード感を持って実行されているかどうかの観点からフォローアップを行ってきました」という文章がある。
確かに、スピード感をもって教育改革が実行されている、という感覚を私たちは、日々、もっている。しかし、そのスピード感は、「忙しさ」を私たちにもたらしている。
本当に「教師の働き方改革」をおこなう必要性を政府は認識しているならば、そのスピード感こそやめてしまい、国は、教師自身がつくりだす納得したスピード感をこそ、支えるべきなのではないだろうか。
(みやもりくにとも)
~言葉の心地よさに比して、貧しい未来社会が (教科書ネットニュース)
宮盛邦友 学習院大学
教育再生実行会議『自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子どもを育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上(第十次提言)』(平成29年6月1日)の読後感を書き記してみたい。
◆ 第十次提言の焦点は?
その目次を見ると、大きくは、「はじめに」、「1.学校、家庭、地域の役割分担と教育力の向上について」、「2.子供たちの自己肯定感を育む」、「3.これまでの提言の確実な実行に向けて」という4つに分けられている。
これら4つの論理構成が不明確であり、全体として何を言おうとしているのか、すぐに理解することが困難である。
そうはいっても、「はじめに」では、「教育再生実行会議においては、〔中略〕①教師の業務負担を軽減し、今後も学校が持続的に発展できるようにするべく、『学校・家庭・地域の役割分担と教育力の充実』について検討を行うとともに、②『子供たちの自己肯定感が低い現状を改善するための環境づくり』について検討を行いました」と書かれている。
どうやら、「教師の業務分担を軽減するために、学校の持続可能な発展をめざす」というところに、提言のタイトルにあらわれていない主要な焦点があるようである。
その前提認識には、「今後、家庭や地域が更に変容し、その教育力の維持・向上にとって更なる課題が生じることが予想される中、〔中略〕世界に高く評価されている『日本型学校教育』を将来にわたって維持・発展させるためには、様々な社会の状況の変化を踏まえつつ、学校に対してそのための資源を投入することが必要不可欠となります」があることを押さえておかなければならない。
◆ 第十次提言の内容と問題点
以下、とくに問題となる「1.」の「家庭、地域の教育力の向上」、「学校の教育力の向上のための教師の働き方改革」、および、「2.」に関してコメントをしていく。
①「家庭の教育力」について
提言は、「幼児教育の段階的無償化と質の向上」、「地域における総合的な家庭教育支援の推進に向けた子育て支援との連携」、「家庭教育支援員の配置促進による訪問型家庭教育支援の充実」、「家庭教育支援員等の人材育成等」、「家庭における子供と向き合う時間の確保」、「放課後等の居場所づくりの推進」、「関係機関・関係者間における個人情報の共有の円滑化」、「教育・福祉の連携・協力の実質化に向けた枠組みの構築」である。
これら一つひとつは、現代の子どもと家庭にとって切実な課題であり、大変に重要である。しかし、学校において困難を抱えている子どもたちに応答する、という教師の仕事の軽減のためにこれらの提言を行っているとするならば、という点が引っかかる。
②「地域の教育力」について
提言は、「コミュニティ・スクールの導入促進等」、「地域学校協働活動の推進等」、「学校におけるコミュニティ・スペースの整備」、「学校応援週間」、「教師の日」、「地域の力を活用した高校中退等の支援」である。
これらはすべて、学校のために地域がある、という把握の仕方に基づいており、地域そのもののもつ形成力への着目は見られない。
③「チーム学校の実現」について
提言は、「児童生徒指導担当教師等の充実」、「教育と福祉との相互理解のための研修の充実」、「教育相談体制の充実」である。
発達障害・子どもの貧困・いじめ・不登校・児童虐待などの困難を抱える子どもたちに対して、教師たちは、生徒指導および教育相談によって、集団でもって問題に対処していくことが求められている、と読みとることができる。
ただし、ここでも、あくまで教師の仕事の過重な負担は生活指導にあり、そのことを軽減するための方策としてチーム学校が必要不可欠である、という認識であるが、それではたして、子ども問題は解決するのだろうか、という疑問が生じる。
④「学校部活動改革・学校事務の効率化等を通じた教師の負担軽減」について
提言は、「部活動の持続可能な運営体制の整備」、「学校事務の効率化等」、「教師の研修の見直し等」、「学校指導体制の充実」である。
いくつかの違う問題群が一つにまとめられており、何を言いたいのか、分からない。ともかくもはっきりしていることは、教師の負担軽減のための学校は変わる必要がある、ということなのだろう。
⑤「子どもたちの自己肯定感を育む」について
提言は、「幼児教育の充実」、「家庭教育支援の充実」、「多世代交流や異年齢交流等の推進」、「様々な体験活動の充実」、「官民協働によるICTの活用を通じたネットいじめへの対応」、「様々な課題を抱える子供たちを含む全ての子供たちの居場所づくり」、「新学習指導要領の実施に向けた条件整備」である。
どうやら、教師に世話を焼かせない子どもたちになるために、自分自身で自己肯定感を高め、その子どもたちを学校・家庭・地域で支援する、ということなのだろう。
ここまでくると、「教師の働き方改革のために」という発想で学校・家庭・地域や子どもを位置づけて、それぞれのもっている豊かな意味合いを枠づけてしまってよいのだろうか、という疑問が湧いてくる。
少なくとも、このような方向性でもって教育改革をすすめていくことが、私たちの生活を豊かなものにするのだろうか。この第十次提言の全体にわたってもっている言葉の心地よさに比して、貧しい未来社会がつくられるであろうことを懸念せざるを得ない。
◆ スピード感をもった教育改革とは
ところで、「3.」のところで、「教育再生実行会議では、〔中略〕その提言が着実に、かつスピード感を持って実行されているかどうかの観点からフォローアップを行ってきました」という文章がある。
確かに、スピード感をもって教育改革が実行されている、という感覚を私たちは、日々、もっている。しかし、そのスピード感は、「忙しさ」を私たちにもたらしている。
本当に「教師の働き方改革」をおこなう必要性を政府は認識しているならば、そのスピード感こそやめてしまい、国は、教師自身がつくりだす納得したスピード感をこそ、支えるべきなのではないだろうか。
(みやもりくにとも)
※資料:教育再生実行会議提言『子どもと教科書全国ネット21ニュース 115号』(2017.8)
○第十次提言「自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子供を育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上」(2017〔平成29〕年6月1日)
○第九次提言「全ての子供たちの能力を伸ばし可能性を開花させる教育へ」(2016〔平成28〕年5月20日)
○第八次提言「教育立国実現のための教育投資・教育財源の在り方について」(2015〔平成27〕年7月8日)
○第七次提言「これからの時代に求められる資質・能力と、それを培う教育、教師の在り方について」(2015〔平成27〕年5月14日)
○第六次提言「『学び続ける』社会、全員参加型社会、地方創生を実現する教育の在り方について」(2015〔平成27〕年3月4日)
○第五次提言「今後の学制等の在り方について」(2014〔平成26〕年7月3日)
○第四次提言「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」(2013〔平成25〕年10月31日)
O第三次提言「これからの大学教育等の在り方について」(2013〔平成25〕年5月28日)
○第二次提言「教育委員会制度等の在り方について」(2013〔平成25〕年4月15日〉
○第一次提言「いじめの問題等への対応について」(2013〔平成25〕年2月26日)
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