★ 自民党政治資金裏金問題 事件当事者の文科大臣等経験者の”過去” (マスコミ市民)
永野厚男(教育ジャーナリスト)
文部科学省が「大綱的基準として各校の教育課程編成に法的拘束力あり」と主張し官報告示する、学習指導要領(以下、指導要領)の小学校道徳は、次の通り内容項目を規定(抜粋)。
「正直、誠実」⇒1・2年が「うそをついたりごまかしをしたりしないで、素直に伸び伸びと生活すること」、3・4年が「過ちは素直に改め、正直に明るい心で生活すること」。
「規則の尊重」⇒1・2年が「約束やきまりを守り、みんなが使う物を大切にすること」、5・6年が「法やきまりの意義を理解した上で進んでそれらを守り、自他の権利を大切にし、義務を果たすこと」(以下、傍線は筆者)。
自民党派閥の政治資金パーティーの裏金問題事件の、同党当事者の衆参両院議員らは、教育基本法改悪で盛り込んだ“国を愛する態度”等、国家主義を児童生徒や教職員に強制してくる一方、冒頭の6歳児でも守る、人間としての最低限の道徳心を欠いている。
死去した安倍晋三氏始め自民党や維新等の保守系政治家の大多数が信奉する、育鵬(いくほう)社社会科公民分野“教科書”は、平和憲法に違反する危険な“国防の義務”まで明記しているのに、今回の裏金問題事件の当事者は、上記の傍線部を守らず、納税の義務を果たしていないのだから、子どもたちは言行不一致だと見抜く。道徳教育に悪影響大だ。
本稿では、裏金問題事件の当事者の文部科学(副)大臣経験者から3名に絞り、過去犯した教育内容への政治介入事案を暴き出す(議員会館に教育勅語を掲げる萩生田(はぎうだ)光一衆院議員(60歳)は、月刊『紙の爆弾』2019年12月号で詳述済み)。
★ 前川喜平氏の授業に、池田佳隆容疑者らが政治介入
安倍派の政治資金パーティーで22年までの5年間に、4800万円超に上る巨額のキックバック(還流)を受けたのに、資金管理団体の政治資金収支報告書に記載しなかった衆院議員・池田佳隆(よしたか)容疑者(57歳)は1月7日、東京地検特捜部に逮捕(同日自民党から除名処分)され、1月26日に政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で起訴された。
池田容疑者は直近3回の衆院選挙で、選挙区の愛知3区(名古屋市昭和区・緑区・天白(てんばく)区)では立憲民主党の近藤昭一(しょういち)議員に負け続け、比例復活で当選となっている。第1次・2次岸田文雄内閣で21年10月6日~22年8月12日、文部科学副大臣を務めた。
ところで前川喜平(きへい)・元文科省事務次官は18年2月16日、名古屋市立八王子中学校(同市北区)の総合学習の授業で講演した。「授業のねらい」は「前川さんの中学生時代、文科省時代、退官後の生き方について、生徒がどう感じたかを生徒同士で共有することにより、キャリア教育の視点で、自分の未来や自分の生き方を創っていくことの参考にしてほしい」というもの。
生徒の感想は、
中1=「不登校の僕」では、前川さんのことを聞いて、人は変わることができると分かりました。
中2=夜間中学のことで衝撃を受けた。学校に通ったことがない人がいないと思っていたし、昔の話だと思っていたけど、他人事では無いと思った。
中3=いくつになっても学びたい人がいると分かったので、僕も一生懸命学ぼうと思った。
等、皆プラス評価だった。
しかし近年、改憲政治団体化している日本青年会議所の会頭時の06年、DVD『誇り―伝えようこの日本(くに)のあゆみー』を同会議所で制作し、同年6月、衆院教育基本法特別委員会に自民党推薦の参考人として出席、いわゆる自虐史観を非難する意見陳述をする等、国家主義思想に基づき政治活動をしてきた池田容疑者(議員当選後の18年当時は、自民党文科部会長代理)は、リベラルな言動で著名になっていた前川さんの行った授業を敵視。自身と同傾向の主義・主張を持つ赤池誠章(まさあき)・参議院議員(62歳。元文科省政務官)に通報した。
赤池氏は「国家公務員法違反の人が教壇に立てるのか」と決め付け(【注】参照)、講演翌日の2月17日は土曜で閉庁日だったが、「授業内容を確認する」よう要求するショートメールを、当時の藤原誠(まこと)・文科省大臣官房長(66歳。“首相官邸直系”の異名を持つ同氏が事務次官に出世、退官後の天下り先等は、月刊『紙の爆弾』23年12月号の拙稿を参照)に送信。藤原誠氏は翌2月18日、「対応します」と返信してしまった。
池田容疑者・赤池氏の要求を受け文科省は、当時の高橋道和(みちやす)初等中等教育局長(62歳)の指示で、教育課程課の”氏名不詳の課長補佐”が2度にわたり、「小姑(こじゅうと)のようにしつこい質問状」(名古屋市のある高齢者談)を、名古屋市教育委員会にメールした。
しかし、当時の校長や(今年2月11日、“市立小中の教員らで作る団体”から毎年、校長推薦名簿と共に、5000円~3万円の金品を受け取っていた事案が発覚したけれど、当時はまともな幹部もいた)名古屋市教委は、こうした文科省の政治介入を、みごとに切り返した(詳細は『週刊新社会』18年4月17日号の拙稿参照)。
★ 文科相当時、政治的中立性欠く放言を連発した下村博文氏
政治資金収支報告書の不記載額が19年からの4年間で476万円に上った下村博文(はくぶん)衆院議員(69歳)は、第2次安倍内閣発足の12年12月26日から15年10月7日まで文科大臣。在任中、社会科(高校は地理歴史科・公民科)で自衛隊や米軍基地問題等において、自民・維新等、保守政党の政策や主義・主張を児童生徒に教え込ませる意図で14年、「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」と教科書検定基準を改悪する等、国家主義イデオロギーの濃い政策を強行した。
この件はネット等で見られるので、本稿では、「頑張れ日本!全国行動委員会」(会長=田母神(たもがみ)俊雄・元自衛隊航空幕僚長)の東京・荒川支部が13年3月7日開いた“シンポジウム”(と称しつつ、実質は落選中だった前記・赤池氏の選挙用集会)を取材した、『週刊金曜日』13年3月15日号「アンテナ欄」の拙稿から、当時の下村氏の放言を抜粋し再現する。
同シンポでは、改憲政治団体・日本会議系の日本教育再生機構理事長の八木秀次(ひでつぐ)・高崎経済大教授(当時。現麗澤(れいたく)大教授)が、(1)道徳は席替えの時間に当てる等軽く扱われている、(2)沖縄の八重山(やえやま)採択地区協議会の育鵬社版教科書採択答申に反し、竹富町(たけとみちょう)教委が東京書籍版を配布したのは違法だ、と独自の“根拠”を提示。「道徳を教科化し、偉人の具体的生き方の教材を使用せよ。文科省や首長がもっと関与できるよう、教育委員会制度の抜本改革を」と主張した。
メイン講師の下村氏は八木氏発言を受け、「偉人伝等、道徳の教材作りは既に文科省の有識者会議で進めており、14年4月の『心のノート』改訂版に反映させる」と述べ、竹富町教委については「4月の新学期が迫っており、我々の要請に従わなければ新たな判断をする」と、強権発動(改定地方教育行政法第49条の是正要求)を示唆した。
ボルテージが上がった下村氏は「中教審委員にこれまで入っていた日教組代表を私が外し、代わりに櫻井よしこ氏を入れた。安倍首相が『政府主催で主権回復の日式典挙行』を明言した。建国記念日(ママ)の式典も政府主催でやりたい」と発言。会場から割れんばかりの拍手が起こってしまった。
★ 政治色に塗(まみ)れた指導要領改悪を強行した“松野博一文科相”
政治資金収支報告書の不記載額が22年までの5年間で1051万円に上った松野博一(ひろかず)前官房長官(61歳)は、第2次安倍内閣の文科大臣在任中の17年3月31日、保守政党の政策や主義・主張を児童生徒に教え込ませる指導要領改訂を強行した。2点に絞り説明する。
08年3月の旧指導要領は2月の“改訂案”の段階では、小学校音楽で“君が代”を1年生から「指導する」だったが、当時教育課程課長だった前記・高橋氏と教育課程企画室長だった合田哲雄・現文化庁次長(54歳)が安倍晋三氏側近の衛藤晟一(えとうせいいち)参院議員(76歳)と癒着し、かつ前記・八木秀次氏らが組織的に展開したパブコメ工作で同一筆跡のものもカウントするなど、右寄りの“意見”数を水増し。1年生(6歳児)から「歌えるよう指導する」と、ロシアばりの強制にした。
合田氏が教育課程課長になった17年2月の指導要領”改訂案”公表時、この「歌えるよう指導する」に反対のパブコメは多かったが、松野氏や合田氏は3月この文言を墨守し告示した。両氏らはその上に、それまで「内外の行事において国旗に親しむ」と記すに留めていた幼稚園教育要領を、「正月や節句など『我が国』の伝統的な行事、国歌、唱歌、わらべうたや『我が国』の伝統的な遊びに親し」むと加筆。“君=君主”の意味や憲法上の規定が全く分からない3~5歳児にまで、天皇を賛美する”君が代”を強制。”調教”のような偏向教育だ。
また小学校指導要領・社会は従来、「我が国の政治の働き」等の「内容」は6年生で教えてきた。
だが17年指導要領は、まだ「都道府県」を学ぶ段階の4年生の「自然災害から人々を守る活動」について、「県庁や市役所の働きなどを中心に取り上げ」としつつ、「国の機関」として「自衛隊」だけ明示し(気象庁等は無視)、「取り上げること」と強制した。
更に文科省作成の『指導要領解説社会編』(17年6月。法的拘束力はないのに、教科書会社や若手教諭はバイブルのように信奉)は、中学3年で憲法第9条との関係を含め学習してきた自衛隊を小4に前倒しし教え込むに際し、指導要領に盛った「自然災害」に留めず、「わが国の平和と安全を守ることを任務とする」と、軍事面でも”役立つ”と教え込めと踏み込んだ。人々の問で賛否両論ある軍事の役割まで「役立つ」とだけ教え込ませる、プーチン容疑者ばりのindoctrinationは、自民党や維新等が謀む憲法改“正”の国民投票が万一、政治日程に上った時、賛成票を増やす政治的意図が見え見えだ。
【注】文科省の質問状(抜粋)も「前川氏は国家公務員の天下り問題により辞職し、停職相当とされた経緯がある。こういう背景がある同氏について、学校の場にどのような判断で依頼したのか」と、前川さんを非難している。しかしこの天下り・国公法違反で17年1月20日、重い停職1か月処分となった藤原章夫(あきお)氏(60歳)と、同3か月の藤江陽子氏(60歳)を、政府・文科省は23年8月8日付で、文科事務次官と事務方ナンバー2の文科審議官に任命。前記・藤原誠氏も17年1月20日、停職一歩手前の減給10分の2、4か月の懲戒処分となったが18~21年、文科事務次官を務めた。同省や赤池氏は、政府に忠実な者らの懲戒処分者を一切批判しないくせに、政府に批判的な前川さんだけ非難。大矛盾だ。詳細は月刊『紙の爆弾』23年12月号の拙稿参照。
『マスコミ市民』(2024年4月)
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