◆ 都立高校改革の破綻
今春、都立定時制高校の生徒募集めぐって前代未聞の混乱があった。新聞やテレビなどでも報道され、本誌でも八〇七号(七月一六日)で瀬下美和氏の報告<リンク>が掲載された。しかし、混乱の様子は分かるものの、それが引き起こされた理由について、私は報道の内容に不満を感じる。
混乱が露にしたのは、ほぼ全入状態にある高校進学の場面で、どこにも行き場のない新卒者が、都内各地の中学校で続出したことである。この理由は、専ら「長引く不況の影響」など経済的側面に求められている。家計が苦しくなり私立に行かせられなくなったこと、そこに公立高校無償化が重なって都立志向が高まり、定時制からも溢れ出たとされる。都立高校改革の進行によって、多様な生徒を受け入れてきた定時制が次々と潰されたためでもある。
瀬下氏は他の報道とは違って、都内公立中学校卒業予定者の急増と、これに対応した都立全日制普通科の増学級についても触れている。しかしこれから高校に入る側の絶対数の増加を指摘しながら、残念なことに、これに東京都教育委員会が対応しない理由を、「私立の経営が圧迫されるので」学費の安い公立を増やせないという、「公私間協議」の壁の問題に話を向けてしまっている。関連して学校教育に自由競争を求める渡辺美樹氏のインタビュー記事まで載せている。おかしな話である。
公私間の確認はほぼ六対四という割合が基本であるから、中卒者が増加すれば当然公私双方の受け入れ実数は増える。第一、増学級でも都立の定員枠が増えることに変わりはない。高校を増やさず増学級で対応しているのは、あくまで都教委の都合である。
一九九七年に始まる「都立高校改革推進計画」は、九六年時点の「教育人口等推計」に基いて都立高校の適正規模・適正配置を考えたものである。計画完成年度の二〇一一年度には中卒者が約二万人減少すると見込まれていた。
しかし、この長期にわたる計画の総仕上げとして出された〇二年の「新たな実施計画」では、減少幅は約一万五千人に修正されている。実は九〇年代半ばから都道府県間の所得格差を背景に、「東京再集中」と呼ばれるバブル期以来の人口増加が首都圏では続いていた。推計の修正はこれを踏まえたものである。にもかかわらず都教委は、全日制は微調整にとどめ、定時制はさらに大規模に統廃合を強行したのである。
この姿勢は、今日の全日制増学級や定時制追加募集につながっている。つまり、ひたすら責任を学校現場に押し付けて教職員を酷使すること、これが学校教育に効率化を求める都立高校改革推進計画の狙いでもある。今春の混乱を、経済状況の悪化から急に都立志望者が増え、私立に制約されて「場当たり的」にしか対応できなかったからだと捉えたのでは、犯罪的とも言える都教委の居直りを見逃してしまうのである。
『週刊金曜日』(2010/8/20【論争】)
なお詳しくは、10月半ば発行予定の『社会臨床雑誌』18巻2号(現代書館取り扱い)に同名のタイトルで論文が載る予定ですので、こちらを参照してください
岡山輝明
今春、都立定時制高校の生徒募集めぐって前代未聞の混乱があった。新聞やテレビなどでも報道され、本誌でも八〇七号(七月一六日)で瀬下美和氏の報告<リンク>が掲載された。しかし、混乱の様子は分かるものの、それが引き起こされた理由について、私は報道の内容に不満を感じる。
混乱が露にしたのは、ほぼ全入状態にある高校進学の場面で、どこにも行き場のない新卒者が、都内各地の中学校で続出したことである。この理由は、専ら「長引く不況の影響」など経済的側面に求められている。家計が苦しくなり私立に行かせられなくなったこと、そこに公立高校無償化が重なって都立志向が高まり、定時制からも溢れ出たとされる。都立高校改革の進行によって、多様な生徒を受け入れてきた定時制が次々と潰されたためでもある。
瀬下氏は他の報道とは違って、都内公立中学校卒業予定者の急増と、これに対応した都立全日制普通科の増学級についても触れている。しかしこれから高校に入る側の絶対数の増加を指摘しながら、残念なことに、これに東京都教育委員会が対応しない理由を、「私立の経営が圧迫されるので」学費の安い公立を増やせないという、「公私間協議」の壁の問題に話を向けてしまっている。関連して学校教育に自由競争を求める渡辺美樹氏のインタビュー記事まで載せている。おかしな話である。
公私間の確認はほぼ六対四という割合が基本であるから、中卒者が増加すれば当然公私双方の受け入れ実数は増える。第一、増学級でも都立の定員枠が増えることに変わりはない。高校を増やさず増学級で対応しているのは、あくまで都教委の都合である。
一九九七年に始まる「都立高校改革推進計画」は、九六年時点の「教育人口等推計」に基いて都立高校の適正規模・適正配置を考えたものである。計画完成年度の二〇一一年度には中卒者が約二万人減少すると見込まれていた。
しかし、この長期にわたる計画の総仕上げとして出された〇二年の「新たな実施計画」では、減少幅は約一万五千人に修正されている。実は九〇年代半ばから都道府県間の所得格差を背景に、「東京再集中」と呼ばれるバブル期以来の人口増加が首都圏では続いていた。推計の修正はこれを踏まえたものである。にもかかわらず都教委は、全日制は微調整にとどめ、定時制はさらに大規模に統廃合を強行したのである。
この姿勢は、今日の全日制増学級や定時制追加募集につながっている。つまり、ひたすら責任を学校現場に押し付けて教職員を酷使すること、これが学校教育に効率化を求める都立高校改革推進計画の狙いでもある。今春の混乱を、経済状況の悪化から急に都立志望者が増え、私立に制約されて「場当たり的」にしか対応できなかったからだと捉えたのでは、犯罪的とも言える都教委の居直りを見逃してしまうのである。
『週刊金曜日』(2010/8/20【論争】)
なお詳しくは、10月半ば発行予定の『社会臨床雑誌』18巻2号(現代書館取り扱い)に同名のタイトルで論文が載る予定ですので、こちらを参照してください
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