◆ 12年間で延べ474人を処分
生徒にも「君が代」起立 強制する都教委 (週刊金曜日)
卒業式シーズンがやってきた。道徳でさらに愛国心が強調され、教師はもちろん、生徒にも「君が代」斉唱時に起立を促す場合があるという。「10・23通達」以降、処分された教職員は延べ474人ー。
「事情聴取には、弁護士の同席を求めます」今年の東京都立学校卒業式の「君が代」斉唱で起立せず、事情聴取のため3月8日に都教育委員会(教育庁)に呼ばれた教師は弁護士とともにこう要求した。「弁護士の同席は都教委の裁量で認めていません」都教委の職員は拒否した。理由を問い質しても答えない。こんな押し問答が30分ほど繰り返され、「これでお引き取りください」と都教委の側が打ち切った。
2003年、都教委は都立学校の教職員に卒業式や入学式などで「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する」ことを職務命令で強制する「10・23通達」を出した。
以後、都教委はこの通達に従わなかった教職員は体罰などと同じ「服務事故」を起こしたとして事情聴取後、戒告、減給、停職の処分を科してきた。この12年間に処分された教職員は延べ474人。今年も8日現在、不起立など不服従の教職員が複数出ている。
このような処分に対して数々の裁判が起こされ、これまでに確定した都教委の処分取り消しの総数は65件、55人にのぼる。だが、都教委は謝罪するどころか、減給処分を取り消された人に戒告処分を出し直すありさまである。
◆ 転向迫る再発防止研修
田中聡史さん(47歳)は都立学校の美術教師だ。生まれ育った京都市内の中学校の学区域には被差別部落や在日朝鮮人の多く住む地域があり、級友も多かった。そういう田中さんにとって「日の丸」や「君が代」はかつての侵略戦争や植民地支配のシンボル。それに起立し敬意を示すことは平和に生きる権利を否定し、民族差別を肯定する行為だ。だから、これまで田中さんは不起立を9回繰り返し、戒告3回、減給10分の1・1カ月の処分を6回受けている。
「罰」はそれだけではない。不起立のたびに「服務事故再発防止研修」が科される。事前に課題として不起立の原因や理由、その時の気持ち、現在の気持ちなどを書かせられる。まるで「反省文」だ。ほかに、15年度は都教職員研修センターでの研修が2回、都教委の職員が所属校に出向いての研修が4回行なわれた。
地方公務員法などの講義を受け、「振り返りシート」と称するテストを受けさせられる。終わると答えを読み上げさせられ、「模範解答」(参考例)が示される。要するに「答え合わせ」だ。
テストの最後には「あなたは今後、教育公務員としてどのように職務を遂行していこうと思いますか」という問いがある。田中さんは「全体の奉仕者として職務を遂行する」と書いた。
「模範解答」は「学習指導要領に基づき、教育課程の適正な実施に向けて校長が発出した職務命令に従い、自らの職責を果たす」。答えが批判されることはないが「転向を迫られている気がする」という。
15年度の入学式の不起立は東京都では田中さんだけだった。今度は所属校の卒業式が迫っている。どうするかはまだ決めていない。最悪の場合、処分されれば停職や免職もありうる。「毎日不起立のことを考えているので、ちょっと思考がおかしくなります」(田中さん)
東京地裁は、「自己の思想信条に反すると表明する者に何度も同一の研修を受けさせるのは違憲違法の可能性がある」という決定を出している(04年)が、田中さんのケースは抵触しないのか。
舛添要一知事に3月15日の記者会見で問うと、「(再発防止研修を〕何回やっているか知らないので事実を調べたい」と答えた。
◆ 「君が代」歌う生徒
処分された教師たちは、スイス・ジュネーブに行き、国連自由権規約委員会に「日の丸・君が代」強制の処分の実態を訴えた。その結果、14年に「思想、良心及び宗教の自由などへのいかなる制限を課すことを差し控えることを促す」との日本政府への勧告が出された。この勧告は東京都など各自治体に通知されている。
最近の都立学校の卒業式では、「君が代」斉唱の前に起立しない生徒がいると再度起立を促したり、全員起立するまで卒業式をはじめないなどと式進行表に明記している学校がほとんどだ。
これは生徒に対しても強制となり、国連勧告に反するのではないか。だが、「学習指導要領に基づき、児童・生徒に国旗・国歌に対する正しい認識を持たせ、それらを尊重する態度を育てるように適正に行なつています」(指導部指導企画課)というのが教育庁の見解だ。そのせいか、従順な生徒が増えたようだ。
不起立一回で戒告処分を受けた50代の教師は、数年前の移動教室での女子生徒同士の会話が忘れられない。「アタシ、音痴かも」「じゃ、何か歌ってみて」音痴を気にしている生徒が歌ったのは、「君が代」だった。「ここまで『君が代』が浸透しているのか」教師は愕然とした。
また、今年の卒業式の準備の際、送辞を読む生徒と打ち合わせをしていると、生徒自らが「ここで(『日の丸』に)礼をするんだよね」と聞いてきた。「10・23通達」以前にこんなことはなかった。
都立学校の処分された教職員でつくる「被処分者の会」の近藤徹事務局長は「自衛隊が海外で戦争するようになれば、『君が代』を歌わない国民は『非国民』と言われる時代が必ずくる」と言った。
3月4日、この教師も原告の東京君が代裁判四次訴訟(原告14人)の口頭弁論が開かれた。教師は、自らの思いを重ねて高知県の元教師・竹本源治の詩「戦死せる教え児よ」を朗読した。
生徒にも「君が代」起立 強制する都教委 (週刊金曜日)
永尾俊彦(ルポライター)
卒業式シーズンがやってきた。道徳でさらに愛国心が強調され、教師はもちろん、生徒にも「君が代」斉唱時に起立を促す場合があるという。「10・23通達」以降、処分された教職員は延べ474人ー。
「事情聴取には、弁護士の同席を求めます」今年の東京都立学校卒業式の「君が代」斉唱で起立せず、事情聴取のため3月8日に都教育委員会(教育庁)に呼ばれた教師は弁護士とともにこう要求した。「弁護士の同席は都教委の裁量で認めていません」都教委の職員は拒否した。理由を問い質しても答えない。こんな押し問答が30分ほど繰り返され、「これでお引き取りください」と都教委の側が打ち切った。
2003年、都教委は都立学校の教職員に卒業式や入学式などで「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する」ことを職務命令で強制する「10・23通達」を出した。
以後、都教委はこの通達に従わなかった教職員は体罰などと同じ「服務事故」を起こしたとして事情聴取後、戒告、減給、停職の処分を科してきた。この12年間に処分された教職員は延べ474人。今年も8日現在、不起立など不服従の教職員が複数出ている。
このような処分に対して数々の裁判が起こされ、これまでに確定した都教委の処分取り消しの総数は65件、55人にのぼる。だが、都教委は謝罪するどころか、減給処分を取り消された人に戒告処分を出し直すありさまである。
◆ 転向迫る再発防止研修
田中聡史さん(47歳)は都立学校の美術教師だ。生まれ育った京都市内の中学校の学区域には被差別部落や在日朝鮮人の多く住む地域があり、級友も多かった。そういう田中さんにとって「日の丸」や「君が代」はかつての侵略戦争や植民地支配のシンボル。それに起立し敬意を示すことは平和に生きる権利を否定し、民族差別を肯定する行為だ。だから、これまで田中さんは不起立を9回繰り返し、戒告3回、減給10分の1・1カ月の処分を6回受けている。
「罰」はそれだけではない。不起立のたびに「服務事故再発防止研修」が科される。事前に課題として不起立の原因や理由、その時の気持ち、現在の気持ちなどを書かせられる。まるで「反省文」だ。ほかに、15年度は都教職員研修センターでの研修が2回、都教委の職員が所属校に出向いての研修が4回行なわれた。
地方公務員法などの講義を受け、「振り返りシート」と称するテストを受けさせられる。終わると答えを読み上げさせられ、「模範解答」(参考例)が示される。要するに「答え合わせ」だ。
テストの最後には「あなたは今後、教育公務員としてどのように職務を遂行していこうと思いますか」という問いがある。田中さんは「全体の奉仕者として職務を遂行する」と書いた。
「模範解答」は「学習指導要領に基づき、教育課程の適正な実施に向けて校長が発出した職務命令に従い、自らの職責を果たす」。答えが批判されることはないが「転向を迫られている気がする」という。
15年度の入学式の不起立は東京都では田中さんだけだった。今度は所属校の卒業式が迫っている。どうするかはまだ決めていない。最悪の場合、処分されれば停職や免職もありうる。「毎日不起立のことを考えているので、ちょっと思考がおかしくなります」(田中さん)
東京地裁は、「自己の思想信条に反すると表明する者に何度も同一の研修を受けさせるのは違憲違法の可能性がある」という決定を出している(04年)が、田中さんのケースは抵触しないのか。
舛添要一知事に3月15日の記者会見で問うと、「(再発防止研修を〕何回やっているか知らないので事実を調べたい」と答えた。
◆ 「君が代」歌う生徒
処分された教師たちは、スイス・ジュネーブに行き、国連自由権規約委員会に「日の丸・君が代」強制の処分の実態を訴えた。その結果、14年に「思想、良心及び宗教の自由などへのいかなる制限を課すことを差し控えることを促す」との日本政府への勧告が出された。この勧告は東京都など各自治体に通知されている。
最近の都立学校の卒業式では、「君が代」斉唱の前に起立しない生徒がいると再度起立を促したり、全員起立するまで卒業式をはじめないなどと式進行表に明記している学校がほとんどだ。
これは生徒に対しても強制となり、国連勧告に反するのではないか。だが、「学習指導要領に基づき、児童・生徒に国旗・国歌に対する正しい認識を持たせ、それらを尊重する態度を育てるように適正に行なつています」(指導部指導企画課)というのが教育庁の見解だ。そのせいか、従順な生徒が増えたようだ。
不起立一回で戒告処分を受けた50代の教師は、数年前の移動教室での女子生徒同士の会話が忘れられない。「アタシ、音痴かも」「じゃ、何か歌ってみて」音痴を気にしている生徒が歌ったのは、「君が代」だった。「ここまで『君が代』が浸透しているのか」教師は愕然とした。
また、今年の卒業式の準備の際、送辞を読む生徒と打ち合わせをしていると、生徒自らが「ここで(『日の丸』に)礼をするんだよね」と聞いてきた。「10・23通達」以前にこんなことはなかった。
都立学校の処分された教職員でつくる「被処分者の会」の近藤徹事務局長は「自衛隊が海外で戦争するようになれば、『君が代』を歌わない国民は『非国民』と言われる時代が必ずくる」と言った。
3月4日、この教師も原告の東京君が代裁判四次訴訟(原告14人)の口頭弁論が開かれた。教師は、自らの思いを重ねて高知県の元教師・竹本源治の詩「戦死せる教え児よ」を朗読した。
逝(ゆ)いて還らぬ教え児よ『週刊金曜日 1080号』(2016・3・18)
私の手は血まみれだ!
君を縊(くび)ったたその綱の
端(はし)を私も持っていた
しかも人の子の師の名において
(中略)
「繰り返さぬぞ絶対に!」
法廷は静かな感動に包まれた。
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