◆ NHKが〝日米軍事同盟強化だけ正解〟とする番組を放映
公募でない人選の大学生ら6人、解説委員に一切反論せず (マスコミ市民)
20年12月29日のNHK番組で政府寄りの発言を繰り返す梶原氏(右)と田中氏
放送法第4条は「政治的に公平であること。報道は事実をまげないですること。意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と規定する。
ところがNHKは2020年12月29日、この規定に違反し、政府の「日米軍事同盟関係強化」だけを結論の一つとする番組(エンディングで司会者・今村啓一(けいいち)解説委員長が明言)、『時論公論 クエスチョン・タイム』を、109分間も放映した。
この番組は不定期(年数回)の『解説スタジアム』を引き継ぎ、大学生の質問にNHK解説委員が「とことん答える」というもの。
この日は「アメリカ新政権でどうなる? 2021年の世界と日本」と題し、
(1)「中国の軍備増強」に対し、「力で封じ込め、力の均衡で抑え」(加藤青延(はるのぶ)専門解説委員。66歳)、
(2)「海上自衛隊の活動範囲の南シナ海、インド洋への拡大」、その「周辺国との軍事訓練」、「日米」の軍拡(軍事協力)を「豪州・インドの4カ国に広げる」等の施策が、「大切なんだ」とする(梶原崇幹(たかもと)解説委員)、一方的プロパガンダだった。
(3)沖縄県の問題でも、「中国が尖閣(せんかく)をもし奪取する際に、在日米軍が積極的に動かないようなことが仮にあれば、日米同盟に修復しがたい亀裂を与えられる」(梶原氏。ただし、下線は筆者)と、尖閣諸島で中国の〝脅威〟を煽ることに終始。
放送法4条に係る番組ゆえ、質問する大学生(院生を含む)6人は作文を課す等して公募し、政府の「日米軍事同盟関係強化」に賛成3人、反対3人を出演させるべきだ。
しかし、NHKが人選した「タレントで慶応義塾大学3年生のトラウデン直美氏と、日本生産性本部ジュニア・アカデメイアの大学生4人(院生1人含む)、大阪の大学で落語に取り組んでいる大学1年1人」は、公募した形跡なし。
オンライン出演したこの6人は、前記(1)~(3)の論争的テーマで、政府・保守政党の政策に沿う質問をし、解説委員の反動的〝回答〟に、何一つ反論せず。利用されているだけ、という感じだった。
以下、番組のエッセンスを掲げ、分析・批判する。
◆ 〝ハイブリッド〟と称し、軍事力での封じ込めを正当化
加藤氏:中国の国防予算は凄い勢いで伸びていて、今年は予算段階で19兆円強だ。10年前の2倍以上、トランプ政権が誕生した4年前と比べても30%以上。凄い膨れ上がりだ。/しかもそのお金で、最近では2隻目の新空母が、護衛艦4隻を従え艦隊を成し、台湾海峡を通過、緊張が高まる状況がある。中国はこの他にも、原子力空母2隻を含む4隻の空母を新たに作ろうとしている。3隻目を作り始めているという情報もある。これやはり大変だ。/毛沢東(もうたくとう)さんは中国という国を獲(と)った。(とうしょうへい)さんは香港・マカオを取り戻した。《略》習近平さん、自分たちの領土、広げたいと思っているわけ。そういう意味でも台湾統一を一番ターゲットにしているから、台湾海峡、これからも目を離せないし、恐らくそれを巡る米中対立はそう簡単に変わらない、むしろ激化するというふうに見た方がいい。
NHKは20年12月5日、「アメリカ 兵器輸出額が増額 日本へのF35戦闘機輸出も要因」と題し、「米政府は、今年9月までの会計年度に輸出した兵器の総額が前年度をおよそ3%上回って1750億ドル(日本円で18兆円余)に上ったと公表し、日本向けの戦闘機の輸出が大きな要因だとしています」と報道。
中国の軍拡はやめさせなければいけないが、米国の大軍拡と、それに日本政府が兵器爆買いで加担している事実を、一切問題視しない加藤氏は偏向している(【注】参照)。
加藤氏は番組最後の方で、「例えば中国と米国の間に立ち、双方に自制を求める、緊張緩和の方向に日本がうまく世界をまとめていく外交」と、「逆に中国が現状変更する動きを見せているから」との理由で冒頭の(1)と、両方を主張。そして、「この2つ同時にハイブリッドでうまく立ち振舞っていく。非常に難しいけど、それしかない」と主張。〝素直〟に大きく頷うなずく学生がいたが、私がもしオンライン出演できたら、「マッチポンプみたいなこと言うな」と批判・反対意見を述べるところだ。
◆ 「自衛隊と米軍の共同対処は戦争だ」と明言すべき
慶応大3年の門岡春花(かどおかはるか)氏が中盤、「トランプ政権時は尖閣諸島への(日米)安全保障条約適用について述べられていた。バイデン新政権になって、この方針に大きな変化はあるのか」と質問。
これを受け、梶原氏は「尖閣諸島は日本固有の領土。解決しなければならない領有権の問題はそもそも存在しない」と、文科省の社会科学習指導要領通り政府見解を表明後、予め用意していた東シナ海の地図を示し、「中国はこの波線の領域から外に海軍力を展開したいという狙いがあると思う」と主張した。
そして梶原氏は、冒頭の(3)の中国の〝脅威〟を煽る表現をした上で、これまた予め用意していた日米安保条約第5条の条文を示しながら、「尖閣に第5条が適用されるとは、中国が尖閣諸島に攻撃を仕掛けた場合は、自衛隊と米軍が共同で対処しますよ、ということなんです」と述べた。
この「共同対処」は、自衛隊法第76条1号の防衛出動命令時だ。梶原氏は「これは自衛隊が米軍と一緒に中国に対し武力行使することで、武器使用に制限がないから戦争だ。戦争の放棄を定めた憲法第9条違反という意見もあるんだ」とハッキリ言うべきだ。
また「共同対処」という戦争は、安倍政権が強行成立させた戦争法(安保法)に基づく、自衛隊法第76条2号の集団的自衛権行使を端緒(たんちょ)に起こることもある、と語るべきだ。
この後、門岡氏が「ズバリ、日本は米国と中国にどのように働きかけていくべきか」と問うと、梶原氏は「中国には力による現状変更を認めないんだということで、あらゆるレベルでメッセージを出し続けることだと思う。更に政府関係者からは、東シナ海等で行っている日米共同訓練のレベルを落とすと、米国のコミットメントが落ちたと誤解される恐れがある。そのレベルを落とさないことが大事、という指摘もある」と発言した。
後者については「軍事訓練は緊張緩和に反するからやめろ」等、政府と違う意見も紹介するべきだ。
◆ 「日米軍事同盟関係強化」に不利になる事実は隠蔽
前出・梶原氏の「共同対処」発言の後、田中泰臣(やすおみ)解説委員が、①尖閣諸島周辺で中国公船の活動が一段とレベルアップ、②王毅(おうき)中国外相の11月の「日本漁船が中国の水域に入ってくるのでやむを得ない」との発言に、地元は反発を強め、沖縄県議会・石垣市議会は抗議決議を全会一致で可決した、の2点述べた。
田中氏のこの発言は事実ではあるが、真実の一面しか述べていない。
①については、「20年8月まで沖縄放送局でデスクをしていた田中氏」だからこそ、冒頭の(3)を始め尖閣での自衛隊の米軍との軍事行動・武力行使を煽る梶原氏に対し、「自衛隊が出なくても海上保安庁が頑張って対応しています」と、諫(いさ)めブレーキをかける発言をするべきだったのではないか(因みに筆者は海上保安庁の装備の充実・強化には賛成である)。
また、筆者はビデオを5回以上点検したが、米軍基地に起因する、軍用機の墜落事故(部品落下を含む)や、米軍人による強姦(ごうかん)での殺傷事件、飲酒運転等での轢死(れきし)事件等、「日米軍事同盟強化」に不利になる事実は、田中氏を含め誰も一切、触れなかった。
この件での沖縄県議会の抗議決議が枚挙に暇がない事実を熟知しているはずだが、指摘を怠った田中氏の責任は重い。
【注】 この番組で、米国の軍事政策への批判は、出川展恒(でがわのぶひさ)解説委員が「トランプ政権がイラン核合意から一方的に離脱。イランに非常に厳しい経済制裁を課したため、人々の生活が非常に苦しくなっている」と述べた程度。なお番組は、隣国・韓国との友好関係の重要性は一切言及せず。
『マスコミ市民』(2021年2月号)
公募でない人選の大学生ら6人、解説委員に一切反論せず (マスコミ市民)
永野厚男(教育ジャーナリスト)
20年12月29日のNHK番組で政府寄りの発言を繰り返す梶原氏(右)と田中氏
放送法第4条は「政治的に公平であること。報道は事実をまげないですること。意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と規定する。
ところがNHKは2020年12月29日、この規定に違反し、政府の「日米軍事同盟関係強化」だけを結論の一つとする番組(エンディングで司会者・今村啓一(けいいち)解説委員長が明言)、『時論公論 クエスチョン・タイム』を、109分間も放映した。
この番組は不定期(年数回)の『解説スタジアム』を引き継ぎ、大学生の質問にNHK解説委員が「とことん答える」というもの。
この日は「アメリカ新政権でどうなる? 2021年の世界と日本」と題し、
(1)「中国の軍備増強」に対し、「力で封じ込め、力の均衡で抑え」(加藤青延(はるのぶ)専門解説委員。66歳)、
(2)「海上自衛隊の活動範囲の南シナ海、インド洋への拡大」、その「周辺国との軍事訓練」、「日米」の軍拡(軍事協力)を「豪州・インドの4カ国に広げる」等の施策が、「大切なんだ」とする(梶原崇幹(たかもと)解説委員)、一方的プロパガンダだった。
(3)沖縄県の問題でも、「中国が尖閣(せんかく)をもし奪取する際に、在日米軍が積極的に動かないようなことが仮にあれば、日米同盟に修復しがたい亀裂を与えられる」(梶原氏。ただし、下線は筆者)と、尖閣諸島で中国の〝脅威〟を煽ることに終始。
放送法4条に係る番組ゆえ、質問する大学生(院生を含む)6人は作文を課す等して公募し、政府の「日米軍事同盟関係強化」に賛成3人、反対3人を出演させるべきだ。
しかし、NHKが人選した「タレントで慶応義塾大学3年生のトラウデン直美氏と、日本生産性本部ジュニア・アカデメイアの大学生4人(院生1人含む)、大阪の大学で落語に取り組んでいる大学1年1人」は、公募した形跡なし。
オンライン出演したこの6人は、前記(1)~(3)の論争的テーマで、政府・保守政党の政策に沿う質問をし、解説委員の反動的〝回答〟に、何一つ反論せず。利用されているだけ、という感じだった。
以下、番組のエッセンスを掲げ、分析・批判する。
◆ 〝ハイブリッド〟と称し、軍事力での封じ込めを正当化
加藤氏:中国の国防予算は凄い勢いで伸びていて、今年は予算段階で19兆円強だ。10年前の2倍以上、トランプ政権が誕生した4年前と比べても30%以上。凄い膨れ上がりだ。/しかもそのお金で、最近では2隻目の新空母が、護衛艦4隻を従え艦隊を成し、台湾海峡を通過、緊張が高まる状況がある。中国はこの他にも、原子力空母2隻を含む4隻の空母を新たに作ろうとしている。3隻目を作り始めているという情報もある。これやはり大変だ。/毛沢東(もうたくとう)さんは中国という国を獲(と)った。(とうしょうへい)さんは香港・マカオを取り戻した。《略》習近平さん、自分たちの領土、広げたいと思っているわけ。そういう意味でも台湾統一を一番ターゲットにしているから、台湾海峡、これからも目を離せないし、恐らくそれを巡る米中対立はそう簡単に変わらない、むしろ激化するというふうに見た方がいい。
NHKは20年12月5日、「アメリカ 兵器輸出額が増額 日本へのF35戦闘機輸出も要因」と題し、「米政府は、今年9月までの会計年度に輸出した兵器の総額が前年度をおよそ3%上回って1750億ドル(日本円で18兆円余)に上ったと公表し、日本向けの戦闘機の輸出が大きな要因だとしています」と報道。
中国の軍拡はやめさせなければいけないが、米国の大軍拡と、それに日本政府が兵器爆買いで加担している事実を、一切問題視しない加藤氏は偏向している(【注】参照)。
加藤氏は番組最後の方で、「例えば中国と米国の間に立ち、双方に自制を求める、緊張緩和の方向に日本がうまく世界をまとめていく外交」と、「逆に中国が現状変更する動きを見せているから」との理由で冒頭の(1)と、両方を主張。そして、「この2つ同時にハイブリッドでうまく立ち振舞っていく。非常に難しいけど、それしかない」と主張。〝素直〟に大きく頷うなずく学生がいたが、私がもしオンライン出演できたら、「マッチポンプみたいなこと言うな」と批判・反対意見を述べるところだ。
◆ 「自衛隊と米軍の共同対処は戦争だ」と明言すべき
慶応大3年の門岡春花(かどおかはるか)氏が中盤、「トランプ政権時は尖閣諸島への(日米)安全保障条約適用について述べられていた。バイデン新政権になって、この方針に大きな変化はあるのか」と質問。
これを受け、梶原氏は「尖閣諸島は日本固有の領土。解決しなければならない領有権の問題はそもそも存在しない」と、文科省の社会科学習指導要領通り政府見解を表明後、予め用意していた東シナ海の地図を示し、「中国はこの波線の領域から外に海軍力を展開したいという狙いがあると思う」と主張した。
そして梶原氏は、冒頭の(3)の中国の〝脅威〟を煽る表現をした上で、これまた予め用意していた日米安保条約第5条の条文を示しながら、「尖閣に第5条が適用されるとは、中国が尖閣諸島に攻撃を仕掛けた場合は、自衛隊と米軍が共同で対処しますよ、ということなんです」と述べた。
この「共同対処」は、自衛隊法第76条1号の防衛出動命令時だ。梶原氏は「これは自衛隊が米軍と一緒に中国に対し武力行使することで、武器使用に制限がないから戦争だ。戦争の放棄を定めた憲法第9条違反という意見もあるんだ」とハッキリ言うべきだ。
また「共同対処」という戦争は、安倍政権が強行成立させた戦争法(安保法)に基づく、自衛隊法第76条2号の集団的自衛権行使を端緒(たんちょ)に起こることもある、と語るべきだ。
この後、門岡氏が「ズバリ、日本は米国と中国にどのように働きかけていくべきか」と問うと、梶原氏は「中国には力による現状変更を認めないんだということで、あらゆるレベルでメッセージを出し続けることだと思う。更に政府関係者からは、東シナ海等で行っている日米共同訓練のレベルを落とすと、米国のコミットメントが落ちたと誤解される恐れがある。そのレベルを落とさないことが大事、という指摘もある」と発言した。
後者については「軍事訓練は緊張緩和に反するからやめろ」等、政府と違う意見も紹介するべきだ。
◆ 「日米軍事同盟関係強化」に不利になる事実は隠蔽
前出・梶原氏の「共同対処」発言の後、田中泰臣(やすおみ)解説委員が、①尖閣諸島周辺で中国公船の活動が一段とレベルアップ、②王毅(おうき)中国外相の11月の「日本漁船が中国の水域に入ってくるのでやむを得ない」との発言に、地元は反発を強め、沖縄県議会・石垣市議会は抗議決議を全会一致で可決した、の2点述べた。
田中氏のこの発言は事実ではあるが、真実の一面しか述べていない。
①については、「20年8月まで沖縄放送局でデスクをしていた田中氏」だからこそ、冒頭の(3)を始め尖閣での自衛隊の米軍との軍事行動・武力行使を煽る梶原氏に対し、「自衛隊が出なくても海上保安庁が頑張って対応しています」と、諫(いさ)めブレーキをかける発言をするべきだったのではないか(因みに筆者は海上保安庁の装備の充実・強化には賛成である)。
また、筆者はビデオを5回以上点検したが、米軍基地に起因する、軍用機の墜落事故(部品落下を含む)や、米軍人による強姦(ごうかん)での殺傷事件、飲酒運転等での轢死(れきし)事件等、「日米軍事同盟強化」に不利になる事実は、田中氏を含め誰も一切、触れなかった。
この件での沖縄県議会の抗議決議が枚挙に暇がない事実を熟知しているはずだが、指摘を怠った田中氏の責任は重い。
【注】 この番組で、米国の軍事政策への批判は、出川展恒(でがわのぶひさ)解説委員が「トランプ政権がイラン核合意から一方的に離脱。イランに非常に厳しい経済制裁を課したため、人々の生活が非常に苦しくなっている」と述べた程度。なお番組は、隣国・韓国との友好関係の重要性は一切言及せず。
『マスコミ市民』(2021年2月号)
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