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大阪府条例の可決に抗議する千葉県弁護士会会長声明

2011年09月24日 | 日の丸・君が代関連ニュース
 《千葉県弁護士会 会長声明》
◎ 公立学校教職員に国歌斉唱時の起立・斉唱を強制する
大阪府条例の可決に抗議する会長声明

 1 大阪府議会は、2011年6月3日、自公民を含むすべての野党が反対する中、橋下徹大阪府知事が代表を務める地域政党「大阪維新の会」府議団の賛成多数により、大阪府立学校の入学式や卒業式などで国歌を斉唱する際、教職員に起立・斉唱を義務付ける条例を可決した。また、橋下府知事は、本条例とは別に、国歌斉唱時に起立・斉唱しない教職員に対する懲戒処分の基準を定めた条例案を本年9月府議会に提出する方針を明らかにしている。
 地方自治体の首長が当該自治体の教職員に対し、免職を含む処分を公言して国歌斉唱時の起立・斉唱を求め、これを条例によって強制するなどということはかつてない事態であり、思想・良心の自由の保障に加え、教育の内容及び方法に対する公権力の介入は抑制的であるべきという憲法上の要請に違反するものとして、看過できないところである。
 しかも、このような重要且つ意見が分かれる条例内容を、先の統一地方選挙時には全く触れていないのに、そのわずか2か月余の後に提案し、ほとんど審議もされないまま可決するなど、府民の意向を正しく反映しているか強い疑問がある。
 2 憲法第19条や市民的及び政治的権利に関する国際規約18条に定める思想及び良心の自由は、内面的精神活動の中でも最も中核を占める重要な権利である。
 そして、国旗国歌法が制定された現在においても、国民の間には国歌である『君が代』に対しては多様な意見が存在しており、その歴史的経緯に照らし、「君が代」斉唱時に起立しないことが、決して独善的で特異なものではなく、それが一般に共有可能な歴史観や真摯な動機に基づくものであること、すなわち、思想・良心の自由として憲法上の保護を受けるものであることを示している。したがって、国や地方自治体が、教職員に対して「君が代」を斉唱する際に起立・斉唱を強制することは、憲法の保障する思想・良心の自由を侵害するものと言わざるを得ない。
 3 本件条例は、大阪府教職員という公務員に対して起立・斉唱を義務付けるにとどまるものであるが、公務員が「全体の奉仕者」(憲法15条2項)と位置付けられているとしても、これは国民主権原理の下で公務員に対する抽象的な指導原理を述べたものにとどまり、「全体の奉仕者」であることを根拠に、一律全面的に公務員の憲法上の自由を制限する根拠となるものではない
 したがって、義務付け自体が憲法第19条に違犯しており、国歌斉唱時の起立の義務付けを公務員に限定したとしても、憲法上強要されることはないのである。
 4 さらに、国旗国歌法の制定過程において、当時の野中官房長官は、「それぞれ、人によって、式典等においてこれを、起立する自由もあれば起立しない自由もあろうかと思うわけでございますし、また、斉唱する自由もあれば斉唱しない自由もあろうかと思うわけでございまして、この法制化はそれを画一的にしようというわけではございません。」と述べており、同法によって国民に対して国歌斉唱時の起立斉唱を義務付けることはない事を明らかにしていた。しかも、国旗国歌法は国旗を日章旗、国歌を君が代と規定するのみであって、草案段階において尊重義務条項が削除された制定過程からしても、国歌斉唱時の起立斉唱を義務付けることは国旗国歌法の立法趣旨を逸脱するものである。
 大阪府が制定しうる条例は*憲法94条によって「法律の範囲内」に限定されているところ、国旗国歌法が忌避した国歌斉唱時の起立の義務付けに踏み込んだ本件条例は、法律の範囲を逸脱したものとして無効と言わざるを得ない。
 5 加えて、教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じて、その個性に応じて行われなければならないという教育の本質的要請(1976年5月21日旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決)に照らし、子どもの学習権充足の見地からは、教育の具体的内容及び方法に関して、子どもの個性や成長・発達段階に応じた教師の創意工夫が認められなければならない。したがって、子どもの学習権に対応するため、教員には、公権力によって特定の意見のみを教授することを強制されないという意味において教育の自由が保障されている。この趣旨は、教育行政の独立を明確に定めた教育基本法第16条1項にも表れている。
 したがって、教員の思想・良心の自由及び教育の自由に対する強制は特に許されず、教育の内容及び方法に対する公権力の介入も抑制的でなければならない。
 6 東京都教育委員会が2003(平成15)年10月23日付で都立高等学校等の校長宛てに出した卒業式等での国歌斉唱の際に教職員に起立斉唱を義務付けるいわゆる「10・23通達」とそれに基づく職務命令に関し、本年5月30日に最高裁第二小法廷が、同6月6日に最高裁第一小法廷が、起立斉唱の義務付けは一定の必要性と合理性があり、憲法第19条の思想・良心の自由を侵害するものではないとの判決を出した。しかしながらいずれの判決も、起立斉唱の義務付けは起立斉唱をしたくない教職員の思想・良心の自由についての間接的制約になる面があることを認めている上に、「強制や不利益処分は可能な限り謙抑的であるべき」との補足意見(5月30日判決における須藤正彦裁判官)、「国旗・国歌に対する姿勢は、個々人の思想信条に関連する微妙な領域の問題であって、国民に対する姿勢は、個々人の思想信条に関連する微妙な問題であって、国民が心から敬愛するものであってこそ、国旗・国歌がその本来の意義に沿うものとなる。国旗国歌が、強制的にではなく、自発的な敬愛の対象になるような環境を整えることが何よりも重要」との補足意見(5月30日判決における千葉勝美裁判官)、「本件職務命令の合憲性の判断に当たっては、いわゆる厳格な基準により、本件事案の内容に即して具体的に、目的は真にやむを得ない利益であるか、手段は必要最小限度の制限であるか、目的と手段との関係は必要不可欠であるか、より制限的でない他の選び得る手段が存在するかを検討すべき」との反対意見(6月6日判決における宮川光治裁判官)があり、国歌斉唱の際の起立斉唱の強制を全面的に許容したものではない。
 しかるに、本件大阪府条例は、大阪府の公立学校教職員に一律に国歌斉唱の際の起立斉唱を強制するものであり、上記2件の最高裁判決からいっても、違憲・違法の疑いが極めて強いと言わざるを得ない。
 7 当会は、思想及び良心の自由の重要性、教育に対する「不当な支配」の排除に鑑み、違憲・違法の疑いが極めて強い本件条例が大阪府議会で可決されたことに強く抗議するとともに、大阪府議会および府知事に対して、府内公立学校の教育現場に介入して、教職員に対し国歌斉唱時の起立斉唱を強制することのないよう強く要請する

 2011年7月6日
千葉県弁護士会
会 長  木 村 龍 次


http://www.chiba-ben.or.jp/renewal/wp-content/uploads/2011/07/bfa9ada7bde8e6bae0c36681c3b25597.pdf
『今 言論・表現の自由があぶない!』(2011/9/22)
http://blogs.yahoo.co.jp/jrfs20040729/21468111.html

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