=郵政非正規 20万人の明日をかけて=
◆ 労契法20条西日本訴訟の意義 (労働情報)
2013年4月1日、「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」を謳う労働契約法20条が施行された。本条を武器にすれば、有期雇用=非正規労働者に対する格差処遇を一定限度ではあっても是正することができるハズである。しかし、そのためには労基署に行ってもダメで、雇い主である会社を相手に訴訟を提起し、法廷で争わなければならない。
そして、ようやく1年が経過して、メトロコマース、ハマキョウレックスで非正規労働者が起ち上がり、次いで、14年5月の連休明けには、東日本の郵政非正規労働者3名が日本郵便相手に東京地裁に提訴した。
これを受け、西日本でも提訴者を募ったところ、なんと9名が名乗りを上げ、弁護団もマン・ツー・マン体制で9名の弁護士を募って結団した。
依頼者である郵政ユニオンからは6月中に提訴して欲しいとのことであったので、東日本訴訟が敷設したレールに乗りかかって、14年6月30日、大阪地裁になんとか提訴することができた。
訴状の総頁数は130頁に及んでいたが、9名の個別事情で大半が埋まっており、総論部分は文字どおり東日本訴訟に「おんぶにだっこ」であった。
◆ 丁々発止のロ頭弁論
2014年10月1日、第1回口頭弁論。関西で郵政相手に裁判をすると、必ず中之島中央法律事務所の弁護士が会社側代理人に就くのであるが、こと20条裁判に関しては、東日本訴訟の会社側代理人と同じ東京の弁護士数名が出張ってきた。
当日は、原告団を代表して3名が意見陳述を行い、弁護団を代表して私が簡単に意見を述べ、期日を終えた。
同年12月15日、第2回口頭弁論。会社側より被告第1準備書面陳述。当方は、社員給与規程が改訂されたことに伴う訴え変更申立書を陳述した。
15年2月9日、第3回口頭弁論。当方より原告第1準備書面陳述。裁判所より、請求対象である労働条件ごとに合理性・不合理性に関する双方の主張を一覧化する対照表の書式が提示され、これに対し当方より、9名いる原告の個別事情を同表にいかに反映させるべきか、その位置付けについて次回までに検討することを約束する。
同年4月20日、第4回口頭弁論。会社側より被告第2準備書面陳述。当方より、各原告の個別事情の位置付けに関する準備書面陳述。次回を6月16日進行協議期日と取り決めて、期日終了。
◆ 格差に理由はあるか
西日本訴訟で原告らが格差是正を求めている労働条件は、東日本訴訟のそれとほぼ同じである。すなわち、給与については基本給を除く諸手当(外務業務手当、業務精通手当、年末年始勤務手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期・年末手当、住居手当、扶養手当)、休暇については、夏期・冬期休暇と病気休暇である。
労契法20条は、処遇格差の不合理性判断の考慮要素として、①責任の程度を含む職務内容、②職務内容や配置の変更の範囲、③その他の事情を挙げているので、訴訟の初期段階では、同じ集配労働に従事する原告らと正社員とで、これらの考慮要素にほとんど差異はないことを詳しく論じた。
これに対し会社側は、①②のほか、③その他の考慮要素として、採用手続、人事評価制度、人材育成・研修制度、営業活動の評価・処遇への反映等があると主張し、正社員との差異を強調した。
しかしながら、不合理であるか否かは、相違のある個々の労働条件ごとに判断しなければならないのであり、その際の考慮要素についても、問題となる労働条件の給付の趣旨・目的・性格と関連するものを取り上げればよく、考慮要素のすべてについて判断する必要はない。
たとえば、外務業務手当や業務精通手当は、①の職務内容と関連する給付であるが、住居手当は、②の配置転換(転勤)とは関連があるが①とは無関係であり、扶養手当に至っては①とも②とも関連性がなく、「長期勤続する主たる生計維持者であるか否か」だけが考慮要素であり、そうであるなら長期勤続する扶養親族持ちの有期労働者に支給しないことに合理性を見出すことはできない。
したがって、今後は、原告らが請求する労働条件ごとに関連のある考慮要素を抽出し、原告らそれぞれにつき、正社員との格差処遇が不合理であることを主張・立証すること、これが現局面における原告ら及び弁護団の課題となっている。
◆ 「チャンピオン」訴訟
本件訴訟は、東西合わせて12名の労働条件をめぐる争いであるが、その勝敗の結果が20万人近い郵政非正規労働者全体に波及することは明らかである。つまり、本件訴訟は「チャンピオン」訴訟であって、原告団及び弁護団に課せられた責任は重大である。
ところが、労契法20条の法文は、パート労働法9条(旧8条)のような「差別的取扱いをしてはならない」ではなく、「不合理と認められるものであってはならない」とトーンダウンした規定ぶりになっており、裁判官の裁量によって結論が左右されそうな気配である。
弁護団としては、裁判官の良心を労側に引っぱっていきたいと考えている。
『労働情報 912号』(2015/6/1)
◆ 労契法20条西日本訴訟の意義 (労働情報)
森博行・弁護士(のぞみ共同法律事務所)
2013年4月1日、「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」を謳う労働契約法20条が施行された。本条を武器にすれば、有期雇用=非正規労働者に対する格差処遇を一定限度ではあっても是正することができるハズである。しかし、そのためには労基署に行ってもダメで、雇い主である会社を相手に訴訟を提起し、法廷で争わなければならない。
そして、ようやく1年が経過して、メトロコマース、ハマキョウレックスで非正規労働者が起ち上がり、次いで、14年5月の連休明けには、東日本の郵政非正規労働者3名が日本郵便相手に東京地裁に提訴した。
これを受け、西日本でも提訴者を募ったところ、なんと9名が名乗りを上げ、弁護団もマン・ツー・マン体制で9名の弁護士を募って結団した。
依頼者である郵政ユニオンからは6月中に提訴して欲しいとのことであったので、東日本訴訟が敷設したレールに乗りかかって、14年6月30日、大阪地裁になんとか提訴することができた。
訴状の総頁数は130頁に及んでいたが、9名の個別事情で大半が埋まっており、総論部分は文字どおり東日本訴訟に「おんぶにだっこ」であった。
◆ 丁々発止のロ頭弁論
2014年10月1日、第1回口頭弁論。関西で郵政相手に裁判をすると、必ず中之島中央法律事務所の弁護士が会社側代理人に就くのであるが、こと20条裁判に関しては、東日本訴訟の会社側代理人と同じ東京の弁護士数名が出張ってきた。
当日は、原告団を代表して3名が意見陳述を行い、弁護団を代表して私が簡単に意見を述べ、期日を終えた。
同年12月15日、第2回口頭弁論。会社側より被告第1準備書面陳述。当方は、社員給与規程が改訂されたことに伴う訴え変更申立書を陳述した。
15年2月9日、第3回口頭弁論。当方より原告第1準備書面陳述。裁判所より、請求対象である労働条件ごとに合理性・不合理性に関する双方の主張を一覧化する対照表の書式が提示され、これに対し当方より、9名いる原告の個別事情を同表にいかに反映させるべきか、その位置付けについて次回までに検討することを約束する。
同年4月20日、第4回口頭弁論。会社側より被告第2準備書面陳述。当方より、各原告の個別事情の位置付けに関する準備書面陳述。次回を6月16日進行協議期日と取り決めて、期日終了。
◆ 格差に理由はあるか
西日本訴訟で原告らが格差是正を求めている労働条件は、東日本訴訟のそれとほぼ同じである。すなわち、給与については基本給を除く諸手当(外務業務手当、業務精通手当、年末年始勤務手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期・年末手当、住居手当、扶養手当)、休暇については、夏期・冬期休暇と病気休暇である。
労契法20条は、処遇格差の不合理性判断の考慮要素として、①責任の程度を含む職務内容、②職務内容や配置の変更の範囲、③その他の事情を挙げているので、訴訟の初期段階では、同じ集配労働に従事する原告らと正社員とで、これらの考慮要素にほとんど差異はないことを詳しく論じた。
これに対し会社側は、①②のほか、③その他の考慮要素として、採用手続、人事評価制度、人材育成・研修制度、営業活動の評価・処遇への反映等があると主張し、正社員との差異を強調した。
しかしながら、不合理であるか否かは、相違のある個々の労働条件ごとに判断しなければならないのであり、その際の考慮要素についても、問題となる労働条件の給付の趣旨・目的・性格と関連するものを取り上げればよく、考慮要素のすべてについて判断する必要はない。
たとえば、外務業務手当や業務精通手当は、①の職務内容と関連する給付であるが、住居手当は、②の配置転換(転勤)とは関連があるが①とは無関係であり、扶養手当に至っては①とも②とも関連性がなく、「長期勤続する主たる生計維持者であるか否か」だけが考慮要素であり、そうであるなら長期勤続する扶養親族持ちの有期労働者に支給しないことに合理性を見出すことはできない。
したがって、今後は、原告らが請求する労働条件ごとに関連のある考慮要素を抽出し、原告らそれぞれにつき、正社員との格差処遇が不合理であることを主張・立証すること、これが現局面における原告ら及び弁護団の課題となっている。
◆ 「チャンピオン」訴訟
本件訴訟は、東西合わせて12名の労働条件をめぐる争いであるが、その勝敗の結果が20万人近い郵政非正規労働者全体に波及することは明らかである。つまり、本件訴訟は「チャンピオン」訴訟であって、原告団及び弁護団に課せられた責任は重大である。
ところが、労契法20条の法文は、パート労働法9条(旧8条)のような「差別的取扱いをしてはならない」ではなく、「不合理と認められるものであってはならない」とトーンダウンした規定ぶりになっており、裁判官の裁量によって結論が左右されそうな気配である。
弁護団としては、裁判官の良心を労側に引っぱっていきたいと考えている。
『労働情報 912号』(2015/6/1)
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