◆ 訴訟に踏み切った中国人実習生 (労働情報)
2016年10月25日、「外国入の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」と入管法改正案が衆議院本会議で可決された。
同法案は、合計3年を上限とする技能実習生受入れ制度を最大5年までに延長することを可能としつつ、これに対する批判をかわすために、一定の「適正化」策を盛り込んでいる。
しかし、この「適正化」策は、
(ア)制度の目的と実態とが乖離していること、
(イ)技能実習生の職場を移動する自由が保障されていないこと、
(ウ)外国からの受入れの過程で生ずる権利侵害と中間搾取という制度の根本的な弊害を是正するものではないこと
から、実効性は期待できない。
現在、これらの2法案は参議院で審議されているが、11月中に成立する見通しである(注:平成28年11月28日公布)。法案が成立すれば、厚生労働省は、技能実習2号以降対象職種に介護を加える予定である。
職場を移動する自由がなく、どんなに過酷で違法な労働であっても、黙って文句を言わずに働かざるを得ない技能実習生が介護の労働現場に投入されるのである。
技能実習生適正化法は、技能実習制度の初めての基本法である。初めての基本法で「適正化」を打ち出さなければならないところに、この制度の根本的な問題が現れている。この適正化の効果の検証もすることなく、制度を拡大するのである。
モノが言えない安価な労働力の確保は、安倍政権の待ったなしの課題なのだろう。
一方、安倍政権は、「働き方改革実現会議」で外国人労働者受け入れの方向を打ち出している。外国人労働者を受け入れるなら、外国人労働者の権利を守ることのできる制度を作るべきである。
技能実習生のような、モノが言えない奴隷的労働者の受け入れ制度を作ってはならない。
外国人労働者の適正な賃金・労働条件が確保され、また、労働基本権を行使して闘うことができる制度でなければならない。そういう制度ができれば、技能実習制度はたちまちに崩壊するであろう。
◆ 協同組合つばさ事件
2009年に入管法が改正され、研修・技能実習制度が研修制度と技能実習制度に分離され、制度改革がなされたが、その後も、技能実習生の人権侵害は続いており、技能実習生がモノを言えない奴隷的労働者であるという状況は続いている。
ここでは、現在、水戸地裁で係争中の協同組合つばさ事件を紹介する。
本件は、2013年9月13日に来日し、茨城県守谷市所在の協同組合つばさを監理団体、同県行方市内の大葉(シソ)生産農家を実習実施機関として受け入れられた中国人技能実習生の女性が、夜間の残業は「内職」であるとして時給換算で約300円しか支給されず、また、実習実施機関においてセクハラ被害に遭ったとして、未払い残業代及び慰謝料を請求している事案である。
実習生は、来日後、8時~16時までの間、大葉の収穫作業に従事したのち、17時から深夜まで(しばしば深夜2~3時までに及んだという)、収穫した大葉を出荷用に10枚1束に輪ゴムで束ねる作業(「大葉巻き」と呼ばれていた)に従事させられた。
この大葉巻きの作業は、残業ではなく「内職」として10束2円という支払基準であったが、1時間に多くても150束程度しか作業できず、時給換算とすると300円程度にしかならなかった。休日も年に10日程度しかなかったという。
また、実習生は、農家方に居住していたが(大葉の収穫・出荷のための施設と居住施設は一体であった)、受入れ農家の父親から、胸や尻を触られる、父親が性器を露出して歩き回る等のセクハラ被害に日常的にさらされていた。
これは、実習生が何度も拒絶し、抗議しても改まることがなく、むしろ、服の上から父親が口を実習生の胸に押し付ける、父親が実習生の入浴中に入ろうとする等、エスカレートの一途を辿った。
実習生は、来日時に送出し機関に手数料や出国費用等で5万元と保証金1万元を支払い、実父を保証人として違約金の約束もさせられていた。
農家とトラブルになれば、実父に迷惑をかけると考え前記処遇に耐えていたが、セクハラがエスカレートしたため、協同組合の職員に被害を訴えたのである。
協同組合つばさの実質的な経営者であるYは、2014年11月30日、送出し機関の職員を伴って実習生方を訪れ、実習生を部屋から協同組合の事務所へ連れ出したうえ残業代やセクハラの問題を抑え込もうとして、10時間以上に亘り恫喝を繰り返した。
それ以降も実習生が納得しなかったことから、協同組合は、12月5日、実習生を協同組合の古い事務所へ連れて行き、他の就労先で働かせたり(とばし)、2015年1月17日には協同組合が所有する水戸市内のアパートに移動させる等して以後放置した。
同アパートには暖房設備はおろかガス・シャワーもなく、実習生としては、劣悪な住環境に放置しておくことで、自分が諦めるのを待っているのではないかと感じたという。
2015年6月25日、実習生は、協同組合つばさ、農家、セクハラをした農家の父親に対する、地位確認と賃金請求及び損害賠償を求める訴訟を水戸地裁に提起した。同事件は現在も審理が続いている。なお、被告の代理人には参議院議員(自民党)である丸山和也弁護士がついている。
原告の弁護団は、私を含めて5名である。
これ以上、本件のようにセクハラにあってもモノが言えないような外国人労働者の受け入れを繰り返すべきではない。技能実習制度を直ちに廃止し、モノが言える、団結して闘うことのできる外国人労働者の受入れ制度を作るべきだ。
『労働情報 947号』(2016/11/15)
指宿昭一・外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表/弁護士
2016年10月25日、「外国入の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」と入管法改正案が衆議院本会議で可決された。
同法案は、合計3年を上限とする技能実習生受入れ制度を最大5年までに延長することを可能としつつ、これに対する批判をかわすために、一定の「適正化」策を盛り込んでいる。
しかし、この「適正化」策は、
(ア)制度の目的と実態とが乖離していること、
(イ)技能実習生の職場を移動する自由が保障されていないこと、
(ウ)外国からの受入れの過程で生ずる権利侵害と中間搾取という制度の根本的な弊害を是正するものではないこと
から、実効性は期待できない。
現在、これらの2法案は参議院で審議されているが、11月中に成立する見通しである(注:平成28年11月28日公布)。法案が成立すれば、厚生労働省は、技能実習2号以降対象職種に介護を加える予定である。
職場を移動する自由がなく、どんなに過酷で違法な労働であっても、黙って文句を言わずに働かざるを得ない技能実習生が介護の労働現場に投入されるのである。
技能実習生適正化法は、技能実習制度の初めての基本法である。初めての基本法で「適正化」を打ち出さなければならないところに、この制度の根本的な問題が現れている。この適正化の効果の検証もすることなく、制度を拡大するのである。
モノが言えない安価な労働力の確保は、安倍政権の待ったなしの課題なのだろう。
一方、安倍政権は、「働き方改革実現会議」で外国人労働者受け入れの方向を打ち出している。外国人労働者を受け入れるなら、外国人労働者の権利を守ることのできる制度を作るべきである。
技能実習生のような、モノが言えない奴隷的労働者の受け入れ制度を作ってはならない。
外国人労働者の適正な賃金・労働条件が確保され、また、労働基本権を行使して闘うことができる制度でなければならない。そういう制度ができれば、技能実習制度はたちまちに崩壊するであろう。
◆ 協同組合つばさ事件
2009年に入管法が改正され、研修・技能実習制度が研修制度と技能実習制度に分離され、制度改革がなされたが、その後も、技能実習生の人権侵害は続いており、技能実習生がモノを言えない奴隷的労働者であるという状況は続いている。
ここでは、現在、水戸地裁で係争中の協同組合つばさ事件を紹介する。
本件は、2013年9月13日に来日し、茨城県守谷市所在の協同組合つばさを監理団体、同県行方市内の大葉(シソ)生産農家を実習実施機関として受け入れられた中国人技能実習生の女性が、夜間の残業は「内職」であるとして時給換算で約300円しか支給されず、また、実習実施機関においてセクハラ被害に遭ったとして、未払い残業代及び慰謝料を請求している事案である。
実習生は、来日後、8時~16時までの間、大葉の収穫作業に従事したのち、17時から深夜まで(しばしば深夜2~3時までに及んだという)、収穫した大葉を出荷用に10枚1束に輪ゴムで束ねる作業(「大葉巻き」と呼ばれていた)に従事させられた。
この大葉巻きの作業は、残業ではなく「内職」として10束2円という支払基準であったが、1時間に多くても150束程度しか作業できず、時給換算とすると300円程度にしかならなかった。休日も年に10日程度しかなかったという。
また、実習生は、農家方に居住していたが(大葉の収穫・出荷のための施設と居住施設は一体であった)、受入れ農家の父親から、胸や尻を触られる、父親が性器を露出して歩き回る等のセクハラ被害に日常的にさらされていた。
これは、実習生が何度も拒絶し、抗議しても改まることがなく、むしろ、服の上から父親が口を実習生の胸に押し付ける、父親が実習生の入浴中に入ろうとする等、エスカレートの一途を辿った。
実習生は、来日時に送出し機関に手数料や出国費用等で5万元と保証金1万元を支払い、実父を保証人として違約金の約束もさせられていた。
農家とトラブルになれば、実父に迷惑をかけると考え前記処遇に耐えていたが、セクハラがエスカレートしたため、協同組合の職員に被害を訴えたのである。
協同組合つばさの実質的な経営者であるYは、2014年11月30日、送出し機関の職員を伴って実習生方を訪れ、実習生を部屋から協同組合の事務所へ連れ出したうえ残業代やセクハラの問題を抑え込もうとして、10時間以上に亘り恫喝を繰り返した。
それ以降も実習生が納得しなかったことから、協同組合は、12月5日、実習生を協同組合の古い事務所へ連れて行き、他の就労先で働かせたり(とばし)、2015年1月17日には協同組合が所有する水戸市内のアパートに移動させる等して以後放置した。
同アパートには暖房設備はおろかガス・シャワーもなく、実習生としては、劣悪な住環境に放置しておくことで、自分が諦めるのを待っているのではないかと感じたという。
2015年6月25日、実習生は、協同組合つばさ、農家、セクハラをした農家の父親に対する、地位確認と賃金請求及び損害賠償を求める訴訟を水戸地裁に提起した。同事件は現在も審理が続いている。なお、被告の代理人には参議院議員(自民党)である丸山和也弁護士がついている。
原告の弁護団は、私を含めて5名である。
これ以上、本件のようにセクハラにあってもモノが言えないような外国人労働者の受け入れを繰り返すべきではない。技能実習制度を直ちに廃止し、モノが言える、団結して闘うことのできる外国人労働者の受入れ制度を作るべきだ。
『労働情報 947号』(2016/11/15)
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