《月刊救援から》
◆ 戦争と原発-ロシア軍のウクライナ侵攻をめぐって
山本義隆
新聞では、プーチン指揮するロシア軍のウクライナ軍事侵攻について、連日大きく報道されています。
ウクライナの市民の生命と生活が危機にさらされ、家屋が破壊され財産に多大な被害がもたらされていることを詳細に報道し、言うならば人道的観点からロシアの軍事行動を厳しく批判しています。
プーチンからしてみれば、対ロシアの軍事同盟であるNATO(北太西洋条約機構)の拡大が認められなかったのでしょうが、しかし軍事大国が小国に軍隊をさしむけ軍事侵攻すること、そして市民に被害がもたらされることは、もちろん許し難いことであると考えております。
日本やヨーロッパにおいて市民から挙げられている戦争反対の表明、プーチン・ロシアの軍事行動糾弾については、強く支持したいと思っています。いずれにせよ、一刻もはやく止めさせなければなりません。
しかしそのことは、かつて二〇〇三年に、ブッシュ米大統領とブレア英首相ひきいる米英有志連合軍が大量破壊兵器保有をしているとのデマにもとづいてイラクを攻撃した、イラク戦争にたいしても当然あてはまらなければならないでしょう。
今回のプーチンの軍隊によるウクライナ侵攻が主権国家にたいする軍事侵略であるならば、かつてのブッシュとブレアの軍隊のバグダード空爆で始まったイラク侵攻も、主権国家にたいする軍事侵略なのです。そしてその時も、イラクの市民に多大な被害をもたらしました。
実際、四〇日あまりの戦争で一〇万人をこえるイラクの人たちが死亡したと推定されています。
しかし今回のウクライナ報道にくらべて、イラク戦争当時のマスコミの報道の構えや視点はだいぶ違っていたし、そもそも市民にたいする報道の熱意にも随分落差があったように思われます。
攻撃した一方はロシア、他方は米英、攻撃された一方はヨーロッパのキリスト教徒の国、他方はアジアのイスラム教徒の国、という違いであったのか、というような見方は穿ちすぎでしょうか。
いずれにせよ、差があったのは歴然たる事実です。
反戦思想の立場から侵略反対を語り、人道主義の立場から市民への攻撃を批判するのであるならば、そのような差があってはならないはずでしょう。
ここで私が何をさておいても言いたいことは、今回の戦争で、ウクライナ国内の原子力発電所(以下、原発)がロシア軍の軍事行動の対象になり、攻撃目標のひとつになっていることです。
それは私がもっとも衝撃を受けたことであり、もっとも憂慮していることです。
ちなみにウクライナには、かつてソ連時代に大事故を起こした一基を含む四基のすでに稼働していないチェルノブイリ原発以外に、現在一三基の原発が稼働し、さらに四基が建設中だそうです。
人口が約四千五百万人であることを考えると、結構な原発密度です。
今回、ロシア軍の攻撃対象とされたザポロジエ原発は出力一〇〇万キロワット六基からなりウクライナ最大の原発です。
そのことは、そこで万一のことがあればヨーロッパ全域に影響が及ぶことを意味します。
三月五日の『東京新聞』一面トップの見出しには「ロシア軍原発攻撃、占拠」とあり、リードに「ウクライナを侵攻したロシア軍は四日、南部にある欧州最大級のサポロジエ原発を攻撃し、占拠した。砲撃で一時火災が発生、ウクライナの原子力当局は原子炉の安全性には問題はなく、周囲の放射線量の変化もないとしているが、稼働中の原発に対する史上初の軍事攻撃は大惨事を招く恐れがあった」と始まっています。
そして同紙二八面の「こちら特報部」には「ウクライナ侵攻原発やっぱり狙われた」とあって、私たち10・8山崎博昭プロジェクトの発起人の一人である水戸喜世子さんの「心配していたことが現実になって寒気がする」という談話が載せられています。
(以上は冒頭の部分であって、全文は、「山崎プロジエクト」のウェブサイトに掲載されています。 山中幸男)
https://yamazakiproject.com/from_secretariat/2022/03/12/6194
『月刊救援 636号』(2022年4月10日)
◆ 戦争と原発-ロシア軍のウクライナ侵攻をめぐって
山本義隆
新聞では、プーチン指揮するロシア軍のウクライナ軍事侵攻について、連日大きく報道されています。
ウクライナの市民の生命と生活が危機にさらされ、家屋が破壊され財産に多大な被害がもたらされていることを詳細に報道し、言うならば人道的観点からロシアの軍事行動を厳しく批判しています。
プーチンからしてみれば、対ロシアの軍事同盟であるNATO(北太西洋条約機構)の拡大が認められなかったのでしょうが、しかし軍事大国が小国に軍隊をさしむけ軍事侵攻すること、そして市民に被害がもたらされることは、もちろん許し難いことであると考えております。
日本やヨーロッパにおいて市民から挙げられている戦争反対の表明、プーチン・ロシアの軍事行動糾弾については、強く支持したいと思っています。いずれにせよ、一刻もはやく止めさせなければなりません。
しかしそのことは、かつて二〇〇三年に、ブッシュ米大統領とブレア英首相ひきいる米英有志連合軍が大量破壊兵器保有をしているとのデマにもとづいてイラクを攻撃した、イラク戦争にたいしても当然あてはまらなければならないでしょう。
今回のプーチンの軍隊によるウクライナ侵攻が主権国家にたいする軍事侵略であるならば、かつてのブッシュとブレアの軍隊のバグダード空爆で始まったイラク侵攻も、主権国家にたいする軍事侵略なのです。そしてその時も、イラクの市民に多大な被害をもたらしました。
実際、四〇日あまりの戦争で一〇万人をこえるイラクの人たちが死亡したと推定されています。
しかし今回のウクライナ報道にくらべて、イラク戦争当時のマスコミの報道の構えや視点はだいぶ違っていたし、そもそも市民にたいする報道の熱意にも随分落差があったように思われます。
攻撃した一方はロシア、他方は米英、攻撃された一方はヨーロッパのキリスト教徒の国、他方はアジアのイスラム教徒の国、という違いであったのか、というような見方は穿ちすぎでしょうか。
いずれにせよ、差があったのは歴然たる事実です。
反戦思想の立場から侵略反対を語り、人道主義の立場から市民への攻撃を批判するのであるならば、そのような差があってはならないはずでしょう。
ここで私が何をさておいても言いたいことは、今回の戦争で、ウクライナ国内の原子力発電所(以下、原発)がロシア軍の軍事行動の対象になり、攻撃目標のひとつになっていることです。
それは私がもっとも衝撃を受けたことであり、もっとも憂慮していることです。
ちなみにウクライナには、かつてソ連時代に大事故を起こした一基を含む四基のすでに稼働していないチェルノブイリ原発以外に、現在一三基の原発が稼働し、さらに四基が建設中だそうです。
人口が約四千五百万人であることを考えると、結構な原発密度です。
今回、ロシア軍の攻撃対象とされたザポロジエ原発は出力一〇〇万キロワット六基からなりウクライナ最大の原発です。
そのことは、そこで万一のことがあればヨーロッパ全域に影響が及ぶことを意味します。
三月五日の『東京新聞』一面トップの見出しには「ロシア軍原発攻撃、占拠」とあり、リードに「ウクライナを侵攻したロシア軍は四日、南部にある欧州最大級のサポロジエ原発を攻撃し、占拠した。砲撃で一時火災が発生、ウクライナの原子力当局は原子炉の安全性には問題はなく、周囲の放射線量の変化もないとしているが、稼働中の原発に対する史上初の軍事攻撃は大惨事を招く恐れがあった」と始まっています。
そして同紙二八面の「こちら特報部」には「ウクライナ侵攻原発やっぱり狙われた」とあって、私たち10・8山崎博昭プロジェクトの発起人の一人である水戸喜世子さんの「心配していたことが現実になって寒気がする」という談話が載せられています。
(以上は冒頭の部分であって、全文は、「山崎プロジエクト」のウェブサイトに掲載されています。 山中幸男)
https://yamazakiproject.com/from_secretariat/2022/03/12/6194
『月刊救援 636号』(2022年4月10日)
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