《子どもと教科書全国ネット21ニュースから》
★ 憲法審査会の現状と任期延長改憲の危険な本質
大江京子弁護士(おおえきょうこ/改憲問題対策法律家6団体連絡会事務局長)
★ 任期延長改憲をめぐる攻防
2023年の通常国会の衆議院憲法審査会では、自民、公明、維新、国民民主、有志の会の5会派が足並みをそろえて、国会議員の任期延長改憲が必要であるなどと強行に主張しています。
2023年3月30日に、維新・国民・有志の会が3党派合同の条文案を発表し、改憲5会派の間では、改憲の内容についても意見がほぼ一致しています。
改憲5会派の主張する国会議員の任期延長改憲とは
①国家有事・武力攻撃事態
②大規模自然災害事態
③テロ・内乱事態
④感染症まん延事態
⑤その他これらに匹敵する事態において、
全国の広範な地域で長期間にわたり選挙実施が困難な場合(選挙困難事態)には、内閣の判断により、半年又は1年(再延長の場合にはそれ以上)、国会議員の任期延長を認める改憲のこと
★ 岸田首相の改憲目指す発言と条文起草機関設置の提案
岸田首相は、自分の任期中に改憲をやり遂げると国会で繰り返し発言しています。憲法審査会で明文改憲の議論がなされていることを評価し、その動きを一層早めるべきなどと発言しています。
憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負う首相が、主権者そっちのけで、改憲を目指せと発言すること自体が明白な憲法違反です。
2023年国会で、自民党の中谷元与党筆頭幹事が、議員任期延長改憲について、「改憲条文をつくる起草機関を設置すること」を提案しました。
★ なぜ任期延長改憲なのか一憲法9条改憲との関係
2022年12月16日、岸田政権は、憲法9条のもと専守防衛に徹するとしてきた安全保障政策を大転換して敵基地攻撃兵器を保有する、軍事費をGDP2%に拡大する、南西諸島、先島諸島を対中国戦争を見据えて軍事要塞化するなどを内容とする安保3文書改定の閣議決定を行いました。
しかし、安保法制(戦争法)と安保3文書の改定だけでは、「戦争する国」として未完成です。
最大の障害物である憲法9条2項を無効化することこそが、改憲派、とりわけ自民党の真の狙いです。
ただ、9条明文改憲については、改憲5会派の足並みが完全にはそろっていないため、新型コロナ感染症やウクライナ侵攻など国民の不安要素に乗じて、改憲の機運を逃すまいと議員の任期延長改憲が急浮上しました。
2021年、2022年の憲法審査会では、コロナが蔓延したらどうするんだ、大震災が来たらどうするんだ、戦争になったらどうするんだという発言が、衆議院憲法審査会の中で飛び交い、国会議員の任期満了時に、緊急事態が起きて選挙ができないと国会議員がいなくなってしまう。
だから任期を延長改憲が必要だと、国民、維新、公明、自民他改憲推進5会派が束になって、立憲野党に襲い掛かりました。自民党に合流したい国民民主党や第2自民党を目指す維新の会が、立憲民主党をたたいて「改憲」を主張すれば国民に受けて選挙に有利となると勘違いしており、自民党も本命は9条改憲であっても、とりあえず改憲が出来ればこしたことがないということで5会派の利害が一致したわけです。
★ 2024年衆議院憲法調査会の動向
改憲5会派は議員数で3分の2を優に超えており、数の力で強引に改憲発議まで持ち込む危険性が増していました。2024年になって、改憲5会派は
「議員任期延長改憲についての議論は熟した」
「直ちに条文起草作業にはいるべき」
と口を揃えて主張しています。
立憲民主党は、改憲の議論が非常に安易であると批判し、この流れを押し返す努力を続けています。
4月25日、逢坂誠二野党筆頭幹事は、
「l993年7月12日午後10時17分、北海道南西沖地震が発生しました。震源地は北海道奥尻島北方沖の日本海海底。M7.8。震源に近い奥尻島の揺れは震度6と推定されました。(中略)火災や津波で死者行方不明者230名の大きな被害となりました。当時の奥尻町の人口は4700人。この町で200名以上も死者行方不明となったのですから、いかに大きな被害であったかがわかります。この時期7月4日公示7月18日投票の第40回衆議院議員選挙の真っ最中でした。奥尻町は地震の被害で大変な状況の中でしたが、結局は予定通り選挙を実施しました。
現在、憲法審査会では大規模災害時等に衆議院の任期を延長すべきという議論がでています。私はこの議論は非常に安易だと思っています。本当に選挙ができないケースがあるのかどうか、災害に強い選挙の在り方はないのかなどの議論工夫が十分にされているようには見えません。」
逢坂委員の意見は全く正当です。国会議員の任期延長とは裏を返せば民主制の基礎である国民の選挙権の停止ですから、国会は国民の選挙権を十分に保障するために、先にやるべき議論があるのです。
また、4月18日、立憲民主党の本庄知史委員は、
「国会機能維持、そのための議員任期の延長について、確かに議論は盛んですが、肝腎の立法事実について、認識が共有されているとは思えません。」
「選挙の実施が全国の広範な地域で困難であり、かつそれが相当程度長期間に及ぶ場合と述べておられますが、それは一体どういう状況でしょうか。」
と迫りました。本庄委員が指摘する通り、改憲派は、任期満了の際にもし東日本大震災級の地震が来れば選挙ができなくなる、だから半年か1年又はそれ以上、国会議員の任期を延長する必要があると繰り返すだけで、選挙困難事態とはいかなる場合かについて、具体的には何も説明していないのです。
災害等で投票が困難な地域は繰延投票制度(公職選挙法57条)を利用することが可能です。
★ 国会議員の任期延長改憲の危険な本質「戦争するための改憲」
先ず押さえておくことは、任期延長改憲は、必要がないということです。憲法は参議院の半数改選を定めており(憲法46条)、いつの場合も国会議員がいなくなることはありません。
衆議院が解散されるなどして衆議院議員がいないときに緊急の必要があれば、参議院の緊急集会が国会機能を代行します(憲法54条2項)。(詳しくは改憲問題対策法律家6団体連絡会と市民アクションが発行したブックレット「国会議員の任期延長改憲その危険な本質」をご参照ください。1部100円。ご注文は日本民主法律家協会TELO3-5367-5430)。
次に、忘れてならないことは、任期延長改憲が単なるお試し改憲ではなく戦争するための改憲ということです。
第1に、憲法に戦争が書き込まれるということです。憲法の平和主義の原理を明文改憲によって切り崩す大きな一歩となります。
第2に、内閣の判断で国民の選挙権を停止できる改憲ということです。国民主権の形骸化であり、民主政治の根幹を揺るがす明文改憲という本質を持ちます。
我が国では、1941年2月に、法律を改正して、1年間選挙を延期しました。その間に、思想犯の弾圧を徹底的に強化する治安維持法等の改正を行い反戦論を徹底的に封じて、1941年12月にあの無謀な太平洋戦争に突入したのです。
今、議論されている国会議員の任期延長も、大震災などの自然災害がなにかと口実にされますが、実は、戦争できる国づくりの一環という本質を持った改憲なのです。戦前の過ちを再び繰り返すわけにはいきません。
国会議員の任期延長改憲を認めれば、次は、戦争できる国づくりの最終段階の9条の改憲が来ることは眼に見えています。戦争するための改憲をストップしなければなりません。
そのためには、圧倒的多数の市民が、戦争反対、戦争するための改憲反対の声をあげることが不可欠です。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース』156号(2024年6月)
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