《月刊救援から》
☆ 国際自由権委員会が日本政府に人権勧告
前田朗(東京造形大学)
☆ 死刑廃止
一一月三日、国際自由権委員会の日本政府に対する勧告(CCPR/C/JPN/CO/7)が公表された。二〇一八年に続く七度目の勧告である。
一〇月一三・一四日にジュネーヴの国連人権高等弁務官事務所で国際人権規約(市民的政治的権利に関する国際規約)に基づく自由権委員会が日本報告書審査を行い、勧告を採択した。
第一に、憲法と法律が国際人権規約に合致していないと指摘し、裁判官、検察官、弁護士、法執行官等に国際人権法の研修を行うよう勧告した。
委員会は、人権侵害の被害者が自由権委員会に通報できるように、国際人権規約第一選択議定書を批准するよう求めた。
第二に、独立した国内人権機関の設置である。いわゆる先進国には専門の国内人権機関があるが日本にはない。
委員会はさらに
差別禁止法の制定、
ヘイト・クライムの法的定義、
ヘイト・スピーチの刑事規制、
ジェンダー平等、
マイノリティ女性の権利保護、女性に対する暴力(DV問題教育、被害者救済、統計情報整備等)、
フクシマ原発事故問題(放射線リスクの逓減、国内避難民の保護・救済、子ども被曝問題)、
日本軍「慰安婦」問題の解決(被害者救済、被害者への中傷の防止)、
難民制度(難民認定法の制定、移住者への虐待予防措麗、ノン・ルフールマン原則、行政拘禁の代替策等)、
プライヴァシーの権利、思想・宗教・表現の自由(特定秘密保護法の厳格解釈、メディアにおける多様性、ジャーナリストの独立性等)、
平穏な集会の権利(法執行官の実力行使の規制)、
外国人差別問題(収容センターの保健条件改善、虐待防止、長期収容防止)、
マイノリティの権利(アイヌ・琉球の先住民族の権利、在日朝鮮人への支援措置等)
をはじめ多数の勧告を出した。
刑事人権領域では、まず死刑廃止である。
委員会は、日本が死刑廃止の措置を取らず、死刑適用犯罪の数を減らす意思もないことを遺憾に思うとした。
一九ある死刑適用犯罪の一部は、死刑を「もっとも重大な犯罪」に限定している自由権規約に合致しないとした。
また死刑囚が長期にわたる独居拘禁状態にあり執行まで四〇年の長期収容例があり、二四時間ビデオ監視が実施されていること、死刑囚及び家族への執行期日事前告知を日本が否定していること、再審請求中に死刑執行された事例に深い関心を表明した。
委員会は次のように勧告した。
第一に、死刑廃止を検討し、廃止の必要性を公衆に周知すること、廃止までの間、執行猶予を確立し、優先事項として死刑数を減らすこと。
第二に、死刑監房が残虐な刑罰とならないよう執行期日を死刑囚に告知し、心理的苦痛を逓減すること。厳正独居を課さないこと。
第三に、死刑事件につき再審や恩赦の請求を行う効果的な制度を用意すること。再審請求に関して死刑囚と弁護人の接見を保障すること。
第四に、死刑廃止条約への加入を検討すること。
☆ 自由を奪われた者
続いて自由を奪われた者の処遇である。
委員会は、精神医療機関における病院収容の増加、及び医療機関における虐待の予防が不十分であることに関心を示した。そこで委員会は次のように勧告した。
第一に、精神障がいを有する者のためのコミュニテイペースの施設を用意する努力を続けること。
第二に、強制入院が最終手段としてのみ、必要な最短期で、保護の目的に必要かつ均衡の取れた範囲で行われるようにすること。
第三に、法的援助等の援助など安全保護を確保し、自由で、情報を知らされたとの同意の権利を保護すること。
第四に、精神医療機関における障がいを有する者に対する虐待を監視、予防、根絶する努力を強化すること。
第五に、医療サービス提供者による虐待を捜査し、制裁を科すこと。被害者と家族に完全な補償を提供すること。
さらに刑事施設収容である。委員会は、保釈の権利が認められていないこと、日本政府が起訴前保釈は必要ないと述べたことに関心を表明した。
起訴前拘禁が長期収容であり、取調べ時間に上限が設けられず、取調べ状況の録画が義務的でないことに関心を表明した。
委員会は拘禁条件、特に厳正独居拘禁の利用、被収容者に適切な医療が提供されないこと、弁護人と相談する手続的保障が否定され、選挙投票権も奪われていることに関心を表明した。
そこで委員会は次のように勧告した。
被逮捕・勾留者が自由権規約第九条及び第一四条の甚本的な法的保護を受けられ、国連被陶禁者処遇最低基準(マンデラ・ルールズ)に完全に合致し、弁護人へのアクセス、家族との面会、必要な医療を保障されるように措置をとるべきである。
第一に、逮捕前を含む取調べを完全に録画し、すべての刑事事件で取調ぺ録画を採用すること。
第二に、起訴前拘禁の所定期間を尊重して過剰な拘禁を防止すること。
第三に、厳正独居の期間を見直し、厳正独居の影響を定期的に評定し、必要な場合に代替収容を設けること。
第四に、不服申立てメカニズム、取調べにおける拷問・虐待の申立てについて独立した安全委員会による迅速公正な調査制度を設けること。
第五に、刑箏施設被収容者の投票権を否定する法律を改正すること。
『月刊救援』(2022年12月10日)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます