《「教育と個人情報保護を考える会」通信から》
☆ マイナ保険証押し付けるな!強制するな!
~変貌し続けるマイナンバー制度
中森圭子
☆ マイナ保険証をめぐる混乱
マイナ保険証をめぐる混乱が収まらない。様々な手段を講じてもマイナ保険証の利用率が伸びない政府の焦りがみえる。この混乱は2022年10月13日、河野デジタル大臣が「2024年秋に現在の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化する」と発表したことから始まっている。
マイナカードを持っていない人、取得できない人を置き去りにするもので国民皆保険制度の崩壊に繋がると反発が起きた。
政府は2023年3月末までにほぼ全住民にカードを保有させるとしていたが、2022年9月末時点では人ロ比約49%と過半数にも達していなかった。マイナポイント付与政策で一定の伸びを示したが、今のままでは達成できないと判断したのか「マイナンバーカードと保険証を一体化したマイナ保険証」を打ちだしてきた。河野デジタル大臣のマイナンバーカード普及への執念を感じる。
2023年6月2日に成立した番号法「改正」でマイナンバーの利用が3分野(税・社会保障・災害対策)以外の行政分野に拡大され、その提供は利用事務にまで広がり、マイナンバー制度制定時の基本理念は消え去った。
この「改正」で、マイナ保険証に一本化対策としてマイナカードを持っていない人に「資格確認書」を発行することが決まった。
しかしメディアは一斉に「保険証を廃止してカードー本化、事実上義務化」と報道。その後2023年12月22日に「2024年12月1日廃止」が閣議決定された。
保険証となるものが、
・「マイナ保険証」
・「資格確認書」
・「健康保険証と本人確認書類に機能を限定した暗証番号なし顔認証カード」
・「現行保険証(最大1年間有効)」
の4種にもなり実際に始まれば医療現場の混乱は必至だろう。
この閣議決定で多くの人がカードを持ってないと医療が受けられなくなると思ったのか、マイナカードを取得する人は増えたが、別人との誤登録や窓ロで読み込めないなどのトラブル発生で保険証とのひも付けを躊躇する人も多く、マイナ保険証の利用率はスタートから下り続け4.5%でしかなかった。
驚くことに国家公務員の利用率は23年11月分で4.36%、マイナ保険証を所管する厚労省でさえ4.88%で、一番低かったのが防衛省でなんと2.5%、推進側でさえ使うモチベーションが見当たらないということか、マイナ保険証は破綻している。
☆ なりふり構わない強引な普及策
政府にとっては伸び悩むマイナ保険証利用率をアップしようと露骨な政策を今年に入り次々打ち出してきた。
1月1日に発生した能登半島地震で河野デジタル大臣は被災状況がわからない段階から「薬の情報を医師と共有できる」「罹災証明書をオンラインで申請できる」からといってマイナカードを持って避難をするようにとTwitterで呼びかけた。
マイナカードを使うにはスマホでマイナポータルにログインしなければならず、被災地は停電や通信が不通になってるので使える状況ではなかったようだ。
代わりにJR東日本が無償提供したSuicaと読み取りカードリーダーが支援への大きな力となったという。
災害時には保険証もマイナカードがなくても受診できるとは医療関係者の言。
一刻も早く逃げなくてばいけない時にマイナカードを持って避難しろだなんて、この事態を利用してマイナカードの利便性を強調したかったのだろうが説得力のないお大臣仕事はやめてほしい。
救急搬送時に患者が通っている医療機関などの情報を得るために、救急隊がマイナ保険証を現場で読み取る実証実験が35都道府県の67の消防本部で5月から始まっている。
2019~23年のマイナポイント政策で2万円分のポイント付与のアメをばらまいたが、マイナカード保有数は思うようには伸びなかった。マイナ保険証は最後の砦なんだろう。
5月、今度は医療機関に「アメとムチ」政策で圧力をかけた。
ムチは、河野デジタル大臣がマイナ保険証を利用できない医療機関を「密告」せよと言ったこと。自民党国会議員にそういった病院を通報するように支援者に呼びかけるようにとの文書を配布している。
また厚労省はマイナ保険証の利用率が3%以下の医療機関には活用を催促するメールまで送りつけている。こんなみっともない政策を出して政治家としての矜持はないのか、呆れてしまう。
アメは、マイナ保険証の利用率を増やした病院には20万円、診療所や薬局には10万円を支給する。
しかし報奨を受ける条件として窓ロで患者にマイナ保険証の利用をすすめることが求められており、そのための台本(マイナ保険証促進トークスクリプト)まで配布されていた。
「12月から保険証では受診できなくなる」とか「次回はマイナ保険証持ってくるように」など、さもマイナ保険証は義務だと思わせるような声かけをしている。
一番ひどいのは保険証では薬を処方できないといい、マイナ保険証の利用登録をさせた事例。薬剤師を「デジタル推進委員」として動員までしている。
だがこんなに無理強いしても利用率は7.73%と低迷のまま。マイナポイント付与策に1兆円、今度は報奨金。税金のバラマキでしかない。
☆ 広がるマイナンバー制度
5月31日、マイナンバーカードの機能をスマートフォンに搭載できるようにする番号法の改悪を含む「デジタル社会形成基本法等の一部改悪法」が成立した。
アンドロイドは昨年5月から導入されていたが、iphoneも搭載することが30日、米アップル社と合意され、導入は来春という。
マイナカードだど使うたびにパスワードが必要だが、その必要がないので利便性が向上するし、何よりカード紛失の心配が軽減されると謳っているが、ではスマホを落としたらどうなるのか。
現代社会は利便性を追求しすぎて、何事も「便利」かどうかが基準になっている。わたしもスマホを便利に使っているし、手放しがたい道具の一つになっている。
それでもリスクを考えると情報は一極集中より分散するほうがいいと思う。「便利になる」に踊らされたくない。
マイナンバカード内臓の電子証明書を利用するワンカード化(保険証、免許証、社員証、図書カードなどとの一体化)も進められている。これで特定個人の追跡が可能となり今後一層監視社会化が加速される。
個人情報の分野を超えたマイナンバーの利用拡大は、警察・公安機関の捜査に恣意的に利用されたり経済安保法適正評価でマイナンバーが利用される懸念がある。
携帯電話の機種変更の本人確認において、マイナンバーカードを事実上義務化するとした報道もでている。
これまでも何人もの人からマイナカードがないので機種変更できなくて困っていると聞いた。携帯だけでは様々な手続きの際の本人確認をマイナンバーカードしか認めない流れがつくられており、自分を証明する手段がマインバーカードのみとなるのは大きな問題だ。
☆ 保険証廃止は法律で決まってなかった
「2024年12月1日で現行保険証廃止」ということが一人歩きしていたようだ。閤議決定で廃止は決まったことと思っていた。
だが、12月1日で廃止になるのは国保だけで昨年6月の番号法改悪で交付義務が削除されていたとのこと。
健康保険証廃止といわれたら、全ての保険証が対象だと思ってた。廃止には省令改正が必要で法律的には決まっていなかったのだ。
資格確認書の新設が規定されただけで、健康保険証発行終了は法的根拠がなかった。
はっきりしたのは厚労省が5月24日から開始した「健康保険法などの省令(施行規則)から、健康保険証を交付しなければならないとする規定を削除する意見募集(パブコメ)」だ。
番号いらないネットのメンバーが気が付かなければすっと通っていただろう。市民に広く広報せず、発行終了を決めてしまおうなんてひどい話だ。
多くの人々が12月には保険証が使えなくなると思い込まされていたのだ。
健保で保険証を廃止できない状況をつくれば、国保についても法改正させて保険証廃止を撤回させることに繋がると考えてパプコメを呼びかけた。どんな結果がでるだろうか。
政府の露骨な誘導策にも関わらず、24年5月末時点でマイナカードの保有率は約80%、少し増えたもののマイナンバーカードに対する不審・拒否感を持っている人々は少くない。
マイナカードもマイナ保険証もメリットを感じないし必要性がないと考える人がカード普及の歯止めになっている。
今年6月11日、マイナンバー法に基づいて報告されたマイナンバーの漏洩事案は334件もあった。また個人情報保護委員会は2023年度の企業や行政機関からの個人情報の漏洩件数が過去最多の1万3279件あったと公表した。
人為的なミスが多かったというが、これだけ個人情報の利活用が増えれば当然の結果でマイナンバー制度も同様、制度設計の問題だと思う。
また偽造マイナカードでスマホを乗っ取るという詐欺事件も起きている。マイナカードの偽造に技術や準備は不要で1枚5分で作れ、SNSで1~2万円で売買されているとのこと。
マイナ保険証は常時携帯しなければならない、落とした時のことを考えると怖くて持ち歩けない。
2024年6月6日現在、少なくとも146の地方議会が健康保険証の存続等を求める152件の意見書を可決し、国に提出している。
今年12月までに健康保険証の撤回を求める大きなうねりをつくりだしていきたい。そもそも「マイナカードの取得は任意であり、義務ではない」のだ。
「誰一人取り残さないぬくもりを生み出すデジタル化を目指す」政策は限界であり、混乱しかもたらしていない。生涯変わらない唯一無二の番号で管理・監視する番号制度は個人・プライバシーを守れない制度だ。
『教育と個人情報保護を考える会 NO.46』(2024年7月4日)
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