= 少子化を生み出す労働実態 =
厚生労働省は6月1日、人口動態統計月報年計(概数)の概況で合計特殊出生率1・25というショッキングな数字を発表した。その数字の持つ意味と、その使われ方について女性問題研究者の川島いずみさんに解き明かしてもらった。
人生選択はあくまで本人
女性問題研究者 川島いずみ
● 非難される女性生き方
日本人女性が一生に産む子どもの平均数を示す05年の合計特殊出生率が1・25と過去最低を更新した。
厚労省は早くも出生率がこのまま推移すると、先の改革で約束した「将来受けとれる厚生年金額は現役世代の平均手取り年収の50%」を割り込むと試算、危機感を煽っている。
「ひのえうま」の年を下回った90年の1・57ショック以来、「女性が働くようになって子どもを産まなくなった」、「個人主義がはびこり、家族の絆の大切さが薄れている」など、女性の生き方の模索を少子化の主因として非難する論調が強まった。
03年には「子どもを産み育てることを喜びとする社会をめざす」ことを盛り込んだ少子化対策基本法が施行された。
不妊治療への助成を強調する声や、出産奨励金や出産者表彰する自治体もあらわれ、産まない、産めない女性たちへの抑圧、かつての「産めよ殖やせよ」政策につながりかねない風潮が続いている。
同時に、次世代育成対策推進法が05年に施行、企業・自治体に「行動計画」づくりが求められ、育児休業の普及や職場・地域での保育所整備、子育てサポートセンターの設置などが進められてきた。
しかし、その結果が今回の出生率1・25である。おりしも政府は「国の最重点課題」(小泉首相)と位置づけて、少子化対策をまとめた。
そこには40項目もの対策が並んだが、歳出削減の方針の下、金のかかる政策は後回し、相変わらず不妊治療への助成だけは拡大した。
● 注目された女性働き方
ただ、今回注目されるのは、初めて「働き方の見直し」が柱の一つに据えられたことである。
同時に「家族の日」「家族の週間」の制定などが盛り込まれた。
性別役割分業に基づいた伝統的な家族観ではなく、夫婦がともに仕事と家族的生活を両立できる「働き方」への転換をようやく施策の柱に据えざるを得なくなる一方、「生命を継承していく尊さを感じ、家族が愛し合うことを大切な価値観とする」、「子育ての喜びを実感できることを通じて、家族機能や家族の絆を強める」など、伝統的家族観を強調するという矛盾した表現が混在している。
1970年代の自民党の「家庭基盤充実政策」、少子化社会対策基本法の考え方、自民党の新憲法案づくりでも家庭機能の強化が検討されていることと通底しており、軽視すべきでない。
● 男性労働も見直し必要
今最も求められていることは、とくに男性たちの働き方の見直しである。
『国民生活白書』によれば、1週間当たりの労働時間が50時間を超える労働者の割合は28・1%、独・仏の5倍にのぼる。
社会保障・人口問題研究所の全国家庭動向調査によれば、20歳代の妻の夫の21・6%、30歳代の妻の夫の25%が午後10時以降に帰宅しており、その割合は増えている。
また、非正規社員の割合は年々増え、15S24歳の若年層では男女含めて2人に1人、収入は正社員の6割、全年齢で25万円未満である。
02年の20~34歳を対象とする厚労省の調査では、正社員の男性の4割が結婚していたが、非正規社員は1割に満たなかった。
● 強制でない環境づくり
このような状況で、若者たちに結婚して、子どもを産むことが一番の幸せだと誰が言えるだろうか。
個人の人生選択はあくまで本人が決めること、政府は、産みたい人が安心して産み、育て、教育することができる社会の環境づくりと、具体的な支援をすべきで、いかなる場合も「産む」ことを強制すべきでない。
労働力に占める女性の割合は50%近いスウェーデンでは、両親保険、児童手当、保育所整備、短時間勤務制度など、男女平等を基本にした政策を進めた結果、04年には1・75に出生率が回復した。
伝統的家族観を押し付けるのではなく、経済効率第一主義、企業利益第一主義の働き方、働かせ方を変え、希望の持てる社会づくりをすることこそ、結果として少子化に歯止めすることにつながる。
『週刊新社会』(2006/7/11号)
厚生労働省は6月1日、人口動態統計月報年計(概数)の概況で合計特殊出生率1・25というショッキングな数字を発表した。その数字の持つ意味と、その使われ方について女性問題研究者の川島いずみさんに解き明かしてもらった。
人生選択はあくまで本人
女性問題研究者 川島いずみ
● 非難される女性生き方
日本人女性が一生に産む子どもの平均数を示す05年の合計特殊出生率が1・25と過去最低を更新した。
厚労省は早くも出生率がこのまま推移すると、先の改革で約束した「将来受けとれる厚生年金額は現役世代の平均手取り年収の50%」を割り込むと試算、危機感を煽っている。
「ひのえうま」の年を下回った90年の1・57ショック以来、「女性が働くようになって子どもを産まなくなった」、「個人主義がはびこり、家族の絆の大切さが薄れている」など、女性の生き方の模索を少子化の主因として非難する論調が強まった。
03年には「子どもを産み育てることを喜びとする社会をめざす」ことを盛り込んだ少子化対策基本法が施行された。
不妊治療への助成を強調する声や、出産奨励金や出産者表彰する自治体もあらわれ、産まない、産めない女性たちへの抑圧、かつての「産めよ殖やせよ」政策につながりかねない風潮が続いている。
同時に、次世代育成対策推進法が05年に施行、企業・自治体に「行動計画」づくりが求められ、育児休業の普及や職場・地域での保育所整備、子育てサポートセンターの設置などが進められてきた。
しかし、その結果が今回の出生率1・25である。おりしも政府は「国の最重点課題」(小泉首相)と位置づけて、少子化対策をまとめた。
そこには40項目もの対策が並んだが、歳出削減の方針の下、金のかかる政策は後回し、相変わらず不妊治療への助成だけは拡大した。
● 注目された女性働き方
ただ、今回注目されるのは、初めて「働き方の見直し」が柱の一つに据えられたことである。
同時に「家族の日」「家族の週間」の制定などが盛り込まれた。
性別役割分業に基づいた伝統的な家族観ではなく、夫婦がともに仕事と家族的生活を両立できる「働き方」への転換をようやく施策の柱に据えざるを得なくなる一方、「生命を継承していく尊さを感じ、家族が愛し合うことを大切な価値観とする」、「子育ての喜びを実感できることを通じて、家族機能や家族の絆を強める」など、伝統的家族観を強調するという矛盾した表現が混在している。
1970年代の自民党の「家庭基盤充実政策」、少子化社会対策基本法の考え方、自民党の新憲法案づくりでも家庭機能の強化が検討されていることと通底しており、軽視すべきでない。
● 男性労働も見直し必要
今最も求められていることは、とくに男性たちの働き方の見直しである。
『国民生活白書』によれば、1週間当たりの労働時間が50時間を超える労働者の割合は28・1%、独・仏の5倍にのぼる。
社会保障・人口問題研究所の全国家庭動向調査によれば、20歳代の妻の夫の21・6%、30歳代の妻の夫の25%が午後10時以降に帰宅しており、その割合は増えている。
また、非正規社員の割合は年々増え、15S24歳の若年層では男女含めて2人に1人、収入は正社員の6割、全年齢で25万円未満である。
02年の20~34歳を対象とする厚労省の調査では、正社員の男性の4割が結婚していたが、非正規社員は1割に満たなかった。
● 強制でない環境づくり
このような状況で、若者たちに結婚して、子どもを産むことが一番の幸せだと誰が言えるだろうか。
個人の人生選択はあくまで本人が決めること、政府は、産みたい人が安心して産み、育て、教育することができる社会の環境づくりと、具体的な支援をすべきで、いかなる場合も「産む」ことを強制すべきでない。
労働力に占める女性の割合は50%近いスウェーデンでは、両親保険、児童手当、保育所整備、短時間勤務制度など、男女平等を基本にした政策を進めた結果、04年には1・75に出生率が回復した。
伝統的家族観を押し付けるのではなく、経済効率第一主義、企業利益第一主義の働き方、働かせ方を変え、希望の持てる社会づくりをすることこそ、結果として少子化に歯止めすることにつながる。
『週刊新社会』(2006/7/11号)
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