◆ “元徴用工訴訟判決”韓国の弁護士に聞く
「日韓司法判断矛盾しない」 (東京新聞【ニュースの追跡】)
韓国人元徴用工に強制労働をさせたとして、韓国大法院(最高裁)が新日鉄住金に賠償を命じた。「判決は暴挙」(河野太郎外相)といった日本政府の度重なる批判に、韓国側も懸念を表明し、波紋が広がる。
韓国で元徴用工らの裁判を担ってきた崔鳳泰(チェポンテ)弁護士(56)は「長年の戦後補償裁判の積み重ねから生まれた判決だ。司法の判断を尊重すれば、平和的な解決が見えてくる」ととらえる。(安藤恭子)
◆ 平和インフラ構築の契機に
崔氏は、韓国の弁護士団体で日本戦争被害者人権特別委員会の委員長を務める。一九九七年から韓国政府や日本企業を相手に、元徴用工らの損害賠償や、六五年の日韓基本条約の会談文書の開示を求める訴訟を手掛けてきた。講演で来日中の十二日、「こちら特報部」の取材に応じた。
大法院判決のポイントは、元徴用工の個人請求権を認めたことだ。
同条約に伴う日韓請求権協定は、財産や権利に関する問題で「完全かつ最終的に解決」と明記。同協定に基づき、日本側は無償三億ドル、有償二億ドルなどを韓国に供与。これが事実上の「戦後賠償」とされてきた。
これに対し、崔氏は「法律家の視点で見れば、個人と国家は別人格で、請求権は認められて当然だ。日本が一貫して『協定により解決済み』とする立場を取ってきたというのも、『フェイクニュース』。日本の外務省や裁判所で、これまでも個人の請求権は認められてきた」と指摘する。
どういうことか。
一九九〇年代の韓国人被害者による提訴を背景に、日本の国会では「個人の請求権そのものを消滅させたものではない」(九一年八月、柳井俊二・外務省条約局長)といった答弁が繰り返しなされ、今も踏襲されている。
最高裁は、二〇〇七年の中国人強制連行訴訟の判決で、「日中友好声明で中国国民の賠償請求権は失われた」としつつ、個人の請求権自体を消滅させるものではなく、裁判で訴求する権能を失わせる、とした。勝訴した被告の西松建設はその後、和解に応じた。
「つまり日韓の司法判断は矛盾していない。それに同じ戦争被害者でありながら、韓国人被爆者は日本の法で救済され、徴用工や慰安婦は認められない。おかしくないですか」と崔氏は問い掛ける。
今回の判決の衝撃は、両国関係が和らぐ「鎮痛へのプロセス」と受け止める。
日本政府が「徴用工」を強制的だった労働実態を覆い隠すように「労働者」と言い換え始めたことにも「本音が分かりやすくなって良かった」と言う。「被害者と認めないのは問題の根源だから」
日韓請求権協定は紛争があれば外交で解決し、できなければ第三国を交えた仲裁委員会への付託を定める。
「条約が結ばれた当時は冷戦下にあった。国交正常化が迫られる中、日韓併合の有効性を巡る歴史認識の違いも棚上げにされた。紛争が起きるのは必然で、協定にならい、外交で解決するべきだ」と提案する。
具体的には日韓の政府と企業が共同で基金を設ける「2プラス2」方式で、元徴用工への補償に充てる解決法を挙げ、基金の目的に「若者の平和交流」を含めることを提案する。
「個人補償も大事だが、歴史認識が一致していないから、日韓の平和基盤はとても弱い。意見の違いは一歩ずつ解決していこう」と述べる。
崔氏は一九九四年から三年間、留学した東大大学院で労働法を学んだ。戦後補償訴訟を担ってきたのは「日本への恩返し」との思いからだ。
「日本は大切な隣国だ。日韓で手を取り合ってこの問題に向き合うことで、東アジアの平和インフラの構築や核兵器廃絶の協働へとつながれば良い」と願う。
『東京新聞』(2018年11月18日【ニュースの追跡】)
「日韓司法判断矛盾しない」 (東京新聞【ニュースの追跡】)
韓国人元徴用工に強制労働をさせたとして、韓国大法院(最高裁)が新日鉄住金に賠償を命じた。「判決は暴挙」(河野太郎外相)といった日本政府の度重なる批判に、韓国側も懸念を表明し、波紋が広がる。
韓国で元徴用工らの裁判を担ってきた崔鳳泰(チェポンテ)弁護士(56)は「長年の戦後補償裁判の積み重ねから生まれた判決だ。司法の判断を尊重すれば、平和的な解決が見えてくる」ととらえる。(安藤恭子)
◆ 平和インフラ構築の契機に
崔氏は、韓国の弁護士団体で日本戦争被害者人権特別委員会の委員長を務める。一九九七年から韓国政府や日本企業を相手に、元徴用工らの損害賠償や、六五年の日韓基本条約の会談文書の開示を求める訴訟を手掛けてきた。講演で来日中の十二日、「こちら特報部」の取材に応じた。
大法院判決のポイントは、元徴用工の個人請求権を認めたことだ。
同条約に伴う日韓請求権協定は、財産や権利に関する問題で「完全かつ最終的に解決」と明記。同協定に基づき、日本側は無償三億ドル、有償二億ドルなどを韓国に供与。これが事実上の「戦後賠償」とされてきた。
これに対し、崔氏は「法律家の視点で見れば、個人と国家は別人格で、請求権は認められて当然だ。日本が一貫して『協定により解決済み』とする立場を取ってきたというのも、『フェイクニュース』。日本の外務省や裁判所で、これまでも個人の請求権は認められてきた」と指摘する。
どういうことか。
一九九〇年代の韓国人被害者による提訴を背景に、日本の国会では「個人の請求権そのものを消滅させたものではない」(九一年八月、柳井俊二・外務省条約局長)といった答弁が繰り返しなされ、今も踏襲されている。
最高裁は、二〇〇七年の中国人強制連行訴訟の判決で、「日中友好声明で中国国民の賠償請求権は失われた」としつつ、個人の請求権自体を消滅させるものではなく、裁判で訴求する権能を失わせる、とした。勝訴した被告の西松建設はその後、和解に応じた。
「つまり日韓の司法判断は矛盾していない。それに同じ戦争被害者でありながら、韓国人被爆者は日本の法で救済され、徴用工や慰安婦は認められない。おかしくないですか」と崔氏は問い掛ける。
今回の判決の衝撃は、両国関係が和らぐ「鎮痛へのプロセス」と受け止める。
日本政府が「徴用工」を強制的だった労働実態を覆い隠すように「労働者」と言い換え始めたことにも「本音が分かりやすくなって良かった」と言う。「被害者と認めないのは問題の根源だから」
日韓請求権協定は紛争があれば外交で解決し、できなければ第三国を交えた仲裁委員会への付託を定める。
「条約が結ばれた当時は冷戦下にあった。国交正常化が迫られる中、日韓併合の有効性を巡る歴史認識の違いも棚上げにされた。紛争が起きるのは必然で、協定にならい、外交で解決するべきだ」と提案する。
具体的には日韓の政府と企業が共同で基金を設ける「2プラス2」方式で、元徴用工への補償に充てる解決法を挙げ、基金の目的に「若者の平和交流」を含めることを提案する。
「個人補償も大事だが、歴史認識が一致していないから、日韓の平和基盤はとても弱い。意見の違いは一歩ずつ解決していこう」と述べる。
崔氏は一九九四年から三年間、留学した東大大学院で労働法を学んだ。戦後補償訴訟を担ってきたのは「日本への恩返し」との思いからだ。
「日本は大切な隣国だ。日韓で手を取り合ってこの問題に向き合うことで、東アジアの平和インフラの構築や核兵器廃絶の協働へとつながれば良い」と願う。
『東京新聞』(2018年11月18日【ニュースの追跡】)
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