=大阪・高2自殺=
◆ スポーツに体罰不要
自殺した大阪市立桜宮高二年のバスケットボール部主将の男子生徒=当時(17)=は、顧問の男性教諭(47)から日常的に体罰を受けていた。いまだにはびこる学校現場の体罰。運動部につきものと思われがちだが、「スポーツ指導に体罰はいらない」と識者は口をそろえる。(林啓太)
◆ 「指導効果」思い込み
「体罰で尻をたたかなくても、伸びる見込みのある選手を見極める力があった」。六十八年間にわたり、強豪の明治大ラグビー部を率いて名監督といわれた北島忠治氏について、スポーツライターの藤島大氏は、こう評する。
明治大のライバル校の付属高から入学してきた選手でも新人の時から積極的に試合に出し、強い選手に育てたという。藤島氏は「違う環境に放り込まれて『なにくそ』と奮起できることを見抜いたからだ」と話す。
北島氏は相撲出身だったが、大学体育会にありがちだった体罰や暴力を嫌っていた。合同練習の際、他の大学チームで指導者が選手に平手打ちする光景を見て、「選手はイヌやネコではない」と激怒したという。
かつては「かわいがり」と呼ばれる体罰が横行していたとされる大相撲でも二〇〇七年の新弟子暴行死事件をきっかけに体罰禁止が徹底されるようになった。
元力士で、相撲界を題材にした作品を描いている漫画家の琴剣淳弥氏は「事件後、親方の理不尽な体罰は行われなくなり、説教に代わった。それで力士が弱くなったという話は聞かない。体罰と技量の向上は無関係だった」と指摘する。
◆ 「強豪校ほど黙認する傾向」
なぜ指導者は体罰に手を染めるのか。藤島氏は「過酷な条件を与えて選手の心を伸ばすという指導に、一定の効果があると思っているから」と話す。しかし「体罰を感謝されるような指導者は、無私の人格者で、極めてまれなケース」と断言する。
桜宮高バスケット部は、過去五年でインターハイに三回出場した強豪。教諭は全国大会の常連校に育てた指導者として知られていた。
教員の行き過ぎた指導や体罰で自殺に追い込まれた子どもの遺族でつくる「指導死親の会」の大貫隆志氏は「強豪校であればあるほど、暴力による指導が行われやすい傾向がある。学校側は成績を重視して、指導者の体罰を黙認する。指導者も自身の評価に直結するだけに、焦って暴力に頼りがちになる」と説明する。
◆ 絶対許さぬ浸透させて
マラソンの増田明美氏は、高校時代について「やる気の源は顧問の先生からいただく言葉だった。一言一言に厳しさも優しさもあった。体罰など考えられなかった」と振り返る。
教諭について、「『熱血教師』などと呼ばれていたようだが、とんでもない。暴力を振るう指導を肯定するようなもの」と批判する。
藤島氏も「指導者に殴らせないようにするため、体罰そのものが絶対に許されない、という決まりを浸透させていくべきだ」と話す。
教育評論家の尾木直樹氏は、「今の高校生たちは、プライドのかたまり。殴って言うことを聞かせるということでは付いてこない。スポーツの指導も子どもの自主性を抜きにしては考えられない」と指摘する。
「スポーツに限らず、良いところを一つでも見つけ、ほめて伸ばすほうが効果がある。良いところを引き上げれば悪いところも改善していくんです」
『東京新聞』(2013/1/10【ニュースの追跡】)
◆ スポーツに体罰不要
自殺した大阪市立桜宮高二年のバスケットボール部主将の男子生徒=当時(17)=は、顧問の男性教諭(47)から日常的に体罰を受けていた。いまだにはびこる学校現場の体罰。運動部につきものと思われがちだが、「スポーツ指導に体罰はいらない」と識者は口をそろえる。(林啓太)
◆ 「指導効果」思い込み
「体罰で尻をたたかなくても、伸びる見込みのある選手を見極める力があった」。六十八年間にわたり、強豪の明治大ラグビー部を率いて名監督といわれた北島忠治氏について、スポーツライターの藤島大氏は、こう評する。
明治大のライバル校の付属高から入学してきた選手でも新人の時から積極的に試合に出し、強い選手に育てたという。藤島氏は「違う環境に放り込まれて『なにくそ』と奮起できることを見抜いたからだ」と話す。
北島氏は相撲出身だったが、大学体育会にありがちだった体罰や暴力を嫌っていた。合同練習の際、他の大学チームで指導者が選手に平手打ちする光景を見て、「選手はイヌやネコではない」と激怒したという。
かつては「かわいがり」と呼ばれる体罰が横行していたとされる大相撲でも二〇〇七年の新弟子暴行死事件をきっかけに体罰禁止が徹底されるようになった。
元力士で、相撲界を題材にした作品を描いている漫画家の琴剣淳弥氏は「事件後、親方の理不尽な体罰は行われなくなり、説教に代わった。それで力士が弱くなったという話は聞かない。体罰と技量の向上は無関係だった」と指摘する。
◆ 「強豪校ほど黙認する傾向」
なぜ指導者は体罰に手を染めるのか。藤島氏は「過酷な条件を与えて選手の心を伸ばすという指導に、一定の効果があると思っているから」と話す。しかし「体罰を感謝されるような指導者は、無私の人格者で、極めてまれなケース」と断言する。
桜宮高バスケット部は、過去五年でインターハイに三回出場した強豪。教諭は全国大会の常連校に育てた指導者として知られていた。
教員の行き過ぎた指導や体罰で自殺に追い込まれた子どもの遺族でつくる「指導死親の会」の大貫隆志氏は「強豪校であればあるほど、暴力による指導が行われやすい傾向がある。学校側は成績を重視して、指導者の体罰を黙認する。指導者も自身の評価に直結するだけに、焦って暴力に頼りがちになる」と説明する。
◆ 絶対許さぬ浸透させて
マラソンの増田明美氏は、高校時代について「やる気の源は顧問の先生からいただく言葉だった。一言一言に厳しさも優しさもあった。体罰など考えられなかった」と振り返る。
教諭について、「『熱血教師』などと呼ばれていたようだが、とんでもない。暴力を振るう指導を肯定するようなもの」と批判する。
藤島氏も「指導者に殴らせないようにするため、体罰そのものが絶対に許されない、という決まりを浸透させていくべきだ」と話す。
教育評論家の尾木直樹氏は、「今の高校生たちは、プライドのかたまり。殴って言うことを聞かせるということでは付いてこない。スポーツの指導も子どもの自主性を抜きにしては考えられない」と指摘する。
「スポーツに限らず、良いところを一つでも見つけ、ほめて伸ばすほうが効果がある。良いところを引き上げれば悪いところも改善していくんです」
『東京新聞』(2013/1/10【ニュースの追跡】)
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