引き続き生命進化の話である。先に述べた生命発生は普遍的な話で、水と紫外線と熱水噴出があれば地球以外の惑星でも容易に起こりそうな現象である。特に温度に着目すると4℃以上の海水と300℃以下の熱水が硫化鉄の泡を介して触れ合えばよいので、20℃前後の生ぬるい環境が必要という訳ではなく、生命の発生条件は拡大する。
さて、問題はその後である。真菌たる原核生物はATPを生成するプロトンポンプをその細胞膜上に持っており、その細胞膜に穴が開くと電位差の維持が出来なくなり即死する。よって、それを細胞壁で頑丈に守る必要がある。また幾何学の基礎では、球の表面積は直径の二乗に比例し、体積は三乗に比例する。細胞膜上にプロトンポンプを持つ原核生物はその幾何学上の制限により大きくなれないのである。直径が大きくなると体積に相対して表面積が少なくなり細胞を維持するエネルギー生成が出来なくなるのである。また頑丈な細胞壁は捕食を不可能にする。原核生物の生存戦略は、大きくなって敵を捕食する弱肉強食原理ではなく、小さいまま早く増殖しリソースを奪う事である。早く増殖するには単純なDNAである必要があり、生命の複雑化という道筋は辿れない。原核生物は進化の袋小路で行き止まるのである。
リン・マーギュリスは1967年6月に有名な細胞内共生説を発表した。我々の細胞内の組織であるミトコンドリアや植物の葉緑体は、元来は別の生命であったのが捕食の際に取り込まれ共生を始め、今に至っているという説である。現にミトコンドリアは細胞核とは別の独自のDNAを持っており母系遺伝をすることは良く知られている。
ミトコンドリアは数ミクロンの大きさで、ひだひだの二重壁を持ち、非常に効率的にATPを生成する組織であり、これは元々独立した原核生物であった。我々の細胞内にはこのミトコンドリアが細胞あたり100-数千個存在しており、全部で体重の約10%を占める。原核生物と真核生物の違いは字義からくる核の違いより、このミトコンドリアによる差が大きい。
ミトコンドリアを持つ真核生物はそのエネルギー代謝を細胞膜ではなくミトコンドリアが受け持つことで幾何学的2/3乗則の呪縛から解き放たれ、硬い細胞壁も不要とした。ここに細胞の巨大化、捕食及び多細胞化の道が開けたのだ。つまり弱肉強食の進化への道がミトコンドリアにより開始したのである。そしてこの共生というイベントが偶々起こったことで知的生命への可能性が開けたが、これは必然的な事象ではなく奇跡的な偶然と捕らえたほうが良い。恐らく地球外生命探査を続けると原核生物様の生命体はある確率で見つかるであろうが、真核生物タイプが見つかるかどうかは疑わしい、この件は地球外知的生命体探査(SETI)問題であるフェルミ・パラドックスの結論とも関わる問題である。