英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

ヴィクトリアン・ハードボイルド?

2012-06-13 | イギリス


マイケル・コックス「夜の真義を」

「赤毛の男を殺したあと、私はその足でクインズへ向かい、そこで牡蠣の夕食を認めた」
という出だしです。
なかなかなハードボイルドですねえ、と思いきや・・・・
偶然発見されたエドワード・グライヴァーの手記とい形で進められる物語。
時はヴィクトリア朝、
法律事務所で裏仕事を営むグライヴァーには大いなる目的があった。
学生時代に彼を無実の罪に陥れ、その将来を無茶苦茶にしたフィーバス・ドーントへの復讐だ。
ドーントは今や詩人として大成功を納め、飛ぶ鳥の勢い・・・。
母の遺品を整理するうちに、グライヴァーはある疑惑を抱くことに。
彼自身が、実は男爵家の正当なる継承者なのではないか・・・。
母がひた隠してきた事実とは何なのか?
しかし、その継承者には、あのドーントが・・・・。
復讐というとモンテ・クリスト伯ですが、そこまでのスペクトル感はありません。
ヴィクトリア風の重厚粘着的な文体で書かれるストーリーは時にクドイのですが、
男爵の館の描写はなかなかに面白い。
特に大きな図書室に集められたコレクションには注目です。
残念なのは、グライヴァーの手記ゆえ、悪役ドーントの紹介が一方的に描かれてばかりなところ。
復讐心にだんだんと埋没していき、最後は、ちと平凡な終わり方・・・。
ディケンズに大きな影響を受けたという作者、ロンドンの生活、自然の中に溶け込む貴族の館の描写は読ませるのですが、
もう少し、ドライな展開でどんでん返しを期待しちゃいました。