英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

純粋故の哀しさ

2008-04-07 | イギリス
アラスター・グレイ「哀れなるものたち」

スコットランドの作家アラスター・グレイは、グラスゴー市で文化財の保護管理に従事する知人から、一冊の古本を見せられる。タイトルは「スコットランドの一公衆衛生官の若き日を彩るいくつかの挿話」。書いたのはマッキャンドレスという医者。その内容に甚く関心を持ったグレイが、その本を再度編纂し、出版を行ったのが、この「哀れなるものたち」である。おおきく4つのパートから構成されおり、グレイ自身による前書き(ここで、この本を入手するに至った経緯と、再度出版を志した過程が説明されている)。続いて多少手を加えた「スコットランドの一公衆衛生官の若き日を彩るいくつかの挿話」本編。次にこの本の作者マッキャンドレスの妻と見られる女性から、子孫に向けて書かれた手紙が収録されている。そして最後にグレイの手による詳細な「注」が付けられているという作り。
以上がこの「哀れなるものたち」の体裁なのですが・・・・・・。


天才外科医ゴドウィン・バクスターは、橋から身投げし、自殺を遂げた女性に驚異的な施術を行い、ベラ・バクスターとして蘇生させた。
本編の物語は、この蘇ったベラの成長の記録として描かれていくのであるが・・・・。
怪奇小説?否!さにあらず!「アルジャーノンに花束を」を彷彿させる記載があるかと思えば、どこかバレエ「コッペリア」に通じるピグマリオンコンプレックス的世界も登場する。一つの物語が絶えず2つの局面(対立軸)から語られるのも「仕掛け」の一つなのか。当事者2人の相反する手紙。前世?(自殺前)と現在との対立。裏と表、嘘と真実。鏡のこちらと向こう側。何よりマキャンドレスの妻の手紙・・・・と、詳細すぎる「注釈」の存在が・・・・。と書くと、とっつき難い話に思えますが、確かに奥深く、仕掛けや地雷が満載ではありますが、あくまで平易な文体でイッキに読了させてくれますよ。
何より、ベラの貪欲な知識習得と、真の愛を希求する心の成長と確かな歴史観、そしてバクスターの哀しい怪人ぶりが見所です。

前書きでの問題の本にめぐり合う経緯は、「薔薇の名前」を思い出します。オリジナルを紛失してしまうあたりもいっしょです。

凝った作りの本だけに、翻訳本の場合、幾分仕掛けの部分の効果が半減するのは致し方ないですが・・・・。
さあ、騙されたフリをして、どれだけこの本で楽しめますか?
意外と本当に騙されているかもしれませんね。

「注意」!
通勤途中、電車の中などでこの本を読む場合は注意が必要です。
ただでさえグロテスクな解剖図が満載なうえ、ページをめくると突然男性器、女性器が出てきたりして・・・・。
私は、前に立った若い女性が急に目を逸らせ、嫌悪の表情を浮かべたのを見逃しませんでした・・・。


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