ジュリア・フィッシャーによるバッハ無伴奏ソナタとパルティータ全曲演奏会、第一夜はソナタ3曲。
本当に才能のある人なのだろう。丁寧に、乱れることなく、淡々と演奏してゆく。左手の動きは決して滑らかに見えないのだが(前日に見たウィーンフィルのコンマスの左指の優雅さとはちょっと対照的な気すらした)、音程のコントロールは完璧。和音の響きも美しい。弓による表情(音色の変え方)も豊かだ。
バッハの無伴奏ソナタ、ロマン派やそれ以降の曲のようにハイポジションや超絶技巧の嵐とは違うが、それだけに本当のヴァイオリンの音の美しさを味わうことができる。フィッシャーのE線の第3ポジションあたりの音は伸びやかで素晴らしく美しい。弦向きといわれるウィグモアホールでその美しさが更に際立つ。
Wikiによればフィッシャーが今使っている楽器はガダニーニ、とのこと。日曜日のパルティータの演奏会が終わったら、今回何を使ったのか尋ねてみようと思うが、確かに、ストラドの端正さとガルネリの煌びやかさの両方をバランスよく備えているように聴こえた。この出過ぎない感じが、バッハ向きなのかもしれない。
前半(ソナタ第1番、第2番)が終わったところで休憩。常連の会話がちょっと耳に入ったが、やはり皆昨年のギル・シャハムの演奏と比べている。確かにその気持ちわかる。そのくらい出来が良い、といってよいと思われた。
ただ、ソナタの2番になって、少し疲れが出てきたのか、弓が他の弦を擦ったり、多少弓のコントロールに欠けてきたように思われた。1曲ごとに短めの休憩、というのは難しいのだろうか?さらにソナタの3番のフーガは66小節目からのパートに入った後ちょっと迷宮に寄り道したように思われるが・・・私の聴き違いだろうか。
バッハの無伴奏ソナタ3曲の後だというのに、アンコール。なんと
「シャコンヌ」
とのたまう。ただ発音が「Ciaccona」で皆一瞬「?」
「冗談」
といわれて、理解。ちょっと笑いが漏れる。
すごい、こういうところで冗談が言える26歳(!!)。恐ろしい。