将来の息子となる予感むんむんの娘の彼、T君が一日中うちにいた。
私はとなりの部屋で調べものや書き物をして過ごした。
彼らの会話を聞いているとそれは夫婦そのもので、
とても仲がよく、落ち着いている。
17歳のふたりなのに、だ。
私は彼らに触れていると「結婚も悪くはないなぁ」などと
魔法にかかってしまうような心境になる。
ほのぼのとして、羨ましい。
男女間の焦りがないというか、
あらゆる欲が排除された関係。
眩しいくらいにきらきらと輝いてみえる。
「娘にはもれなくお母さんがおまけに付きますが・・・」と言った。
Tくんは「もちろん、お母さんとも結婚したいと思ってます」と。
「ちょっとおまけなんていらないの!!」とT君を揺さぶる娘。
「はいはい、お邪魔はしませんよ」と私。
その間に挟まれたT君は、嬉しそうに笑みを浮かべている。
私はこのふたりを眺めているだけで幸せになる。
娘の成長を感じ、選んだT君という少年も息子のように愛している。
いいや、手放したくない。
娘はもちろん、T君にも伝えた。
「もしも、何かの事件や犯罪に巻き込まれたとき、
助けてあげられなかったとき、
私は一生、その悔いだけ取り付かれ、抱かれてしまう」と。
だから、何か心配事があったときは駆けつけるから、
必ず、連絡してね!!
あなたたちのあしたのために、あしたを守りたいだけなの」と言った。
T君はうちにくるとおなかがふくれて帰宅する。
心も満腹になって、またお邪魔します、と言って帰る。
みえなくなるまで手を振って、
T君がみえなくなると、一瞬にして寂しさが心身を包み込む。
自分が若い頃、こんな少年と出会いたかった。
そして、恋におちてみたかった。
娘はT君以外、もう誰とも付き合う予感のないことを
折にふれ言葉にする。
それがきっと幸せなのだ。
人生の陽春を謳歌して、
その思い出を語り、晩秋を過ごす。
それが人生だ、きっと。