上半身褐色の肌を見せ付けるように、
海の男たちは航海のための準備に余念がない。
寝られるときに寝る。
食べられるときに食べる。
休めるときに休む。
何もせず、数日を過ごすことも決して稀ではないらしい。
私がヨットに関心を持ったのは、風だった。
オープンカーやバイクや自転車で受けるそれとは相違する、
海上の潮風に憧れたためだ。
それも、交通事故に遭った後、
友人が潮風が体にいいらしいことを教えてくれたことがきっかけとなった。
マネージャーを務めるのは重度の障害を持った方で彼はクルーではない。
けれど、彼の指示は厳しい。逆らえない。
はい、以外の言葉を発言できない。
障害の受容からはじまり彼に手出しのできるクラブ員は
キャプテンですらいないことをよく噂として耳にする。
それだけ彼の人生には彼にしか理解できない苦悩があるのだと思った。
人命に関わるため、キャプテンの判断がNOと出た場合は
それに従ってもらうことになります。
武士のようだった。
二言なし。
自分、他者問わず、船上にいるクルーの命に危険が伴わない人間しか
クラブ員にはなれない。
海を甘くみたものは、海に返される。
常日頃から眺める海原、叢雲の過酷さを叩き込まれてきた私だけに、
クルージングメンバーに選ばれたときは本当に嬉しかった。
二艘でレースをしながら大島を寄港し、新島や式根島への航路は、
海上からの東京を眺め、
星空や海への深読みが自然との対話であることに気付く頃、
海の男たちの気質にすこしだけ触れた気がした。
私はもうクルーにはなれない。
それは自分の命が、というよりも
他者の命の配慮を自分で判断した結果だ。
プリンを差し入れしにヨットハーバーへ行くと、
作業を続ける男たちが海の男らしくてより好感が持てた。
生き返ってきたかぁー
またしごかれにくるとは、女にしておくのはもったいない。
失礼な・・・・・・と言いかけてやめた。
今日はうわてに出よう!
プリン食べるの? 食べないの? どっち?
ヨット内の冷蔵にに差し入れを仕舞い、
また気が向いたらしごかれに来ます、と言ってハーバーを後にした。
ここに来るだけで、私の闘志は夏の陽射しのように燃えて熱い。