2019年のブログです
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大平健さんの『豊かさの精神病理』(1990・岩波新書)を再読しました。
大平さんの豊かさややさしさの精神病理を扱ったシリーズの最初の本で、久しぶりの再読です。
1990年の本ですから、バブル崩壊前の日本人が成金で大騒ぎをしていた時代。
精神科には時代を先取りしたファッションなどのモノ重視の新しいタイプの病いが出現していたようで、大平さんはそれらの人々の悩みに真摯に向き合っています。
その面接の様子はまことに見事で、患者さんに丁寧に寄り添い、そして、彼らが自ら回答を見つけ出せるように細やかに援助をされます。
その風景描写がまことにすごくて、その後、じーじは同じような報告書を書こうと四苦八苦した思い出があります。
大平さんは彼らを、モノ語りの人々、と名づけています。
ブランドもののファッション、グッズ、学校、ペット、などなどに熱中し、一見、悩みと無関係の顔をして生きています。
しかし、そういう彼らが、何らかの変調をきたし、精神科に訪れます。
大平さんの見立てでは、それらは、消毒済みの人づきあい、のためのものではないか、という仮説を立てておられます。
生身の人づきあい、を避けた、新しい対人関係。まさに卓見です。
時代はバブルを経て、一億総中流化、さらに、正規と非正規、貧困の常態化の時代となっています。
しかし、大平さんの描く、モノ語りの人々、豊かさの(幻想にいる)精神病理の人々は今も同じようにいます。
そして、さらには、それらの異常さを感じとって将来に漠然と不安を抱える人々も多くいます。
人や社会を丁寧に視ることのできる精神科医の報告と提言は今もたいへん貴重です。
さらに勉強をしていこうと思います。 (2019.6 記)
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2023年5月の追記です
豊かさの精神病理、と聞くと、じーじは例のマイナンバーカードの2万ポイント付与問題を思い出します。
豊かさがこころの豊かさとはならずに、こころの貧しさ、卑しさに見えてしまいます。
実際に生活が苦しくなっている実態の反映でもあるのでしょうが…。 (2023.5 記)
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同日の追記です
中国でも事態は同じようです。
生活水準は昔よりずいぶん向上しているようですが、コロナをめぐる混乱や自由を求める民衆と国家権力による弾圧などの問題を見ていると、豊かさがこころの豊かさになっていない様子がうかがえます。