たぶん2014年ころのブログです
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大平健さんの『純愛時代』(2000・岩波新書)を再読しました。
『豊かさの精神病理』(1990)、『やさしさの精神病理』(1995)に続く、大平さんによる岩波新書の精神医学三部作の一冊。
大平さんはあの有名な土居健郎さんのお弟子さんの精神科医ですが、その面接風景は確かです。
本書は岩波新書らしからぬ(?)、くだけておしゃれな(?)題名ですが、内容はしっかりしていて、読みごたえがあります。
どの章も、大平さんの、おそらくはふだんどおりの、ていねいな精神科臨床の面接風景を描写されているのだろうと思います。
今回、じーじが特に印象に残ったのが、第3章の「マーガレットのある部屋」という文章。
映画のクレーマークレーマーそっくりのストーリーで、奥さんに逃げられただんなさんと子どもの奮闘記です。
そこに若い保母さんの少しだけ職業を超えた愛情がからみ、事態が複雑になります。
だんなさんのがんばりの甲斐もなく、離婚裁判で子どもは奥さんに奪われ、だんなさんは疲れ果てて、発病します。
保母さんに精神科病院に連れてこられただんなさんが大平さんとの面接の中で少しずつ状況や事態を理解していきます。
その過程はとてもていねいで、精神医学的にも適切なようです。
やがて、だんなさんは自ら、もとの奥さんへの「未練」や「うらみ」や「意地」に気づきます。
さらには、保母さんとの愛情にもきちんと向き合えるようになって、自分らしく出発するところで話は終わります。
人が人との関わりあいの中で、自分らしさを取り戻していくという過程がていねいに描かれていて、感動的です。
他にも、「透明な膜に包まれて」とか、「ろ過された想い」「天使の仕業」などなど、興味深いお話が満載です。
大平さんの症例報告は本当にドラマのようですごいです。
じーじも少しでも見習えるよう、これからもていねいな面接をしていきたいと思います。 (2014?記)
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2020年11月の追記です
未練、うらみ、意地、といえば、じーじが裁判所に入って調査官補の時に指導官だった山野保さんの研究テーマでした。
部屋の先輩たちと熱く議論をしていた山野さんを思い出します。
その成果は、『「うらみ」の心理』や『「未練」の心理』、『「意地」の構造』、さらには、中井久夫さんらとの共著である『「意地」の心理』(いずれも創元社)などといった本になっています。
じーじも、もっともっと勉強しなければなりません。 (2020. 11 記)