弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【実務関係】「京都芸大」騒動(続き)

2020年09月11日 08時18分36秒 | 実務関係(商・不)
おはようございます!
幾分暑さも和らいだ…気がする今朝の@湘南地方です。

京都芸術大学の件、やはりというか控訴になったのですね(ニュースはこちら)。
1審の判決文が公開になっていたのでちょっとだけ検討。

[先に、柔らか解説。]
周知」とか「著名」とか、専門外の人からみたら同じじゃん!?と思うかもしれないのだけど、別の概念です。
どっちも“有名”という意味ではそうなのだけど、「周知」の方がハードルは低い(低いといってもまあ立証は大変なわけだが)。
不競法の場合、「周知」は隣接都道府県で有名であることで足りる。一方「著名」は全国的であることが必要。
…ということを念頭において以下お読みください


[要点抜粋]
(1)商品等表示該当性(=公立大学は営利じゃないから不競法に言う「商品等表示」にあたらないんじゃないの?という点)
→“広く経済的対価を得ることを目的とする事業を指し,私立学校のみならず公立学校の大学経営も,これに含まれる”として該当性を肯定。

(2)著名性(2号)について →否定
 ・原告表示1(=「京都市立芸術大学」)について以下は認定。
 “原告はもちろん原告大学の関係者によっても,原告大学の営業表示として長年にわたり数多く使用されてきたものといってよい。また,その地域的範囲も,書籍やウェブページに記載されたものは全国的に使用されたものということができるし,原告大学の在校生及び卒業生等の活動範囲は国内外にわたっている。”
 ・しかし以下の点を指摘し、原告の営業表示として「著名」であることは認めず。
  ー使用例の多くは、原告大学関係者の肩書又は経歴等としての使用。通常こうした経歴等は小さく付記されるにとどまる
  ー(芸術分野に関心のある者の間で著名であるとの主張に対し、)
   :原告関係者である芸術家の活動分野は幅広い芸術分野の一部にとどまる
   :芸術分野に関心のある者でも、主催者や実践に当たる者の経歴等にはさほど関心を持たない
   :活動が「全国規模」といっても、実質は京都府及びその近隣府県にとどまる
 ・原告表示2~5については、原告表示1よりも頻度も低く著名を認める余地もない。

(3)周知性(1号)について 
 ・「需要者」については“京都府及びその近隣府県に居住する者一般(いずれの芸術分野にも関心のないものを除く。)と解される。”と認定。
 ・原告表示1の周知性について
→“京都府及びその近隣府県の範囲における交通や新聞等による報道の実情等に鑑みると,京都府及びその近隣府県に居住する一般の者が,原告大学を表示するものとして原告表示1を目にする機会は,相当に多いものと合理的に推認される。”とし、周知性を認定
 ・原告表示2~4(=「京都芸術大学」「京都芸大」「京芸」)
→原告表示1と比して使用頻度は少なく、また他の略称又は通称も用いられている、として周知性を否定。
 ・原告表示5(=「Kyoto City University of Arts」)
→原告表示1と一体となっているが、そのフォントは相対的に小さく視認し難い、として周知性を否定。

(4)原告表示1と本件表示(=被告の「京都芸術大学」)との類似性
 以下を指摘し、類似性を否定
 ・「市立」を冠する大学は全国に11大学に過ぎず、京都市を設置主体とするのは原告大学のみ。
  「(京都)市立」の部分の自他識別機能又は出所表示機能は高い
 ・原告表示1、本件表示とも各々全体をもって把握される=パーツごとの一致の問題ではない
 ・取引の実情としても、需要者は、複数の大学の名称が一部でも異なる場合、これらを異なる大学として識別するために、当該相違部分を特徴的な部分と捉えてこれを軽視しない。

やわらかく言うと、
 ・「京都市立芸術大学」は、「周知」だけど「著名」ではないよ
 ・他の略称等は、「周知」ですらないよ
 ・大学の名前も不競法上の商品等表示にはあたるけども、(原告の)「京都市立芸術大学」と(被告の)「京都芸術大学」は、大学の名称としては似てないよ
 →だから不正競争行為にはあたらないので、原告の請求は棄却するよ、ということ。


[所感]
1)略称に関する統一化ポリシーって大事なんだよなー、ということを、まず改めて感じた。
  本件、「京都市立芸術大学」と「京都芸術大学」とが非類似である(混同が生じない)という点は覆しづらいのではないかと思う。
  「京都芸大」なり「京芸」なりで需要者の間に定着している=周知性を有している、という点が認められれば、上記判決における「市立」の部分の自他識別機能又は出所表示機能は高い、という点を事実から覆すことができるんじゃないかな、と。
  ただそれを主張するための“素地”は、予め作っておかないと難しい状況だろうな、とも。“どう名乗るか”とともに“どう呼ばれる(ように仕向ける)か”のコントロールが大事だと感じる。
2)試合に勝って勝負に負けて、ではないけれど、被告サイドもレピュテーション(評判)を考えたら無傷じゃないよなぁ、と。
  ブランド刷新のための校名変更であっただろうに、出だし早々から係争になるなんて「想像力」「予見力」に欠ける判断だったのではないか、と思われてしまうことが、教育機関としてはマイナスの方が大きいのではないかと危惧する。
3)一方で、商品/サービスによって商品等表示(商標)の類似の幅は一様ではない、という点が改めて明確に示されていることについては、好感できる。
  大学の名称はそもそも選択の余地が一般の商品/サービスよりも狭いことを考えれば、本件判決における類否判断には、飽くまで「法律上」という観点からは納得がいく。

…ちょっと長くなり過ぎました。最後までお付き合いいただいた方、ありがとうございました。

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