こんにちは!
梅雨の晴れ間の夕焼けが見える、現在の@湘南地方です。
さてさて、標記商標の件。
今に始まった話ではないけど色々と物議を醸しているようなので、
一専門家として縷々コメントしてみる。
関係する最近の記事はこちら。
(NEWSポストセブンより引用)
================================
『ナカイの窓』が「断捨離」使用でトラブル、終了にも影響か
中居正広(46才)が司会を務めていた『ナカイの窓』(日本テレビ系)が今年3月で終了すると発表された時、どうしてこんな人気番組が、といぶかる声も大きかった。突然の終了の裏にあったのは、たった1つの言葉を巡った騒動だった。
…(中略)…
『ナカイの窓』が抱えていたトラブルとは何か。事の発端は同番組の人気コーナー『断捨離の窓』だったという。司会の中居と4人のゲストが、世の中の無駄なもの、いらないものについて語り、不要なものを減らす『断捨離』を提案するという内容だった。
昨年8月の放送だったのですが、『アイドルの長すぎる自己紹介』や『「サイトウ」という苗字の漢字のバリエーション』までズバズバ切り捨てていく内容が好評で、このコーナーの視聴率は10%を超えました。昨年10月には第2弾が放送され、またも高評価でした。すぐに第3弾が検討されましたが、それ以降、放送されることはありませんでした。『断捨離』というワードをめぐり、番組が訴えられたからです」(前出・日本テレビ関係者)
(以下略)
================================
(引用終わり)
で、今回の商標権者が保有する「断捨離」の登録商標は全部で5件。
・第4787094号:第41類(セミナーの開催 他)
・第5412928号:第9,16類(電子応用機械器具及びその部品,印刷物 他)
・第5582468号:第3類 (化粧品 他)
・第5909022号:第5,7,11類他 計13区分 (薬剤、食品関係、その他各種サービス)
・第5948115号:第14,18,20類他 計7区分 (貴金属、かばん類 他)
とまあ、相当広範にわたって登録をしている。
なるほど、こういう状況で第三者が勝手に「断捨離」“という言葉”を使うと、あたかも権利侵害であるかのように思う向きは多いだろう。
まして、例えばこういうサイトで権利者自身がこの言葉に込めた思いを持っていて、そのコンセプトを乱すような行為は排除したい、という気持ちはわからなくもない。
だけどちょっと待って欲しい。
巷で言われているような、“だから「断捨離」という言葉を使うことそれ自体が権利侵害なのだ”という捉え方は、大いに誤解がある。
また、権利者本人が上記サイトで、「明確厳格な基準を設けており、許可なく使用することはできません」と主張している点について、主張は自由だが法はそれを必ずしも担保してはいない。
1.商標法上の「使用」について
法上(=条文上)、「商標の使用」は積極的に定義はされていないが、
形式的には商品それ自体や商品/サービスの提供に供するものに商標を付する等の行為(商標法2条3項各号に掲げる行為)を言い、
実質的には商品/役務(サービス)との関係において商標の機能を発揮させる状態に置くことをいう。
途端にややこしい話に聞こえるかもしれないが、要は、
登録されている「マーク(ここでは「言葉」)」そのものを用いることだけでは商標法上の「使用」には該当しない(したがって商標権侵害にも該当しない)。
飽くまで、その「マーク(ここでは「言葉」)」が、商品/サービスとの関係で取引者・需要者に“商標だと認識される状態”におくことが商標法上の「使用」なのだ。
言い換えれば、商標法/商標登録は「言葉狩り」の道具ではない。
※この辺りは、「使用」という言葉が独り歩きしている状態が引き起こしている混乱、だと感じている。
「商標の使用」≠「言葉としての使用」であることを、まずは銘記して欲しい。
2.商標が保護される理由について
商標は、「選択物」だと言われる。これは、同じ産業財産権法の概念である「発明(特許法)」「考案(実用新案法)」「デザイン(意匠法)」が「創作物」と言われるのとの対照として言われる。
後者、つまり「発明」「考案」「デザイン」といった創作物は、これら自体が創作物ゆえに保護対象とされる。
一方、商標法において保護対象とされているのは、実は「商標」それ自体ではなく、その「商標」に化体している「業務上の信用」である。
そのマークやネーミング自体の創作性が商標法における保護価値なのではない。
※ネーミングやロゴデザインの創作性に価値が無いと言っているのではない。飽くまで法律の建付けとしての保護対象はマークそれ自体ではない、ということだ。
だからこそ、使用していない商標は不使用取消の対象となり得るし、ヘビーユースされた結果周知になっている商標は、その化体している業務上の信用が大きいがゆえにより厚い保護を受け得る。
使用していない商標は、要保護性が低いことになる(ここでいう「使用」が、単に言葉として使っている、という意味ではないことは、くどいが再度述べておく)。
3.番組の一コーナーでの用語は「商標の使用」にあたるか?
さて、「ナカイの窓」で問題となった人気コーナーの名称「断捨離の窓」。
一コーナーの名称として用いることが、例えば指定役務「放送番組の制作」についての商標の使用に該当するか、については議論があると思われる。
キー局としてのインパクトの大きさ(というより本来払うべきコンプライアンスへの注意と、当否を措いておいたとしても考慮すべきリスクマネジメント)を考えれば、少なくとも注意して採否検討すべき名称であることは確か。
“「商標の使用」にあたるか?”と私も書いたけどこの表現は実は十分ではなく、“指定商品(又は指定役務)○○についての「商標の使用」にあたるか?”を検討する必要がある。
上述の各登録商標のうち、問題となりそうな指定役務として考えられるのは「放送番組の制作」と思われたので上にそのように書いた(或いは、「放送番組の制作における演出」あたりか?)。
ただし。
上記の考慮にあたっては、「その商標がオリジナルの造語であるか」という点は考慮の外だ。
商標の使用にあたるかの判断と商標のオリジナリティとは、少なくとも理論上は関係が無い。
※オリジナルな言葉を勝手に使われた、ということに関する感情的な憤りは生じるかもしれないが、それは「商標の使用」や「商標権侵害」の話ではない。
ともあれ、結果的には番組自体が終了になったわけで、『係争』状態は解消されたものと思われ、結論は判らない。
4.オリジナリティは保護価値が無いのか?
上記整理のように、少なくとも商標法の世界では、“その言葉が造語だから”保護される、ということはない。
それどころか、仮にその言葉を商標として、登録している各指定商品/指定役務について使用をしている事実が一定期間無い場合、不使用取消審判の対象にもなり得る。
※もちろん、エッジの利いたコンセプトを世に提示する、その旗印として「断捨離」を位置付けていること自体は価値があることだし、それを支持したり共感したりする人も多数いると思う。その「実質」と、商標法の「枠組み」とは、必ずしも一致はしない。
5.「断捨離」は、もはや普通名称化しているのではないか?
言葉は生き物であり、その性質は時代と共に変化していく。一旦登録を受けた商標であっても、またもともとは「造語」であったとしても、その後の使用の仕方が上手くなかったがゆえに誰もが好き勝手に使用することになり、結果として特定の出所を表示するものとして認識されなくなると、「普通名称化」したものとして権利行使に制約が生じる(商標法第26条第1項第2号)。
だからこそ権利者は、普通名称化しそうな使い方をしている他者に対してそうした使い方を止めるよう申し入れをしていく他、それが登録商標である旨周知するという労力を取らなければならなくなるケースがある。
本件のように、商標法の使い方として“コンセプトの浸透のため”のように使っている(と思われる)場合、意外とその手間は軽くない。
6. 所感
当職としては、「断捨離」というコンセプトが(権利者が思うところの)正しく世間に広まることを望むこと自体、当然のことだと思うし、その一手段として商標登録を活用することは適切だと思っている。
権利者ご本人がサイトで記していることも、法律上間違っていない。
敢えてミスリーディングな表現(=「明確厳格な基準を設けており、許可無く使用することはできません。」)もあるように思うが、許容範囲かな、と思う。
「騒動」と書いたけど、むしろ第三者が誤解して
“「断捨離」は登録商標”→“言葉として勝手に使ったら商標権侵害”という誤解を拡散している、というのがどうも実体のよう。
・指定商品/指定役務について第三者が正当権限なく登録商標の使用をする行為 →これは商標権侵害なので差止・損害賠償請求等の対象となり得る
・指定商品/指定役務とは関係なく登録されている商標と同じ言葉を用いる行為 →これは商標権侵害ではない。ただ使い方によっては普通名称化を助長し、商標権者の利益を損ねる可能性もあるので、商標権者としては是正の申し入れをすることはあり得る
ということ。このあたりがもっと理解されるようになると、要らぬ騒動は生じずに済むのだよな、と思う。
梅雨の晴れ間の夕焼けが見える、現在の@湘南地方です。
さてさて、標記商標の件。
今に始まった話ではないけど色々と物議を醸しているようなので、
一専門家として縷々コメントしてみる。
関係する最近の記事はこちら。
(NEWSポストセブンより引用)
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『ナカイの窓』が「断捨離」使用でトラブル、終了にも影響か
中居正広(46才)が司会を務めていた『ナカイの窓』(日本テレビ系)が今年3月で終了すると発表された時、どうしてこんな人気番組が、といぶかる声も大きかった。突然の終了の裏にあったのは、たった1つの言葉を巡った騒動だった。
…(中略)…
『ナカイの窓』が抱えていたトラブルとは何か。事の発端は同番組の人気コーナー『断捨離の窓』だったという。司会の中居と4人のゲストが、世の中の無駄なもの、いらないものについて語り、不要なものを減らす『断捨離』を提案するという内容だった。
昨年8月の放送だったのですが、『アイドルの長すぎる自己紹介』や『「サイトウ」という苗字の漢字のバリエーション』までズバズバ切り捨てていく内容が好評で、このコーナーの視聴率は10%を超えました。昨年10月には第2弾が放送され、またも高評価でした。すぐに第3弾が検討されましたが、それ以降、放送されることはありませんでした。『断捨離』というワードをめぐり、番組が訴えられたからです」(前出・日本テレビ関係者)
(以下略)
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(引用終わり)
で、今回の商標権者が保有する「断捨離」の登録商標は全部で5件。
・第4787094号:第41類(セミナーの開催 他)
・第5412928号:第9,16類(電子応用機械器具及びその部品,印刷物 他)
・第5582468号:第3類 (化粧品 他)
・第5909022号:第5,7,11類他 計13区分 (薬剤、食品関係、その他各種サービス)
・第5948115号:第14,18,20類他 計7区分 (貴金属、かばん類 他)
とまあ、相当広範にわたって登録をしている。
なるほど、こういう状況で第三者が勝手に「断捨離」“という言葉”を使うと、あたかも権利侵害であるかのように思う向きは多いだろう。
まして、例えばこういうサイトで権利者自身がこの言葉に込めた思いを持っていて、そのコンセプトを乱すような行為は排除したい、という気持ちはわからなくもない。
だけどちょっと待って欲しい。
巷で言われているような、“だから「断捨離」という言葉を使うことそれ自体が権利侵害なのだ”という捉え方は、大いに誤解がある。
また、権利者本人が上記サイトで、「明確厳格な基準を設けており、許可なく使用することはできません」と主張している点について、主張は自由だが法はそれを必ずしも担保してはいない。
1.商標法上の「使用」について
法上(=条文上)、「商標の使用」は積極的に定義はされていないが、
形式的には商品それ自体や商品/サービスの提供に供するものに商標を付する等の行為(商標法2条3項各号に掲げる行為)を言い、
実質的には商品/役務(サービス)との関係において商標の機能を発揮させる状態に置くことをいう。
途端にややこしい話に聞こえるかもしれないが、要は、
登録されている「マーク(ここでは「言葉」)」そのものを用いることだけでは商標法上の「使用」には該当しない(したがって商標権侵害にも該当しない)。
飽くまで、その「マーク(ここでは「言葉」)」が、商品/サービスとの関係で取引者・需要者に“商標だと認識される状態”におくことが商標法上の「使用」なのだ。
言い換えれば、商標法/商標登録は「言葉狩り」の道具ではない。
※この辺りは、「使用」という言葉が独り歩きしている状態が引き起こしている混乱、だと感じている。
「商標の使用」≠「言葉としての使用」であることを、まずは銘記して欲しい。
2.商標が保護される理由について
商標は、「選択物」だと言われる。これは、同じ産業財産権法の概念である「発明(特許法)」「考案(実用新案法)」「デザイン(意匠法)」が「創作物」と言われるのとの対照として言われる。
後者、つまり「発明」「考案」「デザイン」といった創作物は、これら自体が創作物ゆえに保護対象とされる。
一方、商標法において保護対象とされているのは、実は「商標」それ自体ではなく、その「商標」に化体している「業務上の信用」である。
そのマークやネーミング自体の創作性が商標法における保護価値なのではない。
※ネーミングやロゴデザインの創作性に価値が無いと言っているのではない。飽くまで法律の建付けとしての保護対象はマークそれ自体ではない、ということだ。
だからこそ、使用していない商標は不使用取消の対象となり得るし、ヘビーユースされた結果周知になっている商標は、その化体している業務上の信用が大きいがゆえにより厚い保護を受け得る。
使用していない商標は、要保護性が低いことになる(ここでいう「使用」が、単に言葉として使っている、という意味ではないことは、くどいが再度述べておく)。
3.番組の一コーナーでの用語は「商標の使用」にあたるか?
さて、「ナカイの窓」で問題となった人気コーナーの名称「断捨離の窓」。
一コーナーの名称として用いることが、例えば指定役務「放送番組の制作」についての商標の使用に該当するか、については議論があると思われる。
キー局としてのインパクトの大きさ(というより本来払うべきコンプライアンスへの注意と、当否を措いておいたとしても考慮すべきリスクマネジメント)を考えれば、少なくとも注意して採否検討すべき名称であることは確か。
“「商標の使用」にあたるか?”と私も書いたけどこの表現は実は十分ではなく、“指定商品(又は指定役務)○○についての「商標の使用」にあたるか?”を検討する必要がある。
上述の各登録商標のうち、問題となりそうな指定役務として考えられるのは「放送番組の制作」と思われたので上にそのように書いた(或いは、「放送番組の制作における演出」あたりか?)。
ただし。
上記の考慮にあたっては、「その商標がオリジナルの造語であるか」という点は考慮の外だ。
商標の使用にあたるかの判断と商標のオリジナリティとは、少なくとも理論上は関係が無い。
※オリジナルな言葉を勝手に使われた、ということに関する感情的な憤りは生じるかもしれないが、それは「商標の使用」や「商標権侵害」の話ではない。
ともあれ、結果的には番組自体が終了になったわけで、『係争』状態は解消されたものと思われ、結論は判らない。
4.オリジナリティは保護価値が無いのか?
上記整理のように、少なくとも商標法の世界では、“その言葉が造語だから”保護される、ということはない。
それどころか、仮にその言葉を商標として、登録している各指定商品/指定役務について使用をしている事実が一定期間無い場合、不使用取消審判の対象にもなり得る。
※もちろん、エッジの利いたコンセプトを世に提示する、その旗印として「断捨離」を位置付けていること自体は価値があることだし、それを支持したり共感したりする人も多数いると思う。その「実質」と、商標法の「枠組み」とは、必ずしも一致はしない。
5.「断捨離」は、もはや普通名称化しているのではないか?
言葉は生き物であり、その性質は時代と共に変化していく。一旦登録を受けた商標であっても、またもともとは「造語」であったとしても、その後の使用の仕方が上手くなかったがゆえに誰もが好き勝手に使用することになり、結果として特定の出所を表示するものとして認識されなくなると、「普通名称化」したものとして権利行使に制約が生じる(商標法第26条第1項第2号)。
だからこそ権利者は、普通名称化しそうな使い方をしている他者に対してそうした使い方を止めるよう申し入れをしていく他、それが登録商標である旨周知するという労力を取らなければならなくなるケースがある。
本件のように、商標法の使い方として“コンセプトの浸透のため”のように使っている(と思われる)場合、意外とその手間は軽くない。
6. 所感
当職としては、「断捨離」というコンセプトが(権利者が思うところの)正しく世間に広まることを望むこと自体、当然のことだと思うし、その一手段として商標登録を活用することは適切だと思っている。
権利者ご本人がサイトで記していることも、法律上間違っていない。
敢えてミスリーディングな表現(=「明確厳格な基準を設けており、許可無く使用することはできません。」)もあるように思うが、許容範囲かな、と思う。
「騒動」と書いたけど、むしろ第三者が誤解して
“「断捨離」は登録商標”→“言葉として勝手に使ったら商標権侵害”という誤解を拡散している、というのがどうも実体のよう。
・指定商品/指定役務について第三者が正当権限なく登録商標の使用をする行為 →これは商標権侵害なので差止・損害賠償請求等の対象となり得る
・指定商品/指定役務とは関係なく登録されている商標と同じ言葉を用いる行為 →これは商標権侵害ではない。ただ使い方によっては普通名称化を助長し、商標権者の利益を損ねる可能性もあるので、商標権者としては是正の申し入れをすることはあり得る
ということ。このあたりがもっと理解されるようになると、要らぬ騒動は生じずに済むのだよな、と思う。