【ワシントン=高見浩輔】米政府が偶発的な債務不履行(デフォルト)に陥るリスクが高まっている。連邦政府の借入限度額を定めた債務上限の引き上げを巡り、バイデン政権と野党の共和党との対立が続いているためだ。9日に協議を始めるが、主張の隔たりは大きい。財務省は資金繰りが行き詰まる「Xデー」が6月1日にも来ると警鐘を鳴らしている。世界の経済や金融市場に大きな影響を及ぼす米債務上限問題を3つのポイントでまとめた。
・なぜ、ここまで膠着している?
・デフォルト回避の手段は?
・実際にデフォルトした時の影響は?
(1)なぜ、ここまで膠着している?
米政府の債務は拡大の一途をたどってきた。上限の引き上げはその都度、連邦議会の承認が必要となる。引き上げに失敗した場合、政府職員の給与支払いや様々な行政サービスができなくなり「政府閉鎖」に至るだけでなく、国債の元利払いができないデフォルトに陥る。そうなれば、世界経済や金融市場への負の影響は甚大だ。
超党派の「責任ある連邦予算委員会」によると1917年に決めた115億ドル(現在の為替レートで約1兆5000億円)から2021年12月の31兆3814億ドル(約4230兆円)まで、一時停止を含めた上限の修正は第2次世界大戦後で100回を超える。
最近になって合意が困難になったのは、議会で二大政党の分極化が進んだためだ。米ピュー・リサーチ・センターによると1970年代前半に合計で160人以上いた穏健派議員は二十数人になった。歳出削減と減税の組み合わせで「小さな政府」を実現したい共和党を中心に強硬派が増え、手厚い財政と増税を主張する民主党との対立はこの半世紀でもっとも大きくなっている。
もし史上初の債務不履行が現実に起これば、政権と野党はどちらも傷を負うことになる。ただ先に譲歩してしまうと党内の強硬派や支持団体から批判を受ける。米政治は最後まで粘った方が勝つ「チキンゲーム」の構図にはまり込んでいる。実際に、バイデン政権は上限問題に無条件で協力するよう共和党に要請して交渉すらしない姿勢を貫いてきた。
直前の交渉で不慮の事故のように債務不履行に陥るリスクは例年になく高い。「債務不履行が迫る当日まで合意ができない可能性がある」(米ゴールドマン・サックス)が、米財務省は「Xデー」を正確に予測するのは不可能だと説明している。共和党が過半数を握る下院で、マッカーシー議長が党内を統率しきれていない点も懸念材料だ。
マッカーシー氏は強硬派の意見を取り入れながら、バイデン政権が決めた気候変動対策を削り、低所得層向けの公的医療保険「メディケイド」の受給要件を厳しくするなど10年間で4兆8000億ドルの財政赤字を削減する歳出削減案をまとめた。その条件で24年3月末までの時限措置で上限を停止するか、あるいは1兆5000億ドル引き上げる内容の法案を4月に下院で可決した。
議会で政府債務の上限引き上げを巡る交渉が難航しているため、新潟で開催される主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議に出席するイエレン財務長官は、周辺国への歴訪を控えて全体の日程を短縮した。
(2)デフォルト回避の手段は?
新型コロナウイルス禍に対処するための財政拡大で、債務は急速に膨張している。1月にはすでに上限に達したが、財務省が政府の基金の運用を変更するなど臨時の資金繰り策で債務不履行を避けている。
米国債の利払いや償還を決められた期日にできず、金融市場で債務不履行と認定されて信用の失墜を招く事態をどう避けるか。議論のなかでは上限引き上げ以外の「抜け穴」も取り沙汰されている。
たとえば財務長官が任意の額面でプラチナの記念貨幣を発行できる法律を活用した「1兆ドルコイン」が有名だ。政府がそれを米連邦準備理事会(FRB)に持ち込んで現金化する奇策だが、パウエル議長は「帽子からウサギが出てくる」手品にすぎないと受け取りに否定的な考えを示している。
南北戦争後の1868年に批准された合衆国憲法の修正14条を使うアイデアもある。敗北した南軍が抱えていた負債については責任を負わないと線引きするための条項だが、条文の最初に「公的債務の効力が問われてはならない」という前提が書かれている。これをもって、政権が議会の合意なしに債務の支払いを続けられると解釈する案だ。
バイデン氏は5日、米テレビMSNBCのインタビューでこの措置の可能性を聞かれ「まだそこまで考えていない」と発言した。イエレン氏も7日、米ABCで「憲法上の危機になる」と指摘した。この2人の発言を一部の米メディアは「完全に否定しなかった」と報じている。
もっとも、責任ある連邦予算委員会はこうした奇策について「本当に利用可能か疑問がある」と指摘している。憲法解釈を巡る法廷闘争が長期化するリスクがあるだけではなく、そもそも財政改善を放棄したような姿勢が米国債の格下げにつながる懸念もある。
(3)実際にデフォルトした時の影響は?
同じように債務不履行のリスクが高まった2011年は金融市場の混乱と米国債の格下げを招いた。米政府監査院(GAO)は引き上げの遅れが13億ドルの借り入れコスト増につながったと推計している。
実際に不履行になった場合、その影響は期間によって異なる。もともと支払い能力があるのに払えない「技術的な不履行」であるため、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは短期間で修正すれば小幅な格下げにとどまると見解を出している。
長期間になった場合の影響は甚大だ。米国債の大幅な格下げの影響は政府だけでなく、金融機関などに広く及ぶ。市場での金利上昇は自動車ローンやクレジットカードの利息などを通じて家計に打撃を与え、企業の投資は減速する。
米大統領経済諮問委員会(CEA)の試算では不履行が長期化した場合、7〜9月期には830万人の雇用が失われ、実質経済成長率は年率で6.1ポイント下押しされ、失業率は5ポイント上昇する。
米国債は「無リスク」の資産とみなされ、世界の金融取引の中核となっている。グローバルな金融機関などがリスクをとれなくなれば市場が混乱し、新興・途上国からの資本流出を招く恐れもある。
米国債市場では警戒が高まっている。イエレン氏の警告もあり、6月初旬に満期を迎える短期国債の利回りが、その前後の時期に比べて目立って上昇している。デフォルトに備えるデリバティブ(金融派生商品)のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率も高止まりしたままだ。
米経済はただでさえ高インフレを背景にしたFRBの歴史的な利上げで銀行が相次ぎ破綻し、景気後退の到来が予想されている。欧州は主要国がマイナス成長に陥り、相次いで危機に陥る途上国を国際社会が一致して支援できるかどうかが問われる局面だ。
議会の都合で世界的な大混乱を引き起こした場合は、米国の統治システムそのものに対する信頼の低下が避けられない。
日経記事 2023.05.08より引用
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