月面基地のイメージ=JAXA提供
日本人宇宙飛行士が早ければ2020年代中に月面に降り立つ。
米国を中心に日本も参加する月探査「アルテミス計画」で日本人宇宙飛行士を月に着陸させることを明記した文書が、日米間で近く調印される見通しだ。単に月面に降り立つだけでなく、月で資源開発などに役割を果たせるのかも重要になる。
継続的に月に滞在
アルテミス計画では、まず26年にも男女2人の米国人宇宙飛行士が月に着陸し、その後も28年以降に年1回のペースで宇宙飛行士を月面に着陸させる計画だ。
ここに日本人宇宙飛行士が参加し、日本人として初めて月に着陸することになる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は日本人宇宙飛行士の月着陸を視野に13年ぶりに宇宙飛行士候補を募集。23年2月に諏訪理さんと米田あゆさんが選ばれた。
宇宙飛行士候補の米田あゆさん㊧と諏訪理さんには月面着陸の期待がかかる(2023年2月)
アルテミス計画は月に基地を建設し、宇宙飛行士の継続的な滞在を目指している。月の開発や科学研究に取り組むことに加え、火星や小惑星といったより遠い天体に向かう中継拠点として活用する狙いもある。
かつてのアポロ計画のように月に着陸すれば目的達成というわけではなく、着陸後の活動が重要だ。
月面探査で最優先課題とされるのは水の探索だ。月のどこにどれだけの量があるのかを確認し、資源として活用する世界的な競争が始まっている。
水は飲料などに使えるだけでなく、水素と酸素に分解してロケット燃料やエネルギー源として利用できるからだ。月でロケット燃料を調達できれば、火星などに向かうロケットの燃料に利用して宇宙開発のコストを引き下げる役に立つ。
月面探査に企業も参画へ
23年に改訂された日本の宇宙開発の基本方針を示す宇宙基本計画でも、月面探査について「水資源を含めた資源探査やそのための基盤整備を進めると同時に、民間の参画を促し国際競争力を獲得することが必要」とした。
JAXAはトヨタ自動車などと宇宙飛行士が搭乗する月面探査車の開発を進めるが、月に降りた宇宙飛行士が探査車などを活用しながら水資源の探索・開発にどれだけ存在感を示せるかが焦点になる。
2040年代には月に1000人規模の都市が誕生するとの予測もある(月面基地のイメージ)=JAXA提供
水資源の開発が順調に進めば40年代には1000人規模の月面都市が誕生するという予測もある。
そうなると宇宙飛行士の居住や科学研究だけでなくロケット燃料の製造などの経済活動が月面で本格化する。日本では政学産が協力して月面産業ビジョン協議会を立ち上げ、世界に先駆けた取り組みを始めている。
建設・プラント業や生活産業など従来は宇宙と関係がなかった幅広い産業が参加する月面経済圏が形成され、経済のけん引役の一つになる期待も大きい。
日本人宇宙飛行士の月面着陸が実現すれば、国民の士気高揚につながることは間違いない。しかし月面探査の目的はアポロ時代の国威発揚から経済開発へと焦点が移っている。
単に日本人の月面着陸を目的にするのではなく、その先の月面経済圏の成長をいかにリードしていくかが重要になる。